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5月読書会後記

2022年5月29日、今月も恒例のオンライン読書会が開催された。参加者はレギュラーメンバーの六名。今回はそれぞれが本を紹介するスタイルで行われた。

例によって会のダイジェストというよりは、読書会参加中の一参加者の頭の中だと思ってお読みいただけたらと思います。

一人目。

誰もが名前くらいは目にしたことがある人気漫画で、将棋をメインテーマにしている。紹介者自身も一時は将棋の世界で生きていくことを志したといい、厳しい将棋の世界から身を引くことになった登場人物の姿には共感するところも多かったとか。

私は将棋というと駒の動かし方を知っているくらいだが、小学生のころチェスにのめり込んだ時期がある。学校にチェス盤を持ち込んで、毎日のように勝負をしかけていた。戦績表のようなものを作って、勝率を競っていた気がする。イカれた小学生だった。

もちろん私は強い方だったが、そんな私も祖父には勝てなかった。当時天才だった私は、チェスも将棋も同じようなものだろうと高をくくっていたところ、飛車角落ちの相手に挑んだ一局でぼろ負け。ちょっと悔しかった私は、次の対局では覚えたての「矢倉囲い」を組もうとしたのだが、組み上げることに必死でまったく攻められず、あえなく敗退したのを覚えている。結局対局はそれきりで、私が成長する間もなく祖父との対局はかなわないものとなってしまった。祖父の家には今でも、私と対局するためだけに買われた立派な将棋盤が遺されている。

二人目。

変わり種として『アントニオ猪木』。稀代のプロレスラーの生涯に迫った本。私はほとんどプロレスがわからないのだが、ある世代にとってのアントニオ猪木はとんでもないヒーローなのだろう。最近、女の子を救ったというプロレスラーが話題になっていたが、あのニュースを見て、力を持った者が正しい力の使い方をして人を魅了することこそが真のプロレスラーだと感じた。その意味であのプロレスラーは、今最も輝いているプロレスラーなのかもしれない。

『無料より安いものもある~』は行動経済学の入門書。お金について考える際に読みやすく、わかりやすい本だそうだ。私は同著者の『予想通りに不合理』という本を持っているのだが、まったく開いていないことを思い出した。いや特に深い理由があるわけではない。この本を見たときにあっと思っただけ。

『サラ金の歴史』は文字通り、膨大な資料を駆使して書き上げられた精緻なサラ金ヒストリーだ。サラ金がダメとか良いとかの判断はさておき、なぜサラ金は生まれ、発展していったのかが丁寧に記されている。私も思うところがあって読んでいた本で、力作だと思ったものだ。ちなみに、借金で思い出すのはさだまさし。20代で35億の借金を背負ったが、最終的に全額返済したというとんでもない人である。彼のライブに行ったときに本人が、「それだけ借りられたというのは、逆にこいつなら返せると思われたからこそ」と言っていたのが忘れられない。借金の本質を突いた名言である。

三人目。私の紹介本。

この本に行き着いたのは、『勉強の哲学』などで知られる哲学者・千葉雅也さんが紹介していたから。ビジネス書チックなこの手の本はあまり読まないのだが、第一線の哲学者の紹介ならということで買った。

私も大概な哲学かぶれだったのだが、一歩引いた今でも知への好奇心は失っていないつもりだ。知を極めし者は当然のように哲学に通じているし、哲学抜きにすべての考えは語れない。知を愛する者として、哲学的な概念のひとつやふたつ、さらっと会話に織り込みたいという憧れはずっと抱き続けている。とはいえ、やっぱり哲学書は難しいし、結局わかったつもりになっていて、なんにもわかっていないのが素人の限界なのである。そこにきて、この本は本当にわかりやすい。漠然と理解していた概念を改めて確かめるのに使えるし、聞いたことがなかった概念を新たに知ることもできる。

すべての学問、ひいては「学ぶこと」そのものにいえるが、もっと謙虚にならないといけないとわかった。自分は賢いからこれくらいの本は読めるとか、このレベルの本は読むに値しないとかどこかで思っていたから、難解な本はまるで理解できないまま終わるし、平易かつ本当の良書をみすみす見逃してきたのだと思う。素人なら素人なりの学び方があるのだ。こうした入門書を活用して、少しずつ理解の幅を広げたいものである。

四人目。

『死後の世界』は先ほどの哲学の話を受けての紹介。こちらは世界各国の宗教的な死生観を漫画化したもので、作者らしい独自の視点が光る。しりあがり寿の作品もいつか読んでみたいと思っているのだが、なかなか触れる機会がない。知っているのは『風来のシレン』(ゲーム)ファンだということくらい。

『瀕死の双六問屋』については、私が何か言うよりご本人の記事を読んでもらった方が早い。

忌野清志郎については本当に有名なところしか知らないが、『デイ・ドリーム・ビリーバー』を歌った人で合ってるよね。セブンイレブンで流れているあれ。

『碁打秀行』は、破天荒で知られた囲碁棋士・藤沢秀行が綴った自伝。先ほどの忌野清志郎よろしく、紹介者は破天荒な人物が好きだとか。碁には疎い私には、藤沢秀行すら知らなかったが、だからこそ読んでみたい本のひとつだ。

五人目。

『百人一首の呪』はミステリー。ミステリーなので殺人事件が起きるわけだが、もうひとつ、百人一首そのものの謎も絡んでくるという。百人一首は本当に秀歌百選なのか、隠れたメッセージがあるのではないか。事件の謎と百人一首の謎、一冊で二つの美味しさがある小説だそうだ。私も日がな短歌について綴っているので、この本には非常に興味を持った。個人的にはこの日一番読みたいと思った本。

『破獄』は四度の脱獄を成功させた実話を元にした吉村昭の小説。本当にあったことを疑うような知力、体力、行動力を発揮した佐久間と、看守たちの息詰まる攻防戦が繰り広げられる。恥ずかしながらまったく知らない作品だったので、紹介者の話を聞いているだけでもおもしろかった。改めて、自分は狭い世界で生きているなあとつくづく思う。世の中にはかようにもいろんな人がいて、いろんなドラマがあって、いろんな本があるのだ。読書会に参加していて良かったと思う瞬間である。

六人目。

『哀愁の~』は椎名誠による青春小説。自身の青春期を題材にした明るく儚い青春物語だそうだが、紹介者が推していたのはちょっと変わった切り口だった。それは、小説の構成だ。学生時代の話が主になるはずがなかなか本題に入らず、やっと入ったと思ったら現代に戻ったり、また戻ったりと時系列が無茶苦茶だそう。それでも読めてしまうというのだから、さすが作家と言うべきか、とかくおもしろいそうだ。紹介者は「森見登美彦」の大ファンでしばしば読書会でもその話をしているが、その森見登美彦が自身のルーツ(のひとつ)として挙げていたのがこの本だったらしい。そう言われてみると、確かにそれっぽい。

『月と六ペンス』は時間が余ったからと、急遽紹介された一冊。歴史的な名著として知られる。古典だから読みにくいかと思いきや、非常におもしろく読めたとのことで、名著が名著たるゆえんがわかったと話していた。画家のゴーギャンがモデルになっているとも言われており、紹介者がその破天荒振りに驚いたと言ったところ、別のメンバーも「ほんと、その通りです」と盛り上がっていた。美術系にはとんと疎い私はここでも己の無知を恥じたものである。最近山田五郎チャンネル見てるのに。

以上六名、12冊。今回は過去の読書会を通じても類を見ないほどバラエティに富んでいたと思う。漫画あり、小説あり、古典あり、新書あり。ジャンルを見ても、哲学、宗教、経済学、将棋に美術に百人一首。一人の興味では到底ここまで広げられない。最近本を読んでいないと嘆いてばかりだった私も、改めて読書への活力を取り戻した一日。これだから読書会はやめられないのだ。

次回の読書会は、再び課題本設定型で開催予定。お題はこちら。

まさかの超有名ビジネス書。この意外性も、我々ならではだと思う。果たしてどんな対話になるのか、次回開催も楽しみである。

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