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Musical映画小説『セブンカラーズ・ストーリー』Vol.1/彩華、アイドルG結成をラジオで呼びかけ

虹を感じる デザイン きらめく背景に 白く 光る 文字
<Seven Colores Story>
が、ワイプでスーッと現れると・・・
宇宙から見た、アジアと日本の衛星写真だ。
微妙に横移動しつつ、静かにズームインしている。
青い海が瑞々しく、陸地は深い緑。
ところどころ 白く薄い雲が渦を巻き 流れて見える。
「北京」 「ソウル」 「東京」 「マニラ」 「鹿児島」
とタイトルが浮かび
カメラアイは、目指していた鹿児島に、いきなり早いズームアップする。 と・・

大きなヘッドフォンを付けた 大久保彩華 がマイクに向かって喋っている。

溌剌と 変わる 表情
☆キラキラと輝く 大きな黒い瞳 瞳のなかにも星☆

「鹿児島市とイタリアのナポリ市が姉妹都市なのは、皆さんもご存知ですよね?」

可愛い キュート! いや、美しい
ショートの髪が ヘッドフォンに押さえらている

その彼女から カメラは ゆっくりズームバックしている・・

タイトル『大久保彩華 鹿児島出身 22』が浮かぶ。

ここは、街のコミュニティFMかごしまフレンズ放送局の、金魚鉢ブース。
ガラスで隔てた向こうには 鹿児島の市街が見えている。

と言っても、大通りからは 少し中に入ったところだ。

彩華の“追っかけ”の20代男子5人が、手持ちの「彩花」のカードを、胸のところに掲げて見せたり、頭の上にあげたり、手を振ったりしてアピールしている。

「大久保彩華」が本名だってファンは皆知っているが、芸名は「彩花」だ。
彩華は、時々、チラと彼らに目を向け、ふと自然に笑ってしまう。
それが、彼らをたまらなくハッピーにする。ホントに自然な笑顔だから。

彩華
「このスタジオ すぐ近くに『ナポリ通り』がありますがー 
ナポリにも 『カゴシマ通り』があるんですって、びっくり〜
『カゴシマ ストリート』って言うのかしら。いや、イタリア語だから
『カゴシマ アベニュー』? それフランス語だっつーの
(自分で突っ込んでる)
『カゴシマ ストラーダ』ね。フフ、調べましたー
行ってみたいですね〜 『カゴシマ ストラーダ』」

「彩花」の名前は東京のASGで2年前まで使っていたから、今も正式な芸名だ。

ASGは『リンキング・ラブ』でも描かれている。2005年に誕生した。
紅白歌合戦にも常連の 国民的アイドルグループ。
名古屋や 福岡にも 姉妹グループがある。 
長い歴史があって、多数のメンバーがデビューし、卒業していっている。
詳しくは映画『リンキングラブ』を見よう。彩花は出てこないけれどね。

大久保彩花は福岡のHSG出身、選抜されて東京のASGとなり「彩華」になった。
生まれも育ちも鹿児島だ。

彩華
「私はこのトシでまだ、鹿児島と、博多と、東京しか知りません。
あ、もちろんASGのコンサートでは横浜、名古屋、札幌、他の都市も回ってますけど、メンバーと食事に出たくらいで 街の様子も良く知らなんです。
失敗したな〜 もっと遊べば良かったな〜(笑)」

ニコニコうなづくファン男子。

彩華
「やっぱり鹿児島のことが一番良く分かっていて、安心出来ます」

ニコニコうなづくファン男子。

彩華
「さて、実はこの鹿児島で、新しいアイドルグループ、セブンカラーズを作りたいと思ってます。7人のグループって、フォーメーションがいいと思うんですよ。
楽曲も作りやすい。
近々詳細を発表しますので、お待ち下さいね」

追っかけのA君、B君、他3人とも、「セブンカラーズ」の話に「おお〜!」と反応して、ハイタッチ。待ちに待った、ラジオ以外の彩花の活動。楽曲も作るらしい。彩花の曲作りの才能は、ファンのなかでは基本のキだ。

彩華
「今かかってるお別れの曲は花*花の『さよなら大好きな人』です。
2000年、ミレニアムの時にヒット。懐かしいですね。
幼稚園のときに歌いましたー
花*花のお二人、お元気でしょうか、尊敬していまーす。
これを聴きながら、大久保彩花の“シンプル・イズ・ベスト”また来週!
この時間にお会いしましょう」

ニコニコうなづいているファン男子。これは、素晴らしいニュースをナマで聞けたここに来てないファンは大損こいたな。

ブースに続いている狭い事務所では、小窓からスタジオが見える。
マネージャー兼代理店業務の西郷忠明(35歳)が、笑顔でヨシヨシとうなづいている。鹿児島だから西郷? 安易ですいません。
小太りで、西郷さんの末裔だって言ったら、信じてくれるかな。嘘。

<鹿児島大学・キャンパスカフェ>

土曜の昼なので、学生は多く無いが、若者が自然に発散するエネルギーで、カラフルに賑わって感じられる。

一人で、スマホからイヤホンで聴いている李星星(リー・ティンティン)19歳
目をパチクリして、びっくりした。中国からの留学生だ。
わぁっと嬉しくなった顔。
いま、彩華の放送をナマで聴いている。
星星(ティンティン)は、中国にいた時から 彩華のファンだ。
本人もアイドル並みの可愛さだが、自分はそれほど とは思っていないところが奥ゆかしい。

タイトル『李星星  北京出身 19

星星「アイドルグループ・・・!」
バッグからノートを出して、めくると、それは彩華のアイドル時代をスクラップにしたものだ。
星星は、彩華に憧れて日本に来ている、というのが本音。日本文学の勉強より。

当時の記事のスクラップ「大久保彩花、ASGを卒業」の文字が踊る。

離れた席で勉強しているパク・ジョナ(19歳)に 近づいて 話しかける星星。
ジョナは韓国からの留学生。
目鼻立ちのキリッとした美人で、スリムなスタイル。意思が強そうだ。

星星ほどでは無いが、ジョナも 彩華の事は注目していた。
この大学で出会った二人は、彩華の話で一気に盛り上がった。

ただ、ジョナは星星ほど、日本のアイドルには詳しくない。
「韓国の方が、アイドル文化はプロフェッショナル」
と思っているから。
でも、日本のアイドル文化も、調べると深くて面白い。
専攻の日本史の参考にもなる。

星星とジョナは、お互い 勉強中の日本語が 二人の共通語。
日本のアイドルについても、いろいろ話題に出来るくらいの知識が重なっている。

タイトル『パク・ジョナ ソウル出身 19

星星「あのー、ジョナさん」

ジョナ「ジョナでいいyo」
と微笑む。

星星「オオクボアヤカ、再びアイドルをスタートするそうです。She comes back again!」
と、手を広げて大きなゼスチャーが愛らしい。

ジョナ「ASGヨルヨッソ(16)?」

星星「ASGシーリュー(16)は、シックスティーンね」

「16」は韓国語ではヨル・ヨッソ、中国語ではシー・リュー。
二人とも、日本語の他に、お互いの国の言葉を勉強しようとしている。

ジョナ「イエス、シックスティーン」

星星「ラジオで言ってました。仲間を募集します」

ジョナ「カゴシマで? On here Kagoshima?」

星星「そうです、鹿児島市において。She announced on radio

she will start idol movement in Kagoshima city」

(英語で同じこと言ってます)(発音いい)

ジョナ「ビッグニュース!」
ん?・・・この二人、セブンカラーズに応募しようと思ってるのか?

星星とジョナ、真ん中の席で雑談しているふうの学生グループに近づいて質問すると、訳知り顔の女子大生たちが答える。

特に美形じゃなくてもいいけど、あまりオバさんぽくない人をお願いします。話の内容がオバさんなんで。喋りは自然な早口での噂スズメ・・・

女子大生A「大久保彩花は最初HSGで博多にいたけどASGに選抜されて一曲センターやったんだど卒業しちゃって鹿児島に戻って来てんだよね」

女子大生B「あれって、男関係なんでしょ」

女子大生A「それはそうらしいけど表向きはお母さんの病気」

女子大生B「死んじゃったんだよね~」

みんな「かわいそ〜」となる。こういうことは、日本の場合、特にファンでなくても知っているのだ。更に、地元のアイドルだと、生まれた家の住所まで知っている。

女子大生A「でも、男関係は事実だというのは公然の秘密よ」

きょとんとなる星星。

星星「オトコカンケイですか?」

女子大生A「アイドルは ほら、恋愛禁止だから」

女子大生B「中国とか韓国では どうなの? アイドルの恋愛は」

きりっとなるジョナ。

ジョナ「韓国では アイドルは 3年間恋愛禁止です」

女子大生B「3年経ったらいいの?」

ジョナ「結婚もします」

星星「中国は 恋愛は 禁止ではないです。でも、恋愛 しない」

女子大生A「表向きだけなんじゃ無いの?」

星星「いえ。中国は 恋愛と結婚は 同じことです」
と、キッパリ。

「おお〜」と感心する女子大生たち。さすが中国・・・って、何が?

<コミュニティFMかごしまフレンズ の事務所>に戻る

放送を終え、少し疲れた表情を見せながら出て来る彩華 を迎える西郷。

西郷の手には「セブンカラーズメンバー募集」のチラシを持っている。

西郷「もうちょっとババーン!ちゅうふうにアピールしてくれても良かったのに、セブンカラーズのこと」

彩花「(西郷の手のチラシを見て)チラシって古すぎない? いま、情報はスマホでしょ。ネット広告とか出せないの? 番組のサイトあるじゃん、そこからリンクして ツイッターとかインスタとかにも絡めないと広がんないよ」
と、結構、シビアな彩華の喋りビシバシ。アイドルやっている状態の時とは違う。
でも、「性格キツい」のとは違う。「デキる女」というところか。

西郷「すげー、一所懸命考えてくれてるんだ」
 
彩華「言うんなら、もっとちゃんと言いたいの」

西郷「ノってないのかと思っちゃったよ。番組のサイトはスポンサーが別なんで使えないんだよ。地味かも知れないけど、チラシの方が本気の子に届くんじゃないかな。遊び半分の子ばっかりでオーディションやっても辛いでしょ」
と、自分の考えている「地域振興アイドル計画」を語り出す。

そうか、西郷さんも、結構ちゃんと考えてるんだ、なるほどそうだな、と彩華も思いながら、口にはしないで、
彩華「(チラシを手に取って)デザインはいいけど・・あ、本名になってるー」
と、ミスを見つけてしまった。

西郷「エッ・・アッ・・原稿はちゃんと出したのに」
失敗だ!「彩花」とすべきところが「彩華」と印刷されている。
これは彩華に追求されちゃうぞ、とビビったが、

彩華「いいよ、これで。本名に戻そうと思ってたから」
とアッサリ。

西郷「エエッ!そんな勝手に・・って・・」
“勝手に変えていいのか”と言ってしまうところだったけど、彩華は事務所は辞めてるし、自分もオフィシャルなマネージャーというわけでは無い。

西郷の本職は代理店で、この番組と地元商店街のスポンサーを繋げ、そこにまさかの、もと(2年前の)大スター大久保彩花が来てくれたんで、マネジメント的なこともやっているに過ぎない立場、と思い返して、

西郷「別に俺はいいんだけど、君の判断で」
と言う立場。

彩華「うん、本名に戻す」
さらにアッサリ。

しかし何か、「仕事人」的なことも言わないといけないから、
西郷「でも、俺は印刷屋にヒトコト言う。これは相手のミスだ!」
と、鼻息を荒くする。

<島津プリント・オフィス>

古き昭和の街の印刷屋から発展して衰退して、デジタル対応で生き延び、社員20人を抱える「島津プリント」そのオフィス。
電話を受けているのは、三浦春馬の若い時みたいなイケ面、坂本勇気(26歳)だ。でも、鹿児島弁イントネーション抜けず。三浦貴大の方が近いか?

勇気「エッ!? ちょいと待って下さい(と、原稿を探す)あっ・・・すんません!確かに原稿と違いますが、大久保さんはこっちの華だったと記憶しとるんですが、中華の華だと」
冷や汗タラ〜リ。確認しときゃ良かった・・・
   ×   ×   ×   
西郷「それは本名で、ASGの時はお花畑の花だったわけ。でも、今回本名に戻すことにしたから」
   ×   ×   ×   
勇気「そうなんですか。では、このままでも良か言うことでしょうか」
ホッとする。
   ×   ×   × 
西郷「そうなんだけど、間違いは間違いだろ。その辺ちょっと考えて欲しいんだよね」
強気に出る。ここでハッタリかましとこうか。
   ×   ×   ×  
勇気「はあ・・・修正しなくても良かいうことでしたらば、これを決定版にさせて頂きたいと思いますが」
大丈夫かこの対応で。変な奴じゃないだろうな。 
   ×   ×   ×  
西郷「だからぁ、それはいいんだけどぉ、間違えた責任を取ってくんないか、って言うとるんじゃっどん(わざとの方言)」 
自分を大きく見せてるつもり。
ちょっとおどけて余裕あるけど 権威もあるみたいな。
   ×   ×   ×   
勇気「責任・・と申されますと?」
こいつ、ちょっとマズい相手? 粘着系?
   ×   ×   ×   
西郷「印刷代、まけてくれてもいいんじゃ無いかってことよ」
   ×   ×   × 
やっぱり、面倒臭い奴みたいだ。どうしよう・・・
勇気「はあ・・・確かにそのような理屈もあろうかとは思いますが、私の一存ではお答えしかねますが・・・このまま良かであれば、料金も同一と考えても良かではなかでしょうか」
キッパリ言った方が良い。
こういう時に男らしさが出る鹿児島男児。
  ×   ×   ×  
お、相手、正論言ってきた。ケンカもめんどい。こっちはヤワな大分人。 
西郷「う〜ん・・・また、電話するわ」
  ×   ×   ×   
電話を切られて、ちょっと困惑した感じの勇気。
まあ、それほど険悪では無かった声質なので、大丈夫だろう。
次の連絡まで 警戒は忘れずに。


<鹿児島市内を市電が走る>

ユートラムという新しい型も導入されてるが、100型101号と呼ばれる古い型の方が乗って楽しい気分・・・

チンチンと音のする車内で、つり革つかまって揺られているのは、
地味な紺のスーツの神木あかり(23歳)
フリルのハイネック。眼鏡している。お年寄りには必ず席ゆずる。
タイトル『神木あかり 川内出身 23
襟にはお気に入りのブローチ。ワンポイントは忘れない。
100型に乗れたから、今日は何かいいことあるかも・・・

<JA鹿児島>

JA制服に替えているあかり、PCを前に作業しながら、西郷課長と話す応接コーナーの方を、そっとチラ見して、聞き耳を立てている。

西郷は「セブンカラーズ募集」のチラシ数十枚を持参して課長に見せている。今は放送翌日の午前中。

課長、そのうちの一枚を持って眺めている。

西郷「サツマイモ出荷の村とかに行って イベントやって記事にしたりするんで、こちらの方なんかも メンバー応募してもらったりしたらどうかと」
お茶を持ってきた若い女子職員Aを見上げながら言うので、課長は、

課長「お前アイドルやってみっか?」明らかにからかってる。

恥ずかしそうにサササ!と手を振る女子職員A。

あかり「・・・」

あかり、思い切って眼鏡を外し、立ち上がった。基本、美形。地味だけど。
応接コーナーに近づき、課長に書類を渡す。

あかり「明日の会議の資料原稿、完成しました」

課長「はーい、俺の机に置いといて」

西郷「地元のメーカーさんからも、すでに何件か協賛金出してもらってるんです」
この人、あかりを見てもくれない。

自分を見てくれないか、と思った瞬間、立ったまま動けなくなってしまった。

課長「ふーん、(まだ立っている明かりを見て)どうした、お前、まさかアイドルやりたいか? 健全な人生捨てたいか?」明らかにからかってる。

嫌な言い方!恥ずかしい!! どうして、この課長はそうなの!?

あかり「違います!」

<女子トイレ>

あかり、ドキドキしながら駆け込んで来て、鏡を見る。
自分が悔しくて、涙ぐんでいる。

私はやってみたい。こんな自分を変えたい。

変える・・変える・・私を変えたい!

<結婚式場「ブルームガーデン」・花嫁控え室>

鹿児島で一番人気の「ブルームガーデン」は、恋人たちの憧れだ。

鏡を前にして、花嫁に入念にメイクしているのは森永絵莉花(23歳)。
タイトル『森永絵莉花 鹿児島出身 23

絵莉花「本当に綺麗ですよ。お気持ちがお肌を輝かせているんでしょうね」
花嫁「フフ・・お上手ね」

花嫁も同じ年くらいであろう。絵莉花は何度も言っている言葉だが、毎回初めてのように言える。私はプロ。

大きなムービーカメラを回しているのは佐賀敏夫(27歳)、鏡側から花嫁と絵莉花を写していたが、何かに気づいて、ふと手を止めて、絵莉花を見つめた。

絵莉花の方が綺麗だな、と思ってしまったのだ。元カノ・・じゃない。だったら良かった。告らなかった。告らないで19歳の絵莉花を主役に映画を撮った。でも、「ぴあ」落ちた。それだけのことだが。・・・だけでなく、苦い。充分・・

セットし終えた絵莉花、花嫁を立たせる。
絵莉花「どうぞ、お立ち下さい」
花嫁、微笑みながら、ゆっくりと立つ。

敏夫、気を取り直して、今度はスチールカメラで花嫁をバシバシ撮る。撮らなきゃ、撮らなきゃ、花嫁を撮らなきゃ・・・映画なんて諦めた。
敏夫「それでは会場へ参ります」
花嫁「はい」
付添い人が従って、廊下へ出てゆき、敏夫も付いて行く。

それを微笑んで見送る絵莉花だが、
絵莉花「・・・(スーッと表情が冷めた)」

花嫁のところから敏夫が 走って戻って来る。

絵莉花「何してんの!?」

敏夫「いや、さっき、花嫁と君を写してて、君の方が綺麗だったからまずいと思って止めたんだ」

絵莉花「(カッとなり)バカなこと言ってないで早く戻れよ」

敏夫「今言っとかないと忘れちゃうからと思って」

絵莉花「嬉しくないったら、そんな事言われてもバカ!」

敏夫、笑って戻って行く。
笑えない絵莉花、やり切れない思いで部屋に戻る。

絵莉花「なんなんだアイツ」

ホント、あたま来る。バカな男って。泣きたくなるよ。


<アミュ広場>

JR鹿児島中央駅にほど近いアミュプラザ。その広場に市民が集まっている。

バタヤン・ダンススクール鹿児島」の立看板があり、子供から青年まで混ざった20人ほどのダンサーが、ダンスミュージックでフラッシュモブを披露している。音楽はラテンで激しい。

通行人が手拍子で見物している。

結構、賑やかだ。リオのカーニバルとまでは行きませんが。

その中で、一際ダンスが上手で目立っているのは姿那智(20歳)。
タイトル『姿那智 那覇出身 20

目立つが、次第に、一人だけズラして踊っているのが分かり、インストラクターのバタヤン(35歳)の顔が曇る。
    ×   ×    ×

モブ披露が終わって・・・

全員汗を拭きながら、充実した表情でスクールに帰る道すがら、遅れている那智に気が付いて、戻って声かけるバタヤン。

バタヤン「面白くないからって、リズムずらしたら悪目立ち過ぎるぞ」

那智「すいません」

バタヤン「なんか、不満があるなら、言ってみろよ」

那智「ありません」

バタヤン「・・・(やれやれ)」

そりゃ、お前みたいな実力あるダンサーが、あんなことさせられて面白くないのは分かるよ。那智はニューヨークでも通用するだろうが、言わないでおく・・・


<夜・ガールズバー『ハッピーデイジー』の楽屋>

天文館・文化通りの「ハッピーデイジー」には、接客するキャバさんが、あまり多くは無い。昭和平成時代はナイトクラブだった。
キャバさん以外に、フロアで歌う歌手がいる。今日はイザベルの日だ。

きらきらのロングドレスの歌手として準備していたイザベル・ガルシア(23歳)が、角刈りフロアマネジャーから言われている。ヤクザまではいってないが目がキツい奴だ。
タイトル『イザベル・ガルシア マニラ出身 23

フロアマネ「そのドレスじゃなくてミニにして」

イザベル「え・・でも、ステージはスローじゃないんですか?」
顔は完璧フィリピーナでも、流暢な日本語だ。

フロアマネ「曲はスローでもスカートはミニじゃなきゃダメだ」

<『ハッピーデイジー』フロア>

ブラシのドラムスティック、リードギター、ベースの3人がバックで淡々と演奏。

ミニスカートで「アンフォゲタブル」を歌っているイザベル。美脚は確かだ。

脇で、フロアマネが納得して見ている。いい女じゃねえか。

お客がヒューヒュー!と口笛鳴らしている。

笑顔になれないイザベル。

ちょっと怖い兄さん風の二人組が眉をひそめて喋る。キャバさんを指名するほどの金持ちでは無いようだ。

男A「こんところ、鹿児島も外人うけねえか(多くないか)」
男B「せがらしか(やかましいな)」

暗いところに、嫌な空気が溜まっている・・・そのままでいてくれ・・・

<帰り道から部屋へ>

険しい表情のイザベル、コートを羽織って急いで木造アパートの階段を駆け上がる。ヒールの音がカンカン聞こえる。家賃が安いのが取り柄の2K。

<イザベルの部屋>

女子の部屋にしては 散らかっているが、パソコンの前は 整頓されている。

画面に向かって 高校生に英会話を教えている イザベル。

バイト代は歌手と同じくらい ささやかなもの。

パソコン画面の生徒は 女子高生・矢ケ崎裕子(18歳)

裕子「先生、コート脱いで下さいよ Pleas take off your clothes」

イザベル「ゴメンナサイ、いま変な服着てるから。慌てて」

ちょっとワザと日本語を下手にしてる。その方が英語の先生ぽい。

裕子「何々?見たい見たい!変な服」

仕方無くコートを照れながら、脱ぐイザベル、ミニのステージ衣装のまま。

裕子「わあ、先生、チョー可愛い」

イザベル「じゃあ、次のセクション行きましょネ Lesson12」

この子(裕子)、憎めないな。私のこと好きらしい。学校では孤独なんじゃないのかな・・・時々、感じることあるよ。私も孤独だから。

裕子「先生にセブンカラーズになってもらいたいなぁ」

イザベル「なんですか、ソレ?」

裕子「私が子供の頃からファンだった大久保彩華が、また地元でアイドルやるんだって。先生もやってよ。先生、可愛いから」

イザベル「アイドル・・・?・・・セブンカラーズ?」

7人の運命が、少し 動き出しているような気がする鹿児島の夜・・・


・・・・to be continued



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