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【感想】地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

「一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス」さんより書籍を頂きました。私は先月からキャンプ場の運営受託事業を立ち上げるため山梨県北杜市へ生活の拠点を移しています。メディアでは移住希望者の多い地域として取り上げられることも多いですが、実際に住んでみて分かることも多くあります。

空き家問題

本書でも取り上げられている「空き家問題」ですが、ここ山梨県はその空き家率が全国ワースト1位です。私も北杜市へ引越す際に物件を探したのですが「家賃が安くないこと」に驚きました。当然東京と比べれば圧倒的に安いのですが、町中のいたる物件に”入居者募集!”とあるわりに家賃が下がっていないのです。

本書では家が余っているのに家賃が下がらない理由について「大家が生活に困っていない」という点が挙げられていました。

物件探し中に”東京の不動産会社に勤めていて、最近山梨に戻っきた”という店員さんと出会いました。彼女も地方での住宅事情について戸惑いがあるようで「首都圏では入居者が守られているが、ここは違う。壁についた画鋲の穴などは入居者が修復しないといけない。」と言っていました。大家が生活に困っていないため入居者に対し強気な商習慣が残っているようです。

シャッター街と大型商業施設

地方都市の課題として「シャッター街」と化してしまった商店街があります。山梨の県庁所在地は甲府市です。甲府駅といえば東京から特急列車で1時間30分、高速バスも1日に20本以上走っているアクセスの良い都市です。週末には多くの観光客が訪れるのですが甲府駅周辺の商店街は週末でもシャッターを下ろしている店舗が目立ちます。

それと引き換えに週末には人で溢れかえっている場所があります。『イオンモール甲府昭和』です。ちなみに山梨の複合映画館はここの「TOHO シネマズ」しかなく、県内で新作映画を観るには必然的にイオンへ行くしかなくなります。

正直なところ”地元商店街のお客さんが大型商業施設に奪われている”と聞いても「商店街がお客さんを集められないのは努力不足だし、商業施設で雇用が生まれているのだから問題ないのでは?」と思っていました。しかし本書では商店街から商業施設へお客さんが奪われることの本質的な課題が指摘されています。

駅前再開発ビルやロードサイドやショッピングモールにチェーン店が立ち並ぶと立派なまちになった気になるが、結局のところ利益は都市部のそれぞれの本社に戻り、もっと儲かりそうな別の都市に投資されていく。
※本書コラムより抜粋

つまり地元の企業が儲からないと地域にとっては経済効果が薄いということ。店舗1つのお金の出入りだけでなく、もっと大きな経済構造を理解して仕組みを作らないと地方経済は改善しないのです。事業を作る際は自分もこの点を意識していく必要があります。

補助金・助成金

本書の帯にも記載されている「補助金が地方のガンなんや!」という文言。補助金が「投資」ではなく「赤字の補填」として使われていることが問題だという指摘です。

かく言う私も「こんな事業をやりたい!」と相談すると「こんな補助金があるよ!」とよく紹介していただきます。もちろん事業を構想する際に計画書を作るのですが「補助金なし」と「補助金あり」のパターンでは(無意識でに)数字を変えていることに気づきます。

私が検討する補助金は創業に関するものなのでどれだけ儲かるかを説得する必要があります。赤字の補填とは異なるものの、気づけば補助金がない場合では含めないコストや設備投資が計画書に増えています。本来は補助金を考えないパターンで作った計画書が『正』であり、そこで計画されているコストの一部を補助するのが補助金であるはずです。補助金を前提に強気な設備投資をしてしまい、十分なリターンを得られず結果的に維持費で赤字となる可能性については十分に検討する必要があります。

※補助金の紹介をくださる方は善意で仰ってくれていますし、個人的には補助金本来の目的通りに使用されるのであれば非難されるべきものではないと思います。

公的機関のサポート

これは本書の内容から少し外れるのですが私の体験です。とある公的な事業支援機関に事業アドバイスを受ける機会がありました(無料)。複数の方とお話したのですが、みなさん決まって「地域の魅力を伝えよう!」「イベントをやりなよ!」とアドバイスをくれます。

私自身もそのアドバイスを否定するつもりはないですし、キャンプ場運営にあたっては必ず必要だと思っています。ただしアドバイスする側はイベントが1発当たれば評価されるのに対し、実際に事業をする側はその後もずっと事業を成り立たせなければなりません。特に創業前の段階であればイベントに頼った計画ではなく、収益構造や資本政策についてアドバイスしてあげるべきではないかな?と思ったのも事実です。

公的機関の職員の方でも事業について本気で考えサポートしてくださる方も多くいらっしゃいますが、効果のあるサポートを望むのであればそれなりの対価を払い専門家と話をする方が良いな。と感じた出来事でした。

まとめ

私自身、地方に来て1ヶ月程しか経っていませんが本書で描かれていた出来事に近いことに幾度となく遭遇しており、嬉しいような悲しいような気持ちで読み終えました。ここ北杜市は2006年に8町村が合併し誕生した地で、合併後もそれぞれの町村での慣行が色濃く残っており気を使う場面も多いです。

「その土地に住む人が不便なく生活できる」という当たり前の願いですが、過去の負債から解決するためには地域の経済構造全体に目を向け仕組みを作っていく必要があります。私は『キャンプ場』という外部から人を呼び込む事業をスタートさせるわけですが、キャンプ前後に地域を周遊させ地域経済に貢献することで力になっていきたいと思います。


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