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紙と電子書籍の本、どっちが売れて欲しい?と聞かれて、一瞬かたまりました

「私のこの本、紙と、電子書籍と、同時に発売になりましたよね。出版社としては、どっちが売れて欲しいとか、あるんですか?」
と、ある日突然、著者から聞かれました、

こんにちは、マルチーズ竹下と申します。

東京の出版社で、書籍編集をしております。ときどき、シュッパン前夜の活動の一環でnoteに投稿していますが、自ら発信するタイプの編集者に居がちな「ベストセラーたくさんつくりました」派でも、「SNSフォロワーたくさんいます」派でもありません。雑誌編集者時代は、半径5メートル(マルシーNHKドラマ)で見えてくる違和感を追いかけ、書籍編集部に移ってからは、「昨日より今日、少しでいいから、読者を幸せにするor読者の人生を底上げする」実用書や啓発本を出版したい思いで、けっこう長くこの仕事を続けてきました。そんな、本の街神保町に粘り強く生存しているタイプです。

冒頭の質問に戻ります。いっしゅん、答えに詰まりました。

該当の本は、バリバリの実用書です。しかも各ページにひと項目、ティップスが載っているという構成。そのため発売直後から「電子書籍で読みやすい!」との声がたくさん寄せられました。テーマからいっても、外出先で読みたくなる本です。しかも200ページ超えなので、持ち歩くにはちょっと重い。
かくいう私も、電子書籍はけっこう買います。もう何年も、マンガ本はKindleで読んでいるし、発売直後に品切れが続いた『女帝 小池百合子』(石井妙子/文藝春秋)は電子で購入しソッコーで読みました。お値段が紙の本よりちょっと安いのも魅力。しかも場所を取りませんから、本の処分に心と腰を痛める回数も減ります。


だからといって、「もう全部電子でいいじゃん」とは、まったく思いません。
書店に行けば、思わぬ出会いがあります。書店員さん手書きのPOP、またタイトルと書影(表紙デザイン)がキューピッドになり、お付き合いが始まる本があります。まったく眼中になかったのに、実際に手に取り、(迷惑にならない程度に遠慮がちに)数ページ読んでみたら「もしかして好きかも?」と気付くタイプとも出会えます。
さらに、紙の本には、デザイナーさんや印刷会社スタッフの「実績」が詰まっています。デザイナーさんは「この紙(の種類)ならこの色で、このメッセージ性ならこういうフォントで、読者層がこの層ならこのくらいの斤量でで」と読者に届いたときの目と手の感触まで計算してデザインしますし、印刷会社さんは神ワザで色調整や写真のキリヌキ作業という魔法をかけます。どちらも、膨大な経験値のたまものです。
出版社によっては、社のポリシーとして、「電子書籍をつくらない」宣言をしているところもありました。(ありました、と過去形にしたのは、私も読者としてお世話になっている某社さんが撤回宣言をしたからです。その宣言の内容は、かろやかだけど、出版業界の“四の五のいってる場合じゃない”情勢が垣間見えるものでした……)

さて、正解は?

売上げとか、担当編集者としての立場とかを優先すれば、実用書の場合、圧倒的に「紙で買ってほしい」、です。社内で「電子で売れてるね~」と声がかかっても、それは「紙ではイマイチだけどね、がんばって!!」という励ましの意にまちがいありません。
しかし。会社の看板はまったく背負わず(背負うほどリッパな立場でもなし笑)、マルチーズのちっちゃな頭で出した答えは、「今のあなた(読者/購入者)にとって都合のよいほうを選んでくださいな」という、じつに当たり前のものでした。お風呂で読みたい人は紙がいいし、もうモノを増やしたくない人は電子がいい。むしろモノとしての愛着も大事という人はやっぱり紙ですよね。

さて、明日はお休み。そしてまだまだステイホーム。Kindleで大量購入したマンガ『キングダム』(原泰久 著/集英社)のつづきが読めると考えるとワクワクがとまりません。

文/マルチーズ竹下

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