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「女性は既婚の方が成熟している」 宇宙飛行士でも破れない中国の差別の壁【クーリエ・ジャポンからの抜粋-Vol.192】

王亜平は、中国人民解放軍空軍のパイロットだ。宇宙飛行のベテランで、現在2度目のミッションに臨んでいる。今後数週間内に、中国の宇宙ステーションが時速1万7100マイルで地球を周回するなか、中国人女性として初めて宇宙遊泳を行う見通しだ。

しかし、中国の野心的な宇宙計画の中核を担う王が、6ヵ月におよぶミッションを開始した際、政府や報道機関の関心は、その業績よりも、男女の生理機能の違いや月経周期、そして王の5歳の娘に向けられた。

打ち上げの直前、中国国家航天局の庞之浩(パン・ジーハオ)は、貨物カプセルが軌道上の宇宙ステーションに生理用ナプキンや化粧品を供給した、と明らかにした。

「女性の宇宙飛行士は、化粧をしたほうが調子がいいかもしれませんね」と、庞は国営テレビのCCTVで発言した。

女性差別が横行する中国

41歳の王は、毛沢東が「女性は天の半分を支える」と言った中国の男女平等のモデルであるのと同時に、中国の社会、ビジネス、政治を貫く、隠れた性差別と見下しの対象でもある。

中国で始まった「#MeToo」運動は、法廷やネット上の検閲で反発を受けている。8月に開催された東京オリンピックの砲丸投げで金メダルを獲得した中国人選手は、その“男性的”な容姿や、結婚や家族の計画について、非礼な質問を浴びた。

現在の中国では、芸能界以外の女性が王のように注目を浴びることは稀だ。たとえ壁をなんとか破れたとしても、その成果はジェンダーの視点から見られることも多い。

選ばれた理由は既婚だから

中国が初めて女性を宇宙に送り出したのは約10年前のことだが、王のミッションは公式発表や国営メディアではニュースとして扱われている。

「私にとって宇宙飛行士は職業ではなくキャリアであり、このキャリアに熱烈な愛を抱いています」と、王は語った。「この愛があれば、どんな困難も克服し、いかなる障壁も乗り越え、自分の命も犠牲にすることもできます」

王は2012年、中国人女性初の宇宙飛行士で、劉洋(リュウ・ヤン)が臨んだミッションのバックアップクルーだった。劉は同じく軍のパイロットで、宇宙船「神舟9号」の乗組員として宇宙で20日間過ごし、現在の宇宙ステーションのプロトタイプとドッキングした。その1年後、王もチャンスを得て「神舟10号」に搭乗した。

王と劉は、中国の宇宙飛行士訓練プログラムに10人の女性が初めて選ばれた際のメンバーだ。選ばれた理由の1つは、既婚者だから。当時の政府関係者の声明によると、宇宙旅行が生殖能力に悪影響を及ぼす可能性があり、「結婚している女性は肉体的にも心理的にもより成熟している」という理論に基づいてのことだった。

「ミッション前に髪を切れ」

王は、「神舟7号」で宇宙に旅立ったミッション・コマンダーの翟志剛(チャイ・チーカン)と初めて宇宙に行く葉光富(イェ・グァンフー)の2人の乗組員と共に、正式に賛えられている。今回のミッションでは宇宙遊泳を行う予定だ。

ネット上では、女性と男性が、過酷な宇宙遊泳を含む同じ肉体的作業に適しているかどうかについて、議論が巻き起こっている。

王は国営メディアで台本通りの出演をこなし、中国人女性として2人目の宇宙飛行士であり、2度の宇宙飛行を行った最初の人物であることを誇りに思っていると表明した。

ネット上では、王の業績ではなく、外見や化粧、月経などばかりが言及されることに反発するコメントもあった。

「女性は化粧品やスキンケアなしでは生きていけないかのようだ」と、あるユーザーは「天宮」への補給ミッションに関するニュースの下に書き込んだ。「これはすでに、王亜平の英雄としての本質をぼかしている」


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