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SF映画小説『Summer Time 雨に消えた男』Vol.1

< クラシックコンサートホール>

上品な照明に浮かび上がったステージの上で、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、ピアノという編成の「ピアノ五重奏」ユニット、”マジカル・クインテット”が、一糸乱れず演奏している。

ピアノだけが少し奥の位置で、マリンブルーのロングドレスの女性・純夏美(すみなつみ・22)が弾いており、あとの4人はその手前で黒いスーツを着て、ボウイング=弓で弾いている。
男たちのあいだから、夏美の白い腕、軽やかに鍵盤を叩く細長い指が見える。
その姿は、”音楽のミューズ”であるかのように可憐だ。
観客たちは夏美の“育ちが良く、理知的で美しい表情をもっと見たい”と思いながら、耳障りの良いピアノのメロディを追いかけている。
夏美のウエイブをかけた長い黒髪が、音楽と共に揺れている。

良く知られたシューベルトの「鱒」の旋律を、満席の客の耳は、追いかけている。

第3楽章が終わり、数秒間の沈黙を置き、夏美が、自分からは右斜め後ろのバイオリン井坂恭二(25)に目配せをすると、最もポピュラーなフレーズの第4楽章が始まる。
恭二がメインメロを弾くと、チェロがすぐ後を追い、アンサンブルが始まる。
曲は観客の心を、更にぐっと捉え、舞台と客席の垣根を越えて、会場が一つになり、経験したことのないくらいのクォリティの高い”音楽”が結晶した。
やがて演奏はフィナーレを迎る。

会場からの、割れんばかりの拍手に、立ち上がって応えるメンバー。
紅潮し、満足そうに目を交わし合う恭二と夏美。

<コンサートホール・楽屋>

メンバーはそれぞれの楽器の手入れをしたり、訪ねてきた友人と談笑したりして、成功したコンサートの余韻に浸っている。
夏美は、恭二の傍にいる。恋人同士であることはメンバー公認だ。

恭二「打ち上げ会場って、どこだっけ?」

夏美「このあとすぐクラップスよ、なに惚けてるのよ」

ビオラ「喉乾いたぁ、早くビール飲みてえ!」
その声に、賛同で盛り上がる一同。

スーツ姿のマネージャー、本間正徳(48)が慌てた様子で入って来た。
本間「みんな、静かに、静かに聞いてくれ」

コントラバス「なんだよぉ」

本間「聞いて驚くなよ」

恭二「何もったいぶってんだよ」

本間は、内ポケットから書類を出す。
「これだよ」

夏美「それ、何?」

本間「ザルツブルク音楽祭の招待状だよ!」

恭二「ザルツブルクって、あの?」

チェロ「招待状って、まさか?」

本間「そう! マジカルクインテット様に、演奏の依頼だよ」

夏美「うそっ」

本間「モーツアルト劇場で演奏してくれ、だとさ!」

恭二「そりゃぁ!・・・シューベルトに申し訳ない!」

大笑いして、意気あがる一同。
恭二と夏美、ぎゅっと抱きあって喜んだ。

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<夏美の部屋>(実家)

グランドピアノが堂々と置かれ、その上に一枚のエアチケットが置いてある。
恭二がそのチケットに目を落とし、つまらなそうに鍵盤をたたく。「鱒」を・・
「やっぱり、オレ、行きたくないよ」

目の前に広がった夏の庭を見ている。こんな豊かな景色を見て、夏美は育って来たんだな。

その背後に、右腕にギブスをした夏美が近づいてきて、
「ナニ子供みたいなこと言ってるのよ。チャンスじゃない」

恭二「夏美が一緒じゃないとさ。俺たちダメなんだよ」

夏美「私だって行きたいけど、これじゃあ・・」
と、右腕を少し上げる。何度も言って、言い飽きてしまった言葉だが、言うことによって気持ちを抑えてきた。夏美が大人になろうとして言っているのが分るから、恭二は子供っぽいことを、わざと言う。

恭二「あーあ。ついてないよなー」

夏美「そんなことないって。ピンチヒッターの森田先生は私よりずっと上手でらして・・・何より私にピアノを教えてくれた方だし・・・ご自分のキャリアなんか気にされないで、私たちのユニットを理解して下さって、快く代わりをして頂けることになったんだから」

何度も何度も、自分に言い聞かせた言葉だった。敬語が噛みそうになってしまうけれど・・・森田先生、ありがとうございます。

恭二「わかってるけどさ、そんなことじゃないんだよ。森田先生が素晴らしいプレイヤーだってことは間違いないんだけど‥‥」

夏美「けど?」

恭二「夏美じゃないんだよ」

夏美「(苦笑)あたりまえじゃない」

恭二「オレだけじゃなくてさ、みんな言ってるんだよ。夏美がメンバーにいると、何か違うって」

夏美「何かって?」

恭二「君と一緒だといろんなパワーが湧いてくるんだよ。それにつき動かされるように弾けるんだ」

夏美「それが恭二の才能よ」

恭二「いや、夏美のおかげだよ。夏美と出会ってから、楽器も作曲も、更にうまくいくようになったんだから」

夏美「もともと才能があったのよ」

恭二「君に会えなくなるなんて考えただけでもおかしくなりそうだ」

夏美「お別れみたいな言い方、やめて」

恭二「一ヶ月も離れ離れなんて」

夏美「あんなに喜んでいたくせに」

恭二「腕を折っちゃうなんて・・・」

夏美「・・・運がないのよ」 

あのとき、もうちょっとだけ注意していれば・・・打ち上げで酔っ払ってしまい、興奮で夜道を走り、走ってきた車を咄嗟によけて転んだ。ぶつからなくて本当に良かった、と何度も思った。不幸中の幸いだって。でも、幸いなんかじゃない・・・

恭二は、ちょっとふてくされた様子で離れた夏美を追いかけ、後ろから抱きしめ、振り返った夏美にキスをした。
早くして欲しかったキスに応える夏美。甘える。
甘美なキスが、夏美の全身を恍惚とさせる。
ああ、このキスが1ヶ月も無いなんて・・・

「愛してる」「愛してるよ」・・・キスしながら、二人は言い合った。

夏美、母親から譲られた自分のネックレスをはずして恭二の首にかける。
「私の代わり・・・母も祖母からもらったのよ」

恭二「‥‥うん」
夏美の髪をもてあそびながら、
「これも少しだけ欲しい」

夏美「え?」

恭二「身に付けていれば、君が一緒に演奏していると感じれると思うんだ」

夏美「(苦笑)ちょっと、ヘンタイっぽくない?」 でも、嬉しい。

恭二「だめ?」

夏美、テーブルからハサミを持ってきて恭二に渡す。
「利き腕使えないから」

恭二「うん」

夏美「目立たないくらいにしてね」

恭二「ほんのちょっとでいいんだ」
と、夏美が束ねた髪を数センチ切った。

<国際空港へのリムジンバス乗り場>

すでにバスには3人のメンバーが乗り込んで夏美に手を振っている。
バスのクルーが楽器をトランクに運び終えた。

恭二「ここにあるよ」 と、自分の胸を叩いて見せた。夏美の髪の毛。

夏美、少しだけ不格好になった自分の髪を気にして触る。
「恭二さん、愛してる」

右腕のギブスには、恭二が書いた落書き「アイ♡夏美」が見える。

恭二「僕も愛してる、夏美」
ぐっと、二人は抱き合った。

残りのメンバー、3人は、目をアチコチにむけた。


動き出すリムジンバス。


夏美、去ってゆくバスの背後に向かってもう一度言った・・・「愛してる」

<総合病院・形成外科>

腕のレントゲン写真を医師と一緒に観ている夏美。
「来週にはギブスが取れますね」と、医師が言う。

夏美「(ため息)もっと早く くっついてくれればなあ」

医師「(苦笑)こればっかりは仕方ないですね」

夏美「ええ」 苦笑い。

< 総合病院のロビー>

出口に向かっている夏美、ロビーに置かれたテレビに、人だかりがしているのに気が付いた。まだスタンダードサイズの時代だ。

夏美「?」

テレビは臨時ニュースを放送している。
近づいていく夏美。

ニュースキャスターの声「──東京成田発オーストリアウィーン行きのオーストリア航空57便が──」
夏美「!」

<テレビのニュース>
ニュースを読み続けるキャスター。
「・・北極海上空で消息を絶ちました。ロシアウラジオストクのレーダー基地によると、同機はロシア領内である北極海上空でレーダー上から姿を消したと発表─」

<フラッシュバック>
恭二のピアノの上に合ったエアチケットがフラッシュバック──Austria 057の文字が読める。

夏美「!」

病院の患者、職員らがテレビの前で足を止めてニュースを見ている。
テレビ画面には乗客者名簿が映し出されていく。

カタカナで書かれた日本人の名前の中に「イサカキョウジ」が表示。

夏美「!!‥‥」

<メディアの様々な情報>
夏美の目と耳に、テレビや新聞の情報が流れ込んでくる。
「237名の乗客乗員絶望か!?」「18名の邦人」「ロシア海軍が機の一部を北極海上で発見」
キャスターの声「・・日本人乗客の中の殆どはオーストリアのザルツブルク音楽祭に招待された楽団の関係者と見られています。中でもバイオリニストの井坂恭二さんは一昨年の国際クラシックバイオリンコンクールで最優秀賞を受賞し、将来を有望視されていたバイオリニストで・・」

バイオリンを演奏している恭二がテレビの画面に映し出されている。
その映像の中には、楽しそうにピアノを演奏している夏美の姿もある。

< 夏美の家・全景>

格子のある門前に車が止まり、両親に支えられて喪服の夏美が降りて来る。

<夏美の部屋>

両親に抱きかかえられるように入って来た夏美、ピアノの前に崩れる。

夏美「嘘・・嘘だわ・・」

父親「夏美、気をしっかり持て」

母親「無理よ、お父さん」

ギプスの「アイ♡夏美」が目に入る。

夏美「恭二さんは死んでなんかいない。絶対に帰ってくる」
左手をピアノに叩き付ける。

ダーン!という音と共に、画面暗転、黒バックになる。そこへ・・・

メインタイトル『Summer Time 雨に消えた男』

夜の街に降る雨が、タイトル文字を溶かして流れていき、ジャズ”Summer Time"のサックスによる音楽が流れてくる・・・

<ウォーターフロントのジャズバー・「ステージドア」前>

雨音に紛れて階下のバーから”Summer Time"生演奏の音が聞こえてくる。
出演者のボードに「純夏美(piano)」の文字が見える。

<「ステージドア」ステージ>

高級なジャズバーで、上質のお客達はジャズバンドの演奏を聴きながら、静かに思い思いに飲んでいる。
バンドはサックスを中心にしたクァルテットで、ピアノを弾いているのは、ショートヘアになり、大人っぽくなった夏美だ。

タイトル「10年後」

サックス奏者の坂西崇(35)は夏美を見つめるようにアドリブを吹いている。
夏美にも笑みがこぼれる。
が、その笑顔はどこか寂しそうだ。

時間経過があり、演奏は終わっている・・・

時計は深夜を過ぎ、客の殆どは帰ってしまっているが、崇がバーでマスター相手にウィスキーを飲んでいる。
スタッフに挨拶しながら夏美が崇の側にやってきて、
「何杯目?」

崇、指を三本あげる。・・・四本になる。

夏美「(呆れ)崇、ライブの度にこれじゃ・・」

崇「だいじょぶ。ギャラ以上は飲まないからさ」

夏美「そういう意味じゃないでしょう。もう帰るわよ。(マスターに)お勘定」

マスター、いらないとジェスチャー。

夏美「だめよ、マスター」

崇「イイって言ってんだからさ。マスター、俺のファンだもんな」

夏美「そんな」

マスター「ほんとですよ」

崇「なっ」

マスター「坂西さんのサックスは素敵ですよ。もちろん、夏美さんのピアノも、ですが」

崇「(微笑んで頷く)」

マスター「最近ますます冴えている。夏美さんと組むようになってから、より・・夏美さんのピアノが坂西さんのプレイを際立たせていると思います」

夏美「・・・」

崇「そうなんだ。コイツ(夏美)のピアノじゃないとうまくいかないんだよな」

夏美「・・・」 聞いたことのある言葉ね・・・崇は初めて言うんでしょうけど。

夏美、何かを振り払うように、
「さ、帰りましょ」

崇「ああ‥‥」
と、グラスに残っていた酒を一気に飲み干す。

< 「ステージドア」・表>

土砂降りの中へ出てくる夏美と崇。

崇「うわっ、ひでえ雨だな」

夏美「タクシー拾えるかしら」

通りの向こうに傘も差さずに立っているコートの男の影がある。誰なのか・・・?

黒いタクシーがやって来るのを見つけ、夏美が手を上げる。止まるタクシー。
乗り込もうとする夏美と崇。

崇を先に乗せ、後から乗ろうとした夏美が、目の端に感じた男の存在を、無意識に確かめようと、通りの向こう側に目をやるが、そこに人の姿は無い。

夏美「?」 と、なりながら、タクシーに乗り込む。

水しぶきをあげて発車する黒いタクシー。

夏美らの乗ったタクシーとは色違いの黄色いタクシーが、やはり大きな水しぶきを上げてすれ違い、逆方向に走ってゆく。

<夜の街・ラブホテルの前>

黄色いタクシーが停まり、若いカップルが降りてくる。
きゃっきゃと笑って雨をよけながら、腕組んでホテルに入っていく。
男・・ツバサ 女・・ミカ

排水口に大量の雨水が流れ込んでいる。

<ホテルの部屋>

ミカ、急いで服を脱がそうとするツバサを制して、バスルームに向かう。

「いい子は、待ってなさい」

「は〜い」
ツバサ、手持ち無沙汰にテレビをつける。

<同・バスルーム>

ミカ、素裸なってシャワーを浴び、ソープを使う。
ピチピチの白い肌が、湯をはじく。
これから、ツバサに抱かれる・・・どんなセックスするんだろう・・

排水口に流れていく泡混じりの水。

ミカ、豊かな胸をソープで洗う・・・

・・・・排水口から水が逆流しはじめるが、ミカは気が付かない。
やがて、その排水口から、ドロッとしたアメーバ状のものが溢れてきて、床を這う。あたかも意識を持っているように見える。半透明だが、赤く見える。

ミカ、下半身を洗う。長い脚に、湯が流れてゆく。

赤いアメーバのような液体、どんどん広がって大きくなり、やがて壁を伝ってミカの方に近づくが、ミカは気が付かない。
 ×   ×   ×   ×
ベッドルームのツバサは、のんきにテレビを見て笑っている。
 ×   ×   ×   ×
赤いアメーバ、ミカの脚にからまる。
ミカ、気がついて、ビクッとして足下を見ると、恐怖の表情で息を呑み、叫び声をあげそうになる。
 ×   ×   ×   ×
テレビにも飽きたらしいツバサ、
「遅えーな」
と立ち上がる。
 ×   ×   ×   ×
ツバサがドアをそっと開けてゆくと、赤いアメーバの尾っぽの部分が、排水口からスルスルっと流れ出ていくところだった。
それを見ていないツバサ、ニヤニヤしながらバスルームに入ってきて、
「いつまで入ってんだよぉ、我慢出来ないよぉ、俺、いい子じゃないから」

だが、バスルームには誰も居ず、床に落ちたシャワーからお湯が吹き出している。

ツバサ「?……え〜??」 ツバサを恐怖が襲う。

<吉野家・全景>(翌朝)

< 夏美の部屋>

模様替え等されており、十年の歳月を感じさせる同じ部屋。
奥のベッドルームでは崇が酷い寝相で寝ている。

頭を拭きながら、ガウンの夏美が、そのベッドルームに入ってくる。

夏美「おはよう」

崇「‥‥ん? 何時?」

夏美「もうそろそろ十時。ご飯は?」

崇「んー、いいや。頭痛いし」

夏美「だから言ったじゃない。飲みすぎないでって。教室、何時からだっけ?」

崇「‥‥実は俺、辞めたんだ」

夏美「え?」

崇「向いていないんだよ。人に教えるの」

夏美「相談ぐらいしてくれても」

崇「だよね。言おうと思ってたんだけどさ」

夏美「‥‥」

崇「大丈夫、仕事のあてはあるから」

夏美「私も相談したいこと、あったんだけど」

崇「なに」

夏美「ここ売って、引っ越そうかと思って」

崇「エッ……俺と別れんの?」

夏美「馬鹿ね、一緒に住むところを探すのよ」

崇「いいのか?。思い出の家なのに」

夏美「まとまったお金が必要でしょ」

崇「そうか……俺も稼がないとな」

夏美「リハには遅れないでね」
と、立ち上がり、出て行く。

崇「分かりましたあ」
と二度ベッドに突っ伏してしまう。

<玄関の近く>

棚の上には両親と恭二の写真が飾られている。
夏美「(写真を見ながら、二階の部屋にも聞こえるうように)行ってきまーす!」

< 子供の音楽教室>

子供たちにピアノを教えている夏美。

< 夏美の部屋>

崇、だらしなく起きてきて水を飲む。
携帯の着信音。

崇「!」
脱いであったジャケットから携帯を取って出る。

「もしもし‥‥あ、連絡しようと思ってたところなんです。(苦笑)本当ですって。はい‥‥」

<ステージドア・前>(夕)

出演者のボードには夏美達のバンドの名前があるが、店のネオンは点いていない。

<ステージドア・ステージ>

夏美たちのバンドがリハーサルをしている。
夏美、演奏しながら崇の顔に殴られたような痣が気になる。
 ×   ×   ×   ×
演奏を休憩して話しあっているバンドメンバー。

夏美「(崇に)どうしたの、それ?」

崇「昨日、転んじゃってさ」

夏美「嘘。朝は無かったわよ」

崇「(言い逃れ)昨日じゃなかった、さっき」

夏美「……」

<ステージ本番>

崇はサングラスをかけて演奏している。
演奏はスイングして、客の反応も良い。

<ステージドアの前>

ライブが終わり、表に出てきて他のメンバーと別れる夏美と崇。

崇「(目の痣を気にしながら)嫌な雨だな」

夏美「ホントにそれ、どうしたの?」

崇「だから、転んだんだって」

夏美「昨日だって携帯つながらなかったし」

崇「‥‥地下にいたから‥‥」

夏美「‥‥(聞くのを諦め)帰ろ」

崇「うん」

タクシーを拾おうとする夏美、通りの向こうに昨日と同じような人影を見つける。
車のライトが人影の顔を照らすと、それは井坂恭二のものだ。

夏美「!」 恭二さん、まさか!

崇「!?」 え?、どうした?

男の影、その場から歩き出す。
夏美、思わずその後を追う。

崇「夏美!」

<人気の無い地下道>

道路と舗道に分かれた地下道で、走って追ってきた夏美、見失う。

夏美「・・・(落ち着いて、自嘲)まさかね」

夏美、諦めて来た道を戻ろうとする。
すると目の前に恭二が立っていた。その姿は、10年前と変わらない。まったく歳をとっていない。

夏美「!!・・恭二さん?」

恭二「夏美」

夏美「・・ほんとに、あなたなの?」

恭二「うん」

夏美「どうして」

恭二「僕自身にも分からない」

夏美「生きてるのね?」

恭二「ああ。幽霊じゃない」

夏美「恭二さん」

恭二「僕は君に会いたい一心で今こうして、いる。それだけだ」

夏美「・・・」

地下道の入り口から崇の声がする。

崇「(声)夏美!」

恭二「たとえどんな事になっても、君への気持ちは変わらない」

夏美「!」

崇がこちらに走ってくる。
その崇を追い越すようにトラックが向かってきて、

ヘッドライトが恭二の姿を飲み込む。
トラックが走り過ぎると恭二の姿も無い。

夏美「!? 恭二さん?」

崇、駆けつけて。
崇「どうしたんだよ、いったい」

夏美「恭二さんがいたの」

崇「えっ!?」

.....to  be continued

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