吉岡睦雄が覗いた『シュシュシュの娘』〜第一章:出会い〜
TEXT by 『シュシュシュの娘』司役、吉岡睦雄
そもそも入江悠監督とは十年以上前に飲み会の席で出会ったのです。
当時の入江さんは「SRサイタマノラッパー」を撮る前、「ジャポニカ・ウイルス」の公開前後だったと思います。
それから何度か顔を合わせたりする事はありましたが、一緒に飲んだりする機会はありませんでした。(一度酔っぱらって、夜中にいきなり「飲みませんか?」と電話したことがありましたが……)。一緒にお仕事をする事もありませんでした。
2020年、新しい所属事務所に移りました。
このままではダメだ。
このままこの感じで役者を続けてもどうにもならないんじゃないか。
何かが足りない……それが何かは分からない……。
何か新しい出会いや変化を望んでいたのだろうと思います。
そして6月。「シュシュシュの娘」オーディションの事を知ります。
入江さんの映画はかなり劇場で追いかけておりました。迷わず応募する事にしました。
さて、まずは書類を送らねばなりません。
「好きな本」「好きな映画」「意気込み・志望動機」
亡くなった先輩俳優の伊藤猛さんがよくこんな事を言っていた。
「監督と共闘するんだ」
監督と共闘?
今でもそれがどういう事なのかよく分かってないのだけど……。
確かに猛さんの現場での姿を見てると、監督と共闘してる感じがした。監督と仲良く話すわけでもないし、色々相談する訳でもないけど。共闘。
志望動機にはそういう事を含めて、今僕が感じてることを書いたりしました。
志望動機そして意気込み。初めて映画に出た二十代。何とかして少しでも爪痕を残したいと思ったし、一秒でも一カットでも長くスクリーンに映りたいと思った。今まで誰も観た事のないような面白い芝居がしたいと思ったし、誰も発明出来なかったような人物を作り出したいと思っていた。随分と傲慢な考えだとは思っていたけれど。
「監督と共闘するんだ」という先輩の役者の言葉に刺激を受けて、よく意味も分からないまま「共闘だ。共闘だ。」と呟いた。主演する事も多かった自主映画やVシネマ。何人かの同世代の監督たちには、特にそういう気持ちを抱いていたような気がする。
そして今。
主演する事はめっきりなくなった。数シーンの出番がほとんどだ。一シーン。二シーン。全体のバランスを考えた芝居をしなさいと本に書いてある。足し算よりも引き算なんだと散々怒られたりもした。でも……やはり思うのです。つんのめってないとどうしようもないじゃないか。0か100を狙わないとどうにもなんないじゃないか。
ヒグマのような爪痕なんだ。
青臭いけど……誰も観た事のないような映画を作りたいじゃないか。自分たちの言葉で。
志望動機はただ一つ。
入江監督と共闘したい。
「じゃあ吉岡!果たしてホントに入江監督と共闘できたのか?」
撮影が終わった今そう問われたならば……この撮影日誌を通して考えてみようと思います。
「じゃあ吉岡!ヒグマのような爪痕は残せたんか?」
そう問われたならば…まあ猫の爪痕くらいは……。
でも。
誰も観た事のないような映画になったのではないかとは思っているのです。
<第二章 ソルティーオーディション>へつづく
どうぞよろしくお願いいたします。
吉岡睦雄
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