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女性編集者が陥りやすい“体調を崩す思考グセ”について中年の当事者(ワシ)が考えてみた

今日の原稿は、“ワシ”の一人称でいくことにする。

先日、2年ぶりに甥っ子に会った。驚いたのは、自分を「ワシ」と呼んでいたことだ。え、なになに、今の小学生ってこち亀好きなの? 両さんに憧れてるの?? だって最後に会ったときは「俺」(アクセントは“お”のほう)って言ってたよね・・・・。

思えば私も、たいてい一人称は「私」であるが、自分の中の両さんが時々顔を出し、ワシのほうがピンとくるときがある。今も昔も、何かと女性であることを強く意識させられるシーンが多かった分、あえて自分を両さんと同じ地平に立たせて思考したくなるのだ。もちろん、声に出すと周囲を戸惑わせるだけなので、脳内での使用に限る。

今回のテーマは“病(やまい)”だ。

中国ドラマ『30女の思うこと~上海女子物語~』を見ていたら、主人公のひとり、有名ブランドショップで働く販売員マンニーが、急性腎炎になった。ひとつでも多くの商品を売り上げてキャリアアップするために、トイレに行くのを我慢して店頭に立ち続けた結果・・・・という理由で。

LaLa TVの番組概要によると、このドラマは2019年放送、内容は「キャリア、結婚、子育て、不倫…境遇の異なる3人の女性たちが直面するリアルを描く、総再生数71億回を記録した、共感度200%の大ヒット最新ドラマ!」とのこと。つまり、上海に住む女性たちのリアルライフや心情が描かれている(はず)。そしてワシも“30女”のとき(正確には33歳くらいのとき)膀胱炎をやって、もんのすごく苦しんだのを思い出したのだ。

編集者になって最初の異変は、太ったことだ。

入社時は45キロだった体重が、1年経つ頃には58キロに。おかげで共通の知人の結婚パーティーで再会した元カレは、私に気付かなかった。「え? え、◯◯(ワシの名)?? ハ、ハードな生活を送ってると聞いてたけど、げ、元気そうでっ」とつっかえながら話す彼(当時プータロー)に、「ハードな生活送るとね、人は太るんだよ、普通の時間にごはん食べられないからね、真夜中おうちに帰ってベッドに突っ伏す前に冷食のチャーハンをチンして食べるからね。それ全部脂肪になるからね」と、社会人ぶって大人の哀しい現実を説いてきかせましたよ。

太ると体を動かすのが下手になり、筋肉が衰えて、姿勢もへんてこになる。やがて肩こりと腰痛がデフォルトになる。そうなると恋人は深夜営業のマッサージ店だ。当時はホットペッパービューティーもネット予約もない時代だったから、日ごろから「神保町ならココ、有楽町ならココ、赤坂ならココ、深夜時間帯なら24時間営業の恵比寿の東洋治療院」というように店舗リストを脳内に書き込み随時更新していた。校了明けには、後楽園のラクーアで汗とリンパを流し、ちょっと仮眠をとって始発で帰宅――というのもお約束だった。

同性の編集者やライターさんに会うと、たいていどこのマッサージがよいかという話題になる。エリアが東京から離れて香港やシンガポール、韓国に飛んだときは、「え、ワシいま課長島耕作みたいじゃないか?」と、自立して働く大人になれた気がして、ドキドキした。

30代になると、生理が止まった。膀胱炎になった。

これはもう、笑えない、笑っちゃならない症状だ。どちらも、まちがった生活スタイルや、勘違いした向上心から生じた体からの悲鳴だ。当時は、そう思えなかった。数少ない女性の先輩たちから「無理すると生理止まるよ。気をつけな。まあ人のこと言えないけどね」が合い言葉のように発せられていたから、“あーよくあることなんだな”と思い込んでいた。

現役30女さんよ、同じことを思っていませんよね? よくあっちゃいけないことですよこれ。どれだけ周囲が合い言葉をかけてくれても、その人はあなたの体を守ってくれないし、壊れてからなんとかしてもくれません。自分の体は、自分で守らないと。そして怖がらずにすぐ病院へ。ちゃんと治るから。

『30女の思うこと』で、マンニーは職場を離れるのが怖くてトイレを我慢していたが、ワシの場合も、いつ上司に呼ばれても“ハイッ“と“キリッ“と“秒”で対応するために、席を離れるのが怖かったんですね。

多分、ワシ、焦ってたんだろうなあと思う。企画が通らなくてページを取れなかったり、読者アンケートの反応がイマイチだったりで、自分の足場がいつも不安定にグラついている・・・・そんなふうに、仕事の成果が自分を見顕すすべてと思い込んでいた時期があったのだ。愚かにも。

心と体は一体だ。

ここ数ヶ月、女性鍼灸師さんとその患者さん(こちらも女性)とともに心身の不調とメンタルの関係についての本をつくってきて、実感している。

偏った思考のクセがついてしまうとそれが災いして体が不調に陥り、体の不調が余計に不安を呼び込むので、メンタルもおかしくなっていく。その前に、「もうダメ無理、だれか助けて。これから家に帰ります!」と叫ぶ勇気を持つことが大事。じゃないと70歳までとても働けないです。

この思考グセがどうにか取れてきたのが、40代に入った頃。ワシ、どう転んでもエース編集者とか切れ者とかデキるタイプじゃないよね、と吹っ切れたし、そもそも「編集者としての私」以外に「ただの本好きのワシ」だって居るわけで、そっちの分量を多めにしてあげたってよくない? と思い始めたのだ。

もちろん、編集の仕事には一定の熱量で向き合っている。むしろ、どんどん好きになっていると言っていい。この職業を選んだのはぼんやりした選択だったけど、いまとなっては必然だ。

伝えたいのは、痛みをひとりで抱え込み、そのあげくに倒れないで、ってこと。

ぶっ倒れてこそ真のビジネスパーソン、という考え方は昭和平成オトコ社会の遺物だし、昭和のオトコたちはぶっ倒れても清潔なお布団を敷いて下着の替えを用意して滋養たっぷりの食事を作ってくれる妻や家族がおうちにいたからね。ワシたちは全部自力でやんないとな。そんなのできないからな。だから、倒れるわけにはいかないんだよー。
生きろ。そして、生き残れ。

文/マルチーズ竹下
東京の出版社で、生活全般にまつわるアレコレをテーマにした書籍の編集をしている。20代はまんが雑誌で全力迷走、小学生雑誌で編集を学び直し、30代は週刊誌編集部で経験を積む。趣味は韓国ドラマ・・・・のはずが、最近はBTSの動画を観ながら寝落ちの日々。ペンネームは、犬が好きすぎるので。

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