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SF映画小説『Summer Time 雨に消えた男』Vol.3/

前回までのあらすじ

クラシックピアニストであった純夏美だが、恋人のバイオリニスト井坂恭二を飛行機事故で失って10年後、ジャズバーでサックス奏者・坂西と演奏し、同棲していた。ある大雨の日、恭二が夏美の前に、10年前と変わらぬ姿で現れ、混乱のうち家に帰ると、排水口から逆流して来た赤いアメーバ状の生物に襲われて気絶した。が、青いアメーバが夏美を助けるように赤いアメーバを無力化して去った。死骸となった赤いアメーバを調査に来た自称保健所職員・寺塚周平は、それを持って黒川探偵事務所に行き、所長・黒川哲也の千里眼によって、この物体に細胞があることを確認。また、残留思念を読み取れる女子大生・小林夢乃も、赤いアメーバにラブホテルで襲われた女の思念を、黒川に伝えた。調査機関の報告によると、アメーバの染色体は、人間の数と同じであった。


< 夏美の寝室>(夜)

あの大雨の日から、数日経った今日も、細かい雨が降っている。
その音を聞きながら、夏美と崇はベッドにいる。

あの夜、保健所員と名乗る男が去った後、やっと、奇妙な物体が無くなった安心感で、夏美は崇とベッドに入った。が、お互い背中を向けあい、少し距離を置いていた。それからも、暫くはその状態だったが、日々、少しづつ、二人の距離は近づき、今日は、雨の音を聞きながら、夏美が、きちんと言わなければ、と思い、崇に背を向けたまま、話し出した。

夏美「ありがとう」

崇「‥‥何が?」

夏美「戻ってきてくれて」

崇「何の話?」

夏美「あの夜のこと、ちゃんと話していなかったって思ったから」

崇「どの夜?」 と、寝返って、夏美の背中を見た。

夏美「あのドロドロしたものが出た・・」

崇「ああ・・」 ・・俺が見た時は、ドロドロしていなかったけど・・

夏美「崇がいたから、安心出来たの」

崇「オレは何もしてない‥‥でもあれ何だったんだろうね」

夏美「私の言ったこと、信じられない?」

崇「‥‥信じるよ。君が嘘を言うはずがない」

夏美は寝返り、向き直って、崇を見つめた。

「崇‥‥愛してる」

崇は、暗がりで、夏美の光る瞳を見て、激しい欲望に、グッと突き上げられた。
そして、夏美を抱き寄せ、数日ぶりのキスをした。
そのキスに夏美も応え、二人はかき抱きあい、求めあった・・・

<夏美の家の前>(夜)

細かい雨の中、夏美の部屋を見つめている男の影──恭二である。

< 夏美の部屋>(翌朝)

雨は止み、晴れ上がった空が見えている。
夏美と崇は、パン、コーヒー、サラダで食事をしている。

崇「勝手に仕事辞めたこと、怒ってる?」

夏美「ううん、そんな、怒ってなんかないよ」

崇「結果が出るまで、言わないつもりだったんだけどさ」

夏美「なに?」

崇「ほら、必ずしもうまく行くわけじゃないから」

夏美「? 何のことよ?」

崇「実はさ、曲を作ってるんだ」

夏美「え?」

崇「幾つかのデモを、知ってるプロデューサーとかに聞いてもらったらさ、評判が良くて、仕事になりそうなんだ」

夏美「ほんと? すごいじゃない」

崇が曲を作っていることは知っていたが、楽譜などは見せてもらったことは無い。

崇「うん」 少し顔がほころぶ。

夏美「ねえ、聴かせてよ」 崇の、その少し子供っぽい笑顔が可愛くて、好きだ。

崇「うん」 ようし、聴いてもらおう。
 ×   ×   ×   ×
ミニコンポのCDプレイヤーに手書きのCDRが装てんされ、演奏が始まる。
打ち込みのバックに、崇のサックスがメロディーを奏でている。
ジャズの雰囲気を持ちながら、新しさを感じるメロディーだ。

夏美「いいと思うよ」

崇「そう?」

夏美「崇、作ったんでしょ?」

崇「うん」

夏美「すごくいい」

崇「夏美のおかげだよ」

夏美「え?」

崇「夏美と一緒にいると、自然にメロディが湧いてくるんだ」

恭二との想い出の会話がフラッシュする。
 ×   ×   ×   
恭二「夏美と出会ってから、楽器も作曲もうまくいくようになったんだから」
 ×   ×   ×   
フリーズしたような表情の夏美を見て、崇は「夏美?」と呼びかけた。

夏美「‥‥!(我に帰り) 私が言うのもなんだけど、いけると思うよ」

崇「ホント?」

その音楽が作った小さな幸せのひとときを破るように、呼び鈴が何度も鳴る。
ちょっと苛立ったような押し方だ。緊急の荷物か?
夏美は「なんだろ?」
と、玄関に向かい、インターフォンを使うことなく、無警戒にドアの鍵を開けてしまった。
お嬢様育ちの、少し抜けているところかも知れない。

< 同・玄関>

夏美が扉を開けると、少しヤクザのような崩れた感じの男、伊原雄三(38)が立っていた。
伊原は、夏美をなめ回すように見て、気味が悪い。

伊原「あんたが、純夏美さん?」

夏美「どなたですか?」

伊原「(ニヤニヤして)奇麗だねえ」

夏美「‥‥どなたでしょう?」 
崇の知り合いだろうが、会わせてはいけないのかも・・・

伊原「いるんでしょ? 坂西崇」

夏美「え?」
と、とぼけようとしたが、崇の方から、慌てるように出て来てしまった。

伊原「(崇を見つけて手をあげた)よう!」

崇「こ、困るよ!」

伊原「困ってるのはこっちだよ」

夏美「(崇に)お知り合い?」

崇「うん、まあ」
と、伊原を夏美から遠ざけるようにして、玄関の方で、ひそひそ話そうとするが、伊原はわざと大きい声をあげた。
「何? 聞こえないよ。奇麗な彼女に聴かれちゃまずいことでもあんの?」

崇「(夏美に)ちょっと出かけてくる」
と焦って言って、夏美のことをもっと見たい顔で渋っている伊原を、家から連れ出して行った。
夏美は、心配そうに見送るしか無かった。

<近くの公園>

頭を下げて来た崇を、伊原はガツンと蹴飛ばして、崇は地面に転がった。
こいつを殴るのは、三度めだ。
崇にとって、痛みは大きく、苦しいが、朝の公園は、まわりに誰も、見ている人はいない、ということだけが、救いだった。
ここに来るまでに話した「作った曲が売れて、もうすぐまとまった金が入る」ということは、信用はされないまでも、何とか、伊原に伝わった。
倒れた崇を上から見下ろした伊原は、金がすんなりとは入らない苛立ちを、ほんの少しは解消出来て、立ち去った。

<夏美の家の前の通り>

停めてある車に乗ろうとした伊原が見上げると、二階の窓から、夏美が怪訝そうに見ていた。あの窓からは、さっき坂口を蹴った公園は見えない。坂口のためには、幸いだったろう。あんな美味しそうな女に愛されて、いい気なもんだ。セックスもいいにちがいない。金が足りなかったら、あの女のカラダをもらおう。

伊原は、夏美にふてぶてしく笑い、会釈して車に乗って去った。

夏美「‥‥」

伊原が二階を見上げた位置は、昨夜、恭二が見上げていた位置と同じであった。

<湾岸警察・捜査二課>

栗原刑事が野田刑事のデスクの上に、随分と古いコンサートのチラシを置いた。
「マジカル・クインテット」とあり、日付は10年前だ。

それを見た野田「え?・・なに?」

栗原「先日の、行方不明者の身許を調べてたらですね、全員がこの楽団と、何らかの関わりがあることが分かったんですよ」

栗原を見上げた野田「楽団となんらかの関わりって、なに?」

栗原は、続けて、行方不明者のファイルを三枚、机に置いて広げ、
「(中年女の写真を示して)この女性は楽団マネージャーの奥さん、(老年男の写真を示して)この男性は、ビオラ担当のメンバーの実の兄、(若い女の写真を示して)こっちのラブホテルの女は、チェロ担当のメンバーの妹の娘、つまりは姪」
野田は、フンフンとうなづいたが、頭の中で、完全に整理は出来なかった。

野田「なるほど。そりゃ、偶然にしては凄い高い確率だがぁ・・・10年前だったら、まだやってるのか、調べたんだろうね」

栗原「この楽団はもう無いんです」

野田「解散したのか?」

栗原「10年前の飛行機事故で、一人を残して全員が死亡しました」

野田「ああ、あの、北極海で不明になったやつ。一人ってえのは?」

栗原「ピアノの女性です。ツアーには同行しなかったんです」

<黒川探偵事務所>

黒川が電話で、丁寧な口調で話している。
「──ええ、間違いありません。何が起きているかは、まだ分かりませんが、今度は明らかに、形にしてお見せすることが出来ますよ。ですから‥‥はい、ありがとうございます」
と、電話を切って、ちょっと嬉しそうに暗算している。
「これで、当面の予算は確保できそうだ。寺さん、もう逃げた犬ネコを、追い掛け回さなくてもすむぜ」

周平は、コップの水を、両手で包み込むようにしながら、答えた。
「僕は、ペット探偵も悪くないと思ってますよ」

黒川「まあな、日銭にはなるからな」

周平「またいつかみたいに、人前に出なくちゃならないんですか?」

黒川「大丈夫、寺さんには頼まないから」

周平「そうして下さいよ、あん時はクロさんには、赤っ恥をかかせてしまいましたからね」

黒川「いや、寺さんは、潜在的には凄い能力を持っているんだよ。俺の目に狂いは無いはずだ」
と、周平からコップを手に取って、温度を感じた。
「結構、温まってるじゃないか・・・40度、越えたくらいかな。3分でこれだけ温められたら、大したもんだ」

周平は、少し照れ笑いして「10分かかってると思いますけど・・・黒さんの千里眼や、あの夢乃ちゃんのように、残留思念が見えたりした方がよっぽど役に立つのに、コップの水を、ぬるま湯にするくらいしか出来ない。これ、超能力って言えますか。手に汗かくばっかりだ。ところで夢乃ちゃんは?」

黒川「学校に行ったよ。あの娘、医学生なんだ。それも、法医学を専攻しているんだって」

周平は「へー‥‥ラブホは彼氏と行ったのかな?」
と、夢乃が、いやいやながら(とは、わかっていた)この手に触れて、自分に見せてくれたイメージを思い出した。
夢乃は、「どこで」とは言おうとしなかったが、あのイメージが、ラブホテルであることは間違いない。
ラブホテルで、コトの前にシャワーを浴びようとした夢乃は、手に取ったシャワーノブにこびりついていた残留思念を、読み取ったのだ。
同じ部屋で、いつだかは特定出来ないが、前にシャワーを使った女が、奇怪なものを見て、強烈な恐怖を感じたので、それが、いつまでも思念として残っていたのであろう。
その恐怖心も伝わって来た。おそらく、人生の最後の瞬間の、最大の恐怖であったろう。

<法医学教室>

権威ある法医学医の先生について行く数人の医学生たちの中に、夢乃の姿がある。

イケメンの男子医学生、夢乃に耳打ちして、
「この前、なんでホテルから帰っちゃったんだよ」

夢乃「気分が悪くなったの。変な雰囲気で。何か、いそうだった」

男子医学生「あそこ、結構高かったんだぜ」

夢乃「! ワリカンだったでしょ!」

法医学医の先生、静かにするように、夢乃を目で制す。

恐縮して、スイマセンと首をすくめる夢乃。

<検死室>(夜)

長時間の検死が終わったばかりで、捜査一課刑事・やまさんが法医学医の先生と話をしている。メモを取っているやまさん。

法医学医「死因は、酸欠による窒息死です。溺死に似ているのですが‥‥」

やまさん「溺死?」

法医学医「ですが、肺や気管には、水が残っていない」

やまさん「口と鼻を押さえられたってことですかね」

法医学医「でも、その圧迫の跡がない。手で押さえられたのとも違う。爪にも抵抗した痕跡が無い」

  ×   ×   ×   

見学していた医学生たちが、検死の後片づけをしている。

死体は、伊原であった。

死体袋のチャックを閉めようとした夢乃が、床が濡れていたので滑り、アッと、つんのめって、伊原の裸の胸を、手のひらで、触ってしまう。妙に柔らかく、嫌な感触であった。

夢乃「!」
(ブラックアウト)

<伊原の車の中>(伊原の最後の残留思念)=(夢乃のイメージ)

運転している男の視点。
バックミラーに映る顔が伊原だ。

伊原、タバコを切らしてしまい、見えたコンビニの駐車場に入っていく。
キーを抜いた手を見ると、青いゼリー状のものに手が覆われていて驚く。

伊原「なんじゃ、こりゃ!?」

青いアメーバは、次の瞬間、伊原の全身に覆いかぶさった。
突然、視界が薄青くぼけ・・・
(ブラックアウト)

<黒川探偵事務所>(翌朝)

夢乃が黒川の手を握って、自分が伊原の死体から受けた残留思念のイメージを、送っている。
それを、受け取った黒川は、手を放し、目を開けた。

黒川「この男の最後の恐怖か・・・このあいだは、赤いやつだったが、今度のは青いね」

夢乃「おつかいで、これ(法医学医の先生がまとめた書類)を警察に持っていく前に、黒川さん達に、教えなくちゃって思ったの」

黒川「いい子だ」

「エヘ」と、喜んで笑う夢乃には、ファザコンの気があるのかな、オヤジ好き、というか・・・と、二人の様子を、少し離れてもどかしげに見ている周平は、自分の汗ばんだ手を見つめている。

夢乃「この前のラブホの、ドロドロと同じかな?」

黒川「うん。これも液体人間だと思う」

夢乃「? エキタイニンゲン?」

黒川「DNAの解析で、”人間”と思われたものがあったろ」

夢乃「それ(パソコン)で見せてくれたものでしょ」

黒川「あれを、そう名付けたんだよ。液体のような体でありながら、遺伝子的には人間だってことさ」

夢乃「そんなことってある?」

仲間に加わりたい周平、冷蔵庫からシャーレに入れられた、赤いアメーバの死骸を小さくし切ったサンプルを持って来て、
「これがその一部だよ」と、見せる。
夢乃の目の前に置かれたサンプルは、カチカチに凍らされている。

夢乃「これが?」

周平「そうだ、夢乃ちゃん。これが人間だったなら、残留思念を読み取れるんじゃない?」

夢乃「それ、なんか、ヤバくないすか?」

周平「もう、死んでるから大丈夫だよ」

夢乃「でも、人が死んでるんですよ」

周平「うん。でもこんなに凍ってるし」
と指で叩いて見せる。

夢乃「‥‥」
こわごわと液体人間の一部に触ってみる。
夢乃「!」

<夢乃のイメージ>=液体人間の残留思念

暗い水の中から、明るい場所に出てくる。
光の中に、夏美の顔が浮かび上がる。
雨の日に、部屋で、襲いかかられた時のガウン姿だ。

< 黒川探偵事務所>

夢乃「女の人が見えた」

黒川「これから?」 と、シャーレを示す。

夢乃「この人たち、すごく奇麗な女の人を探していたみたい。夏美ってひとよ」

周平「たち?」

夢乃「そう。一人じゃないわ。何人もいるんだけど‥‥個性も感じない。でも、夏美って人が、好きなのは分かるわ」

一同「‥‥」

<夏美の家・玄関>

夏美が玄関を開けると、野田と栗原が警察手帳を見せる。

野田「純夏美さんですね」

夏美「はい、何か?」

野田「突然、すいません、ちょっとお尋ねしたいんですが、最近、あなたの身の回りで何か、変わったことはありませんでしたか?」

夏美「変わったこと?」 アメーバのことかしら・・・

栗原「家族や友人が突然いなくなるとか?」

夏美「?」

野田「実は、かつてあなたが所属していた楽団の関係者が、続けて行方不明になっているんです。あなたの周りにも、何かあったのではと」

夏美「楽団……て?」

栗原「10年前の飛行機事故で、あなたをのぞいた全員がお亡くなりになった」

夏美「マジカルクインテットのことですか・・・」

野田「はい、その名前で・・・」と、夏美に行方不明者の写真を見せて、
「最近、この方々とお会いしたことは?」

夏美「!、本間さんの奥さん!……もう何年もお会いしてません。こちらは、岩田さんのお兄さんだわ……行方不明なんですか?、どうして……」

野田「ええ……あと、この方もメンバーの姪御さんで……」

夏美「……この方にはお会いしたことは無いです……当時は子供でしょう」

< 同・リビングルーム>

考えてこんでいる夏美。

夏美「‥‥」 どういうことなんだろう・・・メンバーの親戚が失踪なんて・・

崇が奥の部屋から出てきて、
「なんだったの?」

夏美、崇を見て、「警察」とだけ言った。

< 同・近くの道>

夏美の家が、見えている道を、野田と栗原が歩いて、警察に戻っている。
殺された伊原が車に乗ったところからは、少し離れている。
向こうから、捜査一課の刑事やまさんと、付き従っている若手刑事がやって来た。
二人に行き会う野田と栗原。

野田「あれ? やまさん」

やまさん、二人の前に立ち止まり、夏美の家を差して、「おたくも、あの家?」

栗原「えっらい美人ですよ」 と、鼻息荒げた。

野田、栗原を呆れて見る。・・・黙ってたのは、見とれてたのかい。

やまさん「こっちの用は女じゃねえよ」

<同・中>

インターフォンが鳴り、今度は、インターフォンを押して、きちんと相手を確認しようとする夏美、
「はい」
 ×   ×   ×   
リビングルームで待っていた崇
「‥‥?」となっている。

玄関から、戻って来た夏美、
「また警察。今度はあなたによ」

崇「えっ!?」
ドキッとした。

<湾岸警察署・取り調べ室>

殺人課の刑事、やまさんたちに、伊原の写真や証拠写真を見せられ、緊張しながらも、丁寧に応対している崇。

伊原が近くのコンビニ駐車場で殺害された事を聞いた崇は、借金のことを正直に答えながら、自分が疑われていると感じていたが、ずっと夏美と一緒にいたから・・でも、家族はアリバイを証言出来ないのか・・夏美とは、まだ家族じゃ無いか、などと、心は乱れた。

< 同・マジックミラーの部屋>

マジックミラー越しに、崇の様子を見ている野田。
そこに栗原が入ってくる。

野田「失踪人の参考人の同居人が、殺人事件の参考人……偶然かね」

栗原「なんとも言えませんね。私たちの管轄外ですし」

野田「一課ではどう見てるんだ?」

栗原「ホンボシというわけでもないみたいです。ただ、彼はガイシャから百万以上の借金があったそうです。違法な消費者金融で、彼の方がはめられていたと言った方が‥‥」

野田「何か証拠があるのか?」

栗原「ガイシャの衣服に残っていた血痕と、彼の血液型は一致したそうです。DNA判定はまだですが・・・動機はあるということですね」

野田「俺たちの事件とは関係ないか」

栗原「ですね」

野田「しかし、気になるな」

栗原「何がです?」

野田「彼女の方だ」

栗原「ああ。奇麗でしたものねえ」

野田「(呆れる)」 そこかよ、お前はいつも・・・

栗原「一緒に来てますね」

<同・廊下>

長椅子に、夏美が、所在なさげに座っている。崇のことが心配だ。

そこに夢乃が、法医学の書類を持って、キョロキョロしながらやってきて、見るとは無しに、夏美を見た。
見られたのを感じた夏美が、ふと夢乃の方を見ると、
「あっ!」!!!
と、軽い眩暈を覚えた夢乃。液体人間のイメージに出ていたあのひとじゃないか・・夏美って人だ・・でも、それ以上に、夏美から、何か強いオーラを感じる。

取り調べ室のミラールームの方から出てきた野田、呆然としている夢乃に気が付き、「お嬢さん、どうしたの?」と聞いた。

野田の後ろから、栗原も出て来て、夏美を見た。

夢乃「(我に帰って)いいえ‥‥これ(書類)をこちらに届けるように」

野田「あ、法医学の学生さんね、それは、一課の方だから・・」

そこに、やまさんに促されて、崇が取り調べ室から出て来た。

野田「(夢乃に)あの人」 と、やまさんを示した。

崇の姿を見つけた夏美が立ち上がると、ハンカチを落としてしまう。
夏美「崇」
と、言いながら、駆け寄った。夢乃は、夏美から落ちたハンカチを見た。

崇「大丈夫、なんでもないよ。ただ、まだ帰れそうもないんだ」

夏美「(やまさんに詰め寄る)どういうことですか?」

やまさん「形式的なことです。被害者の衣服に、坂西さんの血痕が見つかったものですから」

夏美「それは!」 犯人扱いしてるじゃない、ずっと私と一緒にいた人を。

崇「いいんだ。僕がやっていないことを証明するためなんだ」

夢乃、夏美の落としたハンカチを拾い、夏美に渡して、
「あの、これ、落ちましたよ」

それから、やまさんには、書類を渡そうとしたが、

夏美「(夢乃に会釈して)あ、すいません」
と、言いながら、その時、夢乃と夏美の手が、一瞬、触れ合った。

夢乃「!!!」!!! 何かが、頭の中で、スパークした。

やまさん「ほんとに、捜査のご協力を、お願いしているだけですから」
 やまさんの声「動機は充分なんだけどな」

夢乃「え?」
 栗原の声「それにしてもいい女だな。こんな男にはもったいないよ」
夢乃「え?」
 野田の声「この女、何か知っているんだろう、失踪人のことも」
夢乃「何かって?」

夢乃の頭の中に、突然、いろいろな声が流れ込んで来た。

野田「どうしたの?」

夢乃「今、刑事さん何か知ってるとか言ったでしょ」

野田「いいや」

 崇の声「やっぱりこいつら俺のこと疑っているんだよ。俺には伊原を殺す動機はあるからな」
夢乃、崇の顔を見つめる。口は動いてない。
 夏美の声「この娘、どうしたのかしら?」
夢乃、夏美を見る。口は動いていない。

それぞれの心の声が「情緒不安定?」「最近の子は多いよね」「どうやって殺したかだ」「アリバイは絶対に崩れる」などが渦巻く。

思わず両耳を塞ぐ夢乃。
「や、やめて!」

夢乃、やまさんに、書類を押し付けるように渡すと、逃げるように走り去った。

<黒川探偵事務所>

温度計の刺さったコップの水を一心不乱に睨んでいる周平。
小さな気泡が一つ上った。

周平「!」
温度計を取り出し読み取る。
「やった。黒さん、見て!」

黒川は、デスクで新聞を読んでいた。
「どうした?」

周平「手を触れることなく、コップの水の温度を上昇させることができました!」

黒川「どれくらい?」

周平「1・5℃!」

黒川「‥‥」

夢乃が事務所に飛び込んでくる。

黒川「夢乃ちゃん?」

夢乃「しっ。何も言わないで」 と、黒川の前に座って目を瞑る。

黒川「?」

夢乃「‥‥聞こえない」

周平「夢乃ちゃん、どうしたの?」

夢乃「警察で、突然、色んな声やイメージが、飛び込んできちゃって」

夢乃、黒川の手を握りイメージを送る。

黒川「!‥‥」

周平「‥‥」 夢乃ちゃん、また、クロさんの手、握ってるよ。

黒川「夢乃ちゃん、これは生きている人の思考やイメージじゃないか。こんな力まであったのかい」

夢乃「(頷く)こんなこと初めてなの。でも今は何も聞こえない」

周平「夢乃ちゃん、僕にも見せて」

周平が夢乃に手を差し出すと、夢乃も思わずその手を握るが、すぐに放す。

周平「ん?」

夢乃「キモッ。すごい手汗」

周平「‥‥キモ?」

<駅>(夕方)

ラッシュアワーが始まっている。

人の流れのなかに、疲れた顔の夏美が、改札を出て来た。

その夏美の目の前の方向に、恭二が立っていた。

夏美「!‥‥」  恭二! 幻じゃない!!


...to be continued

(チャリンの方は、未整理のシナリオのままの続きが、少々読めます)

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