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古代の芝生をパレードする孔雀

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【短編小説】
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2022年7月の記事一覧

短編「ネクローシスのスープ」

外の世界はキケンだと聞いたから、森にいる。森はいつだって、居心地悪く、居心地よい。べたつく汗が肌身はなさぬ毛布になる。ムカムカするほど心地よいから、次は気が迷う。サクリ、と軽い足音がする。森の外へと踏み出して、明るい草を踏んでいる。 そこは白昼の草原と—————————もう一つの森があるだけだった。 向こうの森に近づこうと前に出る。あまりにも安易な一歩ではないか、大抵こういうのは罠なのだ。草の中から飛び跳ねてきた物体が、私と森の間に立ちはだかる。一枚の紙である。そこに「求人広

【ショートショート】Give (and) Take

年を取るって悪くないわ。 そりゃ誕生日の度、いろんな物を失う人もいるでしょうね。 みずみずしい肌だの、滑らかな指先だの、透き通った声だの。 でもあたしは生まれつき、そんなもの一切与えられなかった。 口紅を引いた唇を、軽くティッシュで押さえる。 鏡の中には、こってり塗った普通のオバさん。 年を取ってあたしが手に入れたのは、これ。 失ったんじゃない、手に入れたの。 欲しかった容れ物じゃないわ。でも身体を容れると、案外、悪い心地はしない。オバさんなら、意地の悪い「フツーの人」って