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【詩】油屋のリンは「いつかここを必ず出てやる」とお気に入りの少女と彼女自身に誓ったけれど、茫洋とけぶる水平線は彼女の決意に応えるように一条の光を返した、ような気がした。『千と千尋の神隠し』

「宵」

ここで働かせて下さいなんて、言った覚えはないのだけれど
どういう訳か、籠の鳥
西の水平線に茜色の刃がさしこんで、さあ身繕い
お酌女でご奉公のボクなのだ

「たんとたんと布団を巻いて寸胴女におなりなさい」

やせた肋に着肉を巻かれ、サナダ紐でふん縛られる
衣装方専門の姐さんは、ここで二十年の飼い殺し
自分じゃこんな代物着たことない

緞子の打ち掛け 俎板帯 立兵庫には櫛笄

たんとたんと布団オトコに巻かれ、鈍感かわいい女におなりなさい
姐さん昔は、鳥のさえずり真似るのが得意だったらしいけど
一度も聴いたことはない

あのう、ボク、女になりたいなんて言った覚えありません
男が好きなので、男のまんまでいいんです

「あんた、バカァ?あんたみたいなのが、ここじゃ一番オンナなんだよ」

(げ。「それにこのカッコ、ブスですし」なんて言えないじゃん)

ボクの着付けを障子の影からネトネト見ていたのは、掃除女
イケズがしたくて蛞蝓なめくじ歩きで近づいて来る

「あんたの部屋に落ちてたんだけど、これナーニ?」

雑巾色の袂から取り出したのは、全長20センチの極太ディルド
おまえ、人の部屋漁りやめろよな~。だからブスなんだよ
ふんぞり返って一番綺麗な顔で答えてやった

「チンポコですけどぉ~。なにか?」

(おれって親切。コミュニケーションは止めない主義)
(今思えばこの妖怪、「蛞蝓女じつは蛞蝓男」だったのかもしれないなあ)

何に使うのぉ~?

オナニーに決まってんだろ
あんた使ったことねえの?貸してやるぜ?
てゆうかあんたホントにチンポコ好きだな
誰でもオナニーすんだろーが、あー?
もう、いちいち、誰もがすること珍しがって騒ぐのは
やめろ、馬鹿!

低レベルな喧嘩の横で姐さんが、
煙管きせるの煙をぽわぁと吹いて、僕の努力を0に戻す
「あんた、バカァ?きれいなひとが、そんな事言っちゃいけないのよう」
ほら、ね。

さっ、お座敷だよ!


「朝」

眠りから醒めても、まぶたの裏の薄い藍色がぼんやり枕辺にただよう時刻、鳥たちは遠くさえずっているようだけどそれは夢の泡沫の消える音かもしれないね、右腕に生あたたかな感触を覚えるから薄目をあけて見てみると、眉の濃い鷲鼻のおとこが素はだかでこちらをむいてすわっている、それはぼくと同じ日に、ここで勤め始めた若い衆。
敷布シーツの上には、とろりとした液体のちいさな池ができている、夜明け前の薄日がはつかに反射した、白濁、おとこの指の隙から濁った液体が小さな池に滴っている、ぼくの右腕にかかってしまった飛沫をティッシュペーパーで拭く指遣いは、はからずもやさしくて、汚されてしまったことは元々気にならない気質たちだし、ぼくは知らないふりでもう一度、眠ることにしたよ。
同じ日にここで働き始めたと言っても、あなたは若い衆おとこで、ぼくとは違うヒトだと知っている、つき合って何年かになる彼女さんが陸地で待っていると聞くのに、休みの日には向こう岸の岡場所へほかの若い衆と連れだって遊びに行くのは、何度かんがえてもやっぱりふしぎなのだけど、それはあなたをきらいになるとかそういうことではないんだ、あなたのことを好きになろうと思ってみたときもあったけど、水平線の先まで見えそうな小さな窓を夜も昼も開けつづけておくのは出来ないから、代わりにだれかを好きになってみようとしただけだった。
あなたはきまり悪そうに小さな水溜まりをティッシュに吸い込ませようとしているけれど、べつに汚い物じゃないし、ここの朝は早いから、その程度でおわりにして寝直そう、朝までとなりで寝ていいよ、別になにもしないけど。
はだとはだが掠れあうと思いのほか温かく、すんなり眠りにかえれるね。


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この詩は、夢で見たことをもとに書きました。
ちなみにぼくのセクシュアリティはゲイなので、
リアルが投影した夢なのかなあとも思います。




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