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若者に人気の“謎めいた”激安ファッションEC「SHEIN(シーイン)」が展開する勝利の方程式【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.145】

ケニー・リーが営む衣料品工場は、過密なスケジュールで稼働している。特定のブランド向けにTシャツを数千枚単位で生産する場合、一般的な工場は1~2ヵ月の納期で対応するが、リーの工場は得意先の要望でたった5日しか時間がないからだ。この得意先とは、世界のファッション業界を塗り替えようとしている謎めいた中国発の電子商取引(EC)サイト、「SHEIN(シーイン)」だ。

生産リードタイム(発注から納品までの時間)が短いうえ、、シーインはミシンの目飛びなど不良品の基準を多数設けていて、問題が見つかった場合は工場に返品する方針を明確にしている。

シーインは要求こそ厳しいものの、中国製アパレルの一大輸出拠点である珠江デルタ地域では国内サプライヤーの間で非常に人気が高い。その理由の一つは、生産者への支払いを期日通りに行うことで定評があるからだ。

中国のサプライチェーンは高度化されており、リーのようなサプライヤーは必要な材料をものの数時間ですべて調達できる。その上、中国は新型コロナウイルスからの経済回復が早かった。こうした背景から、シーインは訴求力があって比較的低価格の商品を武器に、世界中のZ世代(1990年代後半以降生まれ)をターゲットにできている。

ZARAを超える可能性がある

毎日5000点近くの新商品をサイトに追加するシーインは、アップルとグーグルが運営する米国のアプリストアの「ショッピング」カテゴリーで、5月にネット通販最大手アマゾン・ドット・コムを抜き、人気ランキングのトップに躍り出た。ZARAやH&M、ユニクロといった競合大手にも圧勝している。

シーインの創業者で最高経営責任者(CEO)の許仰天(38)は、メディアのインタビューに応じたことも、公の場でスピーチしたこともない。推計企業価値が約3000億元(約5兆円)にものぼる企業としては珍しい。

米インフルエンサーマーケティング会社ハイプ・オーディターのリポートによると、動画投稿アプリ「TikTok」で2020年に最も話題に上ったブランドがシーインだった。120万人のフォロワーと4000人超のインフルエンサーが動画で話題にしたという。

中国のテックメディア「レイトポスト」によれば、シーインは2020年の売上高が100億ドル(約1兆円)に倍増し、コロナ禍で実店舗が大打撃を受けたZARAとの差を縮めた。

シーインは2008年、「越境ECプラットフォーム」として中国東部・江蘇省の省都、南京市で誕生した。創業者の許は、検索エンジンの最適化(SEO)からスタートし、中国製のウェディングドレスを海外向けに販売する事業を始めた。

現在に至るまで同社のメインターゲットは海外の消費者で、国内向けの販売はほぼ行っていない。中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」やウィーチャットの会社アカウントは、主にサプライヤーの募集に使われている。

その反面、シーインはアーティストのケイティ・ペリーやリタ・オラ、モデルのヘイリー・ビーバーなど有力なインフルエンサーと手を組む海外では高い知名度を誇る。コロナ対応基金の支援を目的に昨年実施したストリーミングイベント「シーイン・トゥギャザー」では、こうしたセレブたちの出演が注目を集めた。

前出のタナーによると、シーインは「世界中の消費者と政策当局から反中感情が高まっている現状を踏まえ」、中国発であることを前面に出さないようにしているが、同社を成功に導いているのは紛れもなく“世界最大の工場”としての中国の構造的な強みだという。

「試行錯誤を通して多くのことに挑戦する覚悟が彼らにはある。こうしたリーンスタートアップ(無駄を省いて効率的に新規事業開発を進める手法)と、得やすいものは失いやすいという精神は、今や彼らのブランドのDNAに組み込まれている」とタナーは言う。

「中国は世界の工場であるため、彼らは何が作られているかを非常に早い段階で知り、すぐに模倣して改善することができるのです」

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https://peatix.com/group/7228383





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