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最悪な負け方をして渋谷で韓国人に励まされて泣いた話

最後まで声を出し続けた。
距離感の掴みづらいピッチの向こう側で、相手ゴール裏の歓喜が伝わる。
終了間際の致命的な失点であった。
それでも手を叩き、応援するチームの名を叫ぶことをやめなかった。
ここで折れて何がサポーターか、トリコロールのユニフォームを纏う選手達が戦い続ける限り、自分たちが諦めていいわけがない。
先月経験した柏戦での劇的な逆転劇もその支えとなっていた。
とにかくこっちまで持って来い、来い、来い、その一心で声を送り続けた。

それでも終わりはやってきた。
ピッチに倒れ込む選手たち。
一段とボルテージを上げ喜びを爆発させる相手サポーターたち。
一気に全身から力が抜けるのが分かった。同時にまだ興奮で火照っている感覚とのアンバランスさが気持ち悪い。
その場に立ち尽くしたまま、ピッチを見つめる。

いつもであれば、戦いを終えてスタンドへの挨拶に向かう選手の列に目をうつすのだが今回は違った。
ヒーローとなった選手達を迎えて水色と黒に染まる相手ゴール裏から目が離せない。目を背けてはいけないと思った。
愛するクラブの名を叫び、選手の発する一言ひと言に沸くサポーター達。
肩を組みチャントを謳い、私にとっては最も嫌いなチームの名をコールしては盛り上がる。
文字通り最悪だった。最悪の気分だった。
いっときも目を離さないようにずっとその光景を見つめた。
心の底からドロドロとした言葉を尽くしても表せないような感情が湧いてきた。口に出してはならないたくさんの汚い言葉が溢れて止まらない。
それでも必死に、それは負けの前では何の生産性もないどころか惨めでダサくて格好悪いだけだから、必死に唇を噛みしめ続けた。

気づくと目の前に選手達が来ていた。
キャプテンの喜田拓也はまっすぐトリコロールのサポーターたちを見つめ、深く頭を下げた。
自分はブーイングも拍手もしなかった。できなかった。
代わりに出てくる言葉をそのまま声の限り叫んだ。

「もっとできるだろうよ  俺たちはマリノスなんだから」

左胸に刻まれた何より大事なエンブレムを握りしめ叩きながら、何度も何度も何度も叫んだ。

太鼓の音が鳴り、今日最後のチャントが始まった。
「どんなときでも俺たちがそばにいる 気持ち見せろよ愛するマリノスのため」
我々のコールリーダーはこれを歌うことを選んだ。


一緒に来ていた友人2人と帰路につく。やり場のない感情に対するせめてもの抵抗として知り合いのマリサポやスタッフの方に努めて明るく挨拶をした。

そのあと何を話したかはあまり覚えていない。前向きなコメントをくれる友人の優しさに救われたことと入った居酒屋のポテサラが美味しかったのだけは記憶にある。

友人と別れ、行く当てを求めて渋谷へ向かう。家までの電車はとっくに無かったが、そんなことはどうでもよかった。
車内でTwitterを開いたら小池裕太の離脱を告げるリリースが目に入りすぐに画面を閉じた。今のマリノスにとって、何より本人にとってこんなに酷い仕打ちがあるだろうか。救いがない。

駅について改札を出る。
ちょうどハチ公前出口への階段を登ったところで、前からやってきた背が高くガタイのいい韓国人らしき人と目が合った。

「 ユー ニッサン? 今日試合?どうだった?」

気分は最悪だったしただのダル絡みかと思ってスルーしようか迷ったが、相手から悪意は感じられなかったので答えた。

「、、、、、負けた」

そのとき自分がどんな顔をしていたのかは分からない。
しかし明らかにこちらの落胆を感じ取ったようだった。

「相手は?」

「、、、、、川崎」

そう答えると、もう言葉は要らないというように首を横に振り握手を求めた来た。手を差し出すとがっちりと掴まれ、そのまま引き寄せられる形で抱き合った。
背中を叩かれこう言われた。

「お前はよくやったよ、よくやった」

名前も知らない彼に言われたその言葉は何よりも刺さった。
それに応える意味で自分もその広い背中を叩き返した。

その拍子に落ちた自分のColombiaのサブバックを拾って

「ブラザー、忘れものだよ。 次は勝てる、絶対勝てるよ」

「うん、絶対勝つ」

こんなやりとりをして、最後にもう一度がっちりと握手をして別れた。


傍から見たらただの酔っぱらい同士のノリにしか見えなかっただろう。本来自分もそんな見ず知らずの人とコミュニケーションを取るタイプではない。

けれどこの日の自分にとっては確かにその短い言葉が、やりとりが、救いになった。

そのままガラガラのハチ公前広場を抜けて信号待ちをしていると、ふと数分前の出来事が思い出されて留めていた感情が溢れだしてきた。

「あぁぁ、、、 勝ちたかったなぁ、本当に勝ちたかったなぁ」

気づいたら声をあげて泣いていた。深夜の渋谷の交差点を渡りながら、号泣していた。



これが今年のダービーだった。

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