【詩】鬣よりも　牙よりも

弱いから　連れて来られた
大人しいから　閉じ込められた
鬣たてがみを持たず　牙はなく
ナイフのような爪もないから
貧弱な檻を　与えられた

強いから　銃で撃たれた
野蛮だから　遠ざけられた
鬣を靡かせ　牙を磨き
お前らを切り裂ける爪があるから
朝日のように　尊ばれた

ぼくを切り裂いた肉を
どうするんだい？
四肢を切断され　腹を裂かれ
臓腑を引き摺り出される　一刻一刻
ぼくの瞳めは　あなたを視ている

檻に閉じ込めたおれを
どうするんだい？
あいつの檻より頑丈な檻に閉じ込めて
熱風に黄金色を奏でていた　この鬣まで
おまえらの物にできたつもりかい？

一日一回　ぼくは首を落とされ
あいつの檻に　放り込まれる
あいつがサバンナの大気を忘れぬようにと
そんな、おもてなし
ぼくが貧弱な檻をこえたのは
忘れられない　ぼくの大気があったから
誰も聞いてはくれない　そんな話

いつの日かぼくは進化する
あなたたちとそっくり同じ顔に進化する
あなたたちとそっくり同じ手を手に入れる
言葉を習い　仲間をつくり　拍手喝采
最も愚かな指導者に yes を
デマには熱狂　真実には No
富める者はより富ませ
貧者には貧者を罵らせ
盗っ人は匿い　暴力には微笑んで
核弾頭のボタンを押す者に Yes を
死に至る病なら性器を使って拡散済みさ

一日一回
ぼくはあなたを　必ず視ている
たまには手を止めて　見返してごらん
そっくりじゃないか
この濡れ濡れとした　つぶらな瞳ひとみ
あなたとあなたが
マタグラを擦り合わせてこさえた
天使だとか呼ばれる生き物に

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キョンという外来動物がいます。中国原産で、鹿のなかまですが大きさは犬くらい。日本では動物園で飼われていたそうですが、逃げ出して増えたら農作物を荒らすだとか、在来の鹿と棲息圏がかぶるだとかの理由で、駆除されるようになりました。駆除の目標は「根絶」だそうです。鹿や猪だって「根絶」まではされません。ニュースで知った話です。
「屠体給餌」という言葉があります。駆除という名目で殺された鹿や猪を、動物園の肉食獣に餌として与えることを言います。Ｅテレでやっていました。キョンが屠体給餌されているのかは、知りません。
鹿、猪、キョンには「害獣」という呼び名がつけられています。