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未来美術家・遠藤一郎との対話。「ほふく前進御百度参り」のその後と10年前の「ほふく」体験について。

【さいたま国際芸術祭2020 今秋公開予定】

現在、開幕延期の「さいたま国際芸術祭」が今秋に内容を変更して公開予定ということが決まり、その事を遠藤一郎さんと対話する時間を設けました。

一郎さんは、2020年2月初旬から5/17まで、さいたまでほぼ毎日、日本一長いと言われる約2kmの氷川神社参道をほふく前進でお百度参りし、石を並べる「ほふく前進御百度参り」を行いました。


「ほふく前進御百度参り」の詳細は以下



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「ほふく前進御百度参り」について振り返る様子@越谷

冒頭、一郎さんから、さいたまでの「ほふく前進御百度参り」の99回目に運んだ石を頂きました。

「99回の石は浅見おまえしかいない!ドラクエ ならレベル99だ!」と満面の笑みで渡されました。笑

一郎さんとの共通言語は始めに会った時から、ドラクエ、ドラゴンボールで、大概のことはこれらの例えやイメージで意思疎通ができます。

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升の中に石が入っていて活動の様子の紙で蓋がしてある。黄色い垂れたペンキは100回目を達成した時に「溢れ満ちた」感覚を表現したものだという

いただいた石を握りながら話をする中で、コロナ禍ともにさいたまの現場で一緒につくることができた尊い日々を思い出します。

2月初めから5/17まで、本来ならさいたま国際芸術祭が行われる期間「ほふく前進御百度参り」を予定。しかし、コロナウイルス感染拡大防止の観点から、予定していた3/14の芸術祭が延期となり、会場も閉鎖。

その中でも、一郎さんは「ほふく前進御百度参り」を毎日のルーティンとして、日常の中で淡々と行なっていきました。そして芸術祭最終日の予定だった5/17に見事100回を達成したのです。

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100回目達成直後の様子。「溢れ満ちた」と男泣き


一郎さんとは、10年前の、2010年に水戸芸術館で開催されていた「BEUYS IN JAPAN−ボイスがいた8日間」関連イベント「愛と平和と未来のために」で初めて出会いました。

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展覧会期間に合わせ「46日間、一日8時間ほふく前進をし続ける」というアクションを行なっていた終盤、2010年1/17の暖かい冬の日。

私はボイスが大好きでこの展覧会を観に来ました。一郎さんのことはその前から知っていましたが、ボイスが来日した時に焦点を当てた展覧会を観たいと水戸へ。美術館の中庭の芝の上に黄色いテントがあり、それを見ていると林檎を持った一郎さんが現れました。

話を聞くと「46日間、一日8時間ほふく前進をし続けている」らしい。

そのほふく前進をしているといろいろなものを貰うようになって林檎も今もらったものだと説明を受け、その後もいろいろな話をしているうちに「一緒にほふくしようぜ!」ってことになり、ほふく前進をすることになりました。笑

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展覧会の会場もほふく前進で進む、が、肝心の作品は全然見えない

 ほふく前進に参加したのは、私ともう一人の計3名。

美術館の展示フロアの後、外に出て「今日はスペシャルのコースで行こう!ここからがきついよ!ドラクエでいう毒の沼地だ!」と尖った砂利が敷き詰めてある通路を通ります。

一歩一歩進むのが痛い中、私が「どうしてほふく前進を始めたの?」と、尋ねると「人間が進むスピードで一番遅いから」と笑顔で答えていました。

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当たり前に靴の裏からは感じられない地面の質感やほふく前進で見える視点が次第に面白くなってくるのが不思議でした。しかし、数時間に渡る慣れないほふく前進での移動は、身体がとても痛くなるので時々休みながら進みました。普段は障壁にならないものも大きな障壁となる体験もします。

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狭い通路をなんとか突破すると地面に謎のアイテム「FEIQドラゴン」が落ちていて、「完全にドラクエの冒険の書」だなと盛り上がりました。

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地面に落ちていた「FEIQドラゴン」


ほふく前進をしながら一郎さんは

「一歩目ふみださないと二歩目はない。勇気をだして勝負していく。皆、やればできるということを伝えたい」

と話していました。

見にきたはずのボイスの展覧会はほぼ見れず閉館の時間になり、また後日水戸芸術館に来ることになるのですが、この時の「ほふく前進」の体験がのちの10年後のさいたまに繋がります。



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2020.5/17
100回達成をともに共有したいと集まった方と、アーティストトークの後、
距離をあけて集合写真。場所は旧大宮図書館



「さいたまの現場を終えてから、1ヶ月ぐらい経ち、少しずつ分かったり言葉になったことがある「ほふく前進を2-3回ぐらいやった時、ほふく前進をひとりでやり切ると考えることは、(人間がバタバタ腕を動かすことで飛べると考えるような)「勘違い」だと思った。そう思った時、【自分が】という思考が様々なものに「壁」をつくっていることに気がついた。【自分が】というものを捨てた時に、力が抜けて周囲の無尽蔵とも感じられるエネルギーが得られた感覚になった。1回目は2kmの参道をほふくするのに約9時間かかったが、最後の方では2時間程で到着することができるようになったのも、自分だけではない力が加わったから」と少しずつ言葉にするように振り返っていました。


新型コロナウイルスという誰にとっても未知のものに対しても、一郎さんは少しずつ進む「ほふく前進」というアプローチで、対話を重ねていました。

新型コロナウイルスの影響か、未知のものや、自分とは異なる異質なものへ「壁」をつくりやすくなっている状況を肌感覚で感じていたと言います。

それと呼応するかのように、鋭い視線や行動、罵声を浴びせてくる人たちがいた中、「100回目のほふく前進御百度参り達成」が近づくにつれ、参道では一郎さんを応援する声が高まっていきました。これを実感した時、「いろいろな意味で安心した。もうここでほふく前進をする必要がない」と感じたと言います。

約2kmの日本一長い参道を、毎日ほふく前進して石を100個運ぶというストレートな行動が、様々なものを変容させていました。



芸術新潮2020年6月号、緊急寄稿シリーズ「新型コロナウイルスと美術の現場」では、ミズマアートギャラリー代表の三潴末雄さんが遠藤一郎さんの「ほふく前進御百度参り」について「(このコロナ禍)前に進めと呼びかけているようだ」と記しています。

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芸術新潮2020年6月号、緊急寄稿シリーズ「新型コロナウイルスと美術の現場」に「ほふく前進御百度参り」が掲載される


「一歩目ふみださないと二歩目はない。勇気をだして勝負していく。皆、やればできるということを伝えたい」

という10年前に聞いた言葉が改めて現在に力強く響きます。

コロナ禍、とてつもないコミュニケーションの現場がさいたまにありました。

再び芸術祭が再開する際には、なんらかの方法でこの時のことをプレゼントできるよう準備を進めています。


●関連リンク

さいたま国際芸術祭2020 今後の方針について

https://art-sightama.jp/jp/news/uFoQhrLJ/

遠藤一郎 「ほふく前進 御百度参り 100回目」


遠藤一郎 「ほふく前進 御百度参り 100回目 アフタートーク」




⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター