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自動車販売業界が抱える3つの矛盾。トラブルが頻発する構造的な課題とその解決策について。

某中古車販売・買取会社の事件がここ2-3ヶ月ほど随分と話題になっていました。私自身、この数年でcocoの事業を通じて100社以上の自動車販売会社様と関わっていたこともあり、今回の件は他人事と思えないような感情を覚えました。

先に断っておきますが、本記事は中古車販売・買取会社の事件に直接関係するようなものでもなければ、事件を糾弾するような内容でもありません。

ただし、少し近いところで別の重要な課題が放置されていると感じています。そこで、その課題感や解決案を共有したく、本記事を執筆するに至りました。


頻発する自動車販売業界におけるトラブル

一般社団法人 自動車公正取引協議会 2022年度 消費者相談レポートhttps://www.aftc.or.jp/content/files/am/shohisha/2022_soudan_report

自動車販売業界でトラブルが頻発していることは、上図の通り事実です。実際身近な範囲でも「自動車販売店からひどい目にあった!」「あのスタッフは信用ならない!」という声を聞いたり、トラブルに起因するような悪いオンラインレビューを目にすることもよくあります。

ただし、それらは例の事件で取り出たされている「虚偽の請求が行われていた」というような「不正」だけでなく、もう少し「まぁ起こり得るよね」という程度には理解できる「トラブル」のようなものであると感じています。

私としては、「不正」同様に、「トラブル」の頻発もまた社会全体に不利益をもたらす非常に大きな問題だと考えています。そこで、本記事では後者のトラブルの頻発による業界不信とその原因や対策についてお話させてください。

まずは、いくつかありがちなトラブルの例を紹介します。

言った言わない問題

ある自動車販売店では、お客様とのコミュニケーションを全て電話で行っていました。店舗のスタッフさんは一番都合の良い平日日中にお客様に電話しますが、なかなか電話は繋がりません。なぜならお客様は平日日中は仕事をしているからです。プライベートな用件の電話はどうしても後回しにされてしまいます。結局何度か電話をかけてやっとの想いで繋がった頃にはもう19時。終業の時間です。最近は労働のホワイト化などもあり、残業もあまり推奨されなくなってきました。結局夜にドタバタと最小限のコミュニケーションでなんとか終わらせていきます。

その日の電話の内容は車の色に関するものだったのですが、お客様は「灰色にしようかなー、黒にしようかなー。黒でお願いします!あ、いや、やっぱグレーで!」なんてことを言ったりします。この場合、スタッフさんが最後の「グレーで!」を聞き漏らしてしまうと希望色は黒だと認識されてしまいます。そして、数日後にはお客様もスタッフさんも何を言ったか記憶があやふやになっていきます。買った車の色が違ったとしたら購入側からしたらかなり嫌なことだと思いますが、実はこれは比較的(トラブルの重さの割に)「ありがち」です。

整備の際のお見積りや対応内容も電話で伝えるケースが存在します。これも、認識の齟齬からトラブルになりがちです。

押し売り問題

強引な販売に関するトラブルも自動車販売店では起きがちです。自動車は仕入れや在庫の問題もあるため、必ずしもお客様の要望に100%応えられる訳ではありません。そんな中でも売上を作りたい販売会社からすれば、あらゆる手を使って手元の商品をお客様に提案していく必要があります。

結果として、どうにかこうにかその場しのぎで魅力を伝えて受注にこぎ着けたとして、後からお客様より「欲しくない車を押し売られた」と言われてしまいます。

売ったあとは塩対応問題

「受注が決まったあと、突然塩対応になった」といったような話もよく聞きます。受注が決まるまではあらゆる細かい気配りや連絡があったのに、契約書に印鑑を押すやいなや対応が最小限になってしまう、という現象です。

スタッフの立場で考えると、売上が確定したのであとは極力原価(≒自分の対応コスト)を抑えたほうが利益が高くなります。なのでなるべくコミュニケーションや対応を減らすことのインセンティブが強くなります。

一方で難しいのが、販売側としてもお客様に好かれる重要性は理解しているため、スタッフさんはついうっかり「いつでもお気軽に連絡してください^^」なんてことを言ってしまったりします。にも関わらず塩対応をしてしまうため、余計にお客様からの期待とのギャップが大きくなります。

トラブルの原因は構造的な3つの「矛盾」

上記のようなトラブルは必ずしも店員さんが「不誠実」だから発生している訳ではありません。しかし、顧客側に不誠実だと感じさせて信用を失っていことは事実です。これらの背景にあるのは、概ね構造的な「矛盾」です。

自動車販売における3つの矛盾

時間の矛盾

これは非常に分かりやすいですが、顧客の都合が良いのは夜間や土日が多く、店舗スタッフさんの都合が良いのは平日日中です。結局「土日にめちゃくちゃ忙しくなる」ことでこれらは解消されているようにも見えますが、それが過剰な忙しさや余裕のないコミュニケーションの原因ともなっています。土日は店舗スタッフさんは来店対応で忙しく電話はやりにくい、といった状況も発生しています。

小さな問題のようにも見えますが、週5日働いているとして、そのうち3日は都合の良い時間が顧客と合わない(大げさに言えば60%が無駄になっている)としたら、非常に大きな問題だと思いませんか?

需給の矛盾

顧客側(需要側)は理想的な性能かつ安い商品と手厚いサポートを望み、スタッフ側(供給側)は今ある在庫かつ高い売上と少ないサポートを望みます。押し売り&塩対応 問題の原因は、この観点で非常に理解しやすいと思います。

受注後のサポートに関しても、例えば電話による会話で顧客側は相手がしっかり手厚くメモなど残してるのだろうと期待しますが、店舗スタッフさん側はメモも細かい確認も怠りがちです。店舗スタッフさん側は「より少ないコストで回したほうが得」なので、大げさに言ってしまえば「雑にやったほうが得」なのだと思います。

※信用を失うから長期には店舗スタッフさんも損してるのですが、少なくとも短期のインセンティブ構造としては、という感じで捉えてください

モデルの矛盾

顧客側とスタッフ側の「嬉しいライミング」の違い

顧客側は車を手に入れて快適なカーライフを送れることをゴールとしているとしても、売り手となるスタッフさんは「受注」の契約が取れた段階である種のゴールを迎えます。極端に言ってしまえばその後は消化試合になるため、「それまで丁寧だったのに受注したとたん雑になる・連絡が遅くなる」みたいなことが発生します。

これは需給の矛盾に近いものもあるのですが、「売上発生と価値提供のタイミング」の問題でもあるなと思ったのであえて別で記載しました。

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細かく言えば他にもたくさんあると思いますが、この3点だけでも非常に大きな矛盾を抱えていることがわかると思います。

これらの多くのトラブルにおいて、店員の不誠実ではなく構造的な矛盾が背景にあり、そこから起きる現象が「不誠実であるという印象」を作っているのだと思います。

構造的な「矛盾」をテクノロジーの力で解決する

こうした構造的な「矛盾」を解決するのがテクノロジーの本領だと思います。構造的に矛盾している以上、人の頑張りや社内ルール等の工夫だけではほぼ確実に問題が再発します。

そこで、テクノロジーによる問題解決策を下記に提示します。

テキストメッセージによるコミュニケーションの非同期化と記録

特殊なツールを使うより、使い慣れたメッセージチャネルで十分です

まず「時間の矛盾」に対し最も強力に作用するのが「テキストメッセージの利用」です。平日昼間に電話に出れなくても、例えばLINEのメッセージ程度であればサクッと返信できると思います。

電話など「常に同じタイミングでコミュニケーションする」ことを「同期コミュニケーション」と呼ぶのに対し、「タイミングをずらしてコミュニケーションする」ことを「非同期コミュニケーション」と呼びます。

リモートワークの広がりにより非同期コミュニケーションツールなどもだいぶ増えてきましたが、お客様とのコミュニケーションにおいてもそれを適用していく事が重要だと思います。

特に電話での業務に慣れている世代からすると「お客様とは会話してなんぼでしょ」といった感覚や「LINEだと失礼」みたいな感覚を持たれがちなのですが、実際のところは真逆で、LINEを使うと凄く感謝され、今まで以上に距離が縮まります。

更にもう一つ良いのが「記録が残る」ことです。たったこれだけで「言った・言わない」問題がほぼ解決します。メモを取る手間も省けるし、他のスタッフへの引き継ぎも一瞬でできるようになります。画像の送信などもできるため「点検の記録を送信する」といったことでより信頼感を高めている会社も存在します。

テキストメッセージは、単なる情報伝達ツールではなく、2者間の約束とその達成の履歴です。だからこそBtoCのコミュニケーションにおいても非常に強い力を発揮します。トラブルの8割はこれで解決できると言っても過言ではありません。

「早く終わらせる」ための管理

受注前、納車前、等でのプロセス管理

テキストメッセージで基盤ができたあとに大事なのが「とにかく早く終わらせる」ことです。

例えば車を買うとき、顧客側はいち早く車を手にすることを望みます。だからこそamazonなどは「即配達」に力を入れています。一方でお店側も、商品を素早く売りさばき、回転率を高めることを望みます。そのほうが収益が増加するからです。

つまり「早く終わらせる」ことに関していえば、この2者のインセンティブは一致します。希望商品、価格やサービス品質については矛盾しがちなので極力テキストで期待を明確に一致させることが重要です。そこに合意さえ取れてしまえば、あとは約束を実行しつつ「とにかく早く終わらせる」ことが重要になります。

実際「より早く納車されるサービス」と聞いたら魅力的に思いませんか?その実績が信用を生み出し、そしてお店側にも利益をもたらします。

管理方法はシンプルで、「顧客が今どの販売ステータスにいるか」ということを可視化しておけば大丈夫です。例えば、この人は契約前、この人は納車前、といった具合です。それによって対応の優先順位を都度的確に判断し、無駄のないプロジェクト進行が可能となります。あとは極力早くメッセージを返す、等の基本の徹底で十分だと思います。

レビューに向き合う

Googleクチコミの存在感も随分と大きくなってきました

サポート等の売上が発生した"後"の頑張りを次の売上に変える、という意味では直感的にもわかりやすいと思います。数年前はそこまで着目されていなかったGoogleマップのクチコミも、今となってはその影響力は疑いの余地もなくなってきました。

勿論、このレビューはまだまだ完璧なものではありません。しかし一方で、各レビュープラットホームがサクラ対策等をかなり頑張っているのも事実で、この信ぴょう性事態も年々高まっているように感じます。

良いレビューの増加は高収益をもたらします。そして、良いレビューを増やすために最も重要なことは、お客様からに良いサービスを提供し信頼関係を築くことです。勿論「依頼する」ことなどもテクニックとして重要ですが、依頼したときに書いてもらえるかどうかはその前段の信頼関係に依存します。

つまり、レビューに向き合うことで、受注後の対応を頑張っていくインセンティブを店舗スタッフさんに生み出すことができるということです。

coco利用店の圧倒的な成果

宣伝のようになってしまいますが、上記の「テキストメッセージ」「早く終わらせるコミュニケーション」「レビューに向き合う」を実現できるのが「店舗向けメッセージ一元管理システム coco」です。そして実際に、収益増加やCS・業務効率改善にも貢献した事例がいくつもあります。

cocoでテキストメッセージを一元管理できます

納車時の対応工数 1/10 を実現

電話をやめたことでタイミングの行き違いがなくなり、納車時の対応工数が 1/10 程度になったという事例が生まれました。言った言わない問題を回避するために何度も細かい確認を電話で行う手間もかなり減ったため、非常にスムーズな納車ができたとのことでした。

必要以上の書類の印刷もなくなったり、休んでいる人のフォローなどもやりやすいため、とにかく無駄やタイムロスが減るようです。

CSの最高評価割合が40%増加

また、あるお店では顧客アンケートにおける満足度の「最高ランク」の割合が 30%程度 -> 70% まで増加した例もありました。これも電話連絡によるお客様への負担が少なくなったことや、「早く終わらせる」ことができたからだと思います。

お客様は電話連絡を嫌がる人も多いため、購買体験の改善に繋がりました。「電話ではなくメッセージで対応して頂きありがとうございます」といったような声も上がるようになっていました。

レビューやアンケートをチームで見返す習慣も

Googleクチコミやアンケートは、ただ集めるだけでは成果は半減します。それを定期的にしっかり見返し、チームで良い点や悪い点を振り返る習慣を作ることでその成果は最大化されます。

週に1回などの頻度を決めてお客様の声を全員で振り返るタイミングを作ることで、社内でサービス改善が進んだりモチベーションの向上につながる事例も数多く生まれています。

複雑で例外の入り組む店舗の「長期の成功」にコミットする

少し視点の違う話になりますが「どうしてここまで大きな課題が、今の時代になっても放置されているのか」という点にも言及させて下さい。おそらく多くの人が「なんでこの店舗はこの時代になってもこんなDXができてないんだ・・・」と感じがことがあると思います。私もずっと感じていたので今の事業を始めました。

そして、実は店舗のスタッフさんも同じことを感じています。その現場で働く多くの人が「うちって非効率だよね・無駄が多いよね」という話をしています。

では何故出来ないのかと言うと、リアルな店舗では、常に複雑な事情が絡む事柄や例外的な出来事が発生するからです。例えば1回の自動車購入だけを考えてみても、買い手となる方の事情、買い手の家族の方の事情、売り手のスタッフさんの事情、店長さんの事情、その管理者となるオーナーさんの事情などが絡み合います。更に、それらの「事情」の組み合わせは実質無限パターン存在しうるため、もう二度と同じシチュエーションは現れません。全てが例外なのです。

ソフトウェア開発をすればすぐわかることですが、ソフトウェアは例外に弱いです。なので、安易なDXは基本的にその例外に対処できず頓挫します。

cocoとしても、この業界の構造を理解するために大変な労力をかけました。しかも未だに全容が解明できたとは言い切れず、試行錯誤と発見を繰り返しているような有様です。

そんな難しい環境でも、顧客の長期の成功に向けチーム一丸となってコミットし続けることをcocoとしては大事にしてきました。これは、顧客の声を聞くだけではなく、「長期の成功」にフォーカスしてこちらから働きかけるような形で試行錯誤を繰り返すことが、唯一この業界での問題を解決していくための道だったからです。

自動車業界だけの話ではない

また、今回挙げたような問題は実は自動車業界だけではなく、「接客を伴う比較的単価の高いサービス業」全般で起きています。例えば住宅業界、医療業界、保険業界、高級な飲食店、リラクゼーション、美容、等々、「リアルな現場」と「ヒトによるサービス」が伴う業界です。それらの業種のオンラインレビューを見ると大体似たような苦情が入っています。

cocoとしては、自動車業界のみならずあらゆる業種の「お店の接客」のあり方を変えていくことで、業界改善や体験改善はもとより、私達の日々の暮らしそのものをより安心できる楽しいものにしていきたいと考えています。

お店は 「ヒト」 が全て

消費者としての観点で考えると、今回の中古車販売店の事件を通じて「誠実なサービスを提供してもらえること」「相手に全幅の信頼をおけること」というのが必ずしも当たり前のことではない、ということが再認識されたのではないでしょうか?

実際、自動車業界で働く方に話を聞いてみると「おたくは大丈夫なのか?」という質問が増えていると聞きます。車の専門家ではない消費者からすると、お店の担当者の方の信用がほぼ全てなので致し方ないことだと思います。実際には口にしていないだけで「大丈夫なのか?」と感じている人も存在するでしょう。

日々の生活で、お店とは無くてはならない存在だと思います。自動車のみならず、飲食、健康、住宅、お金、美容、教育、等々挙げれば枚挙に暇が無いほど毎日あらゆる人があらゆる場所で「お店」でのサービスを受けていると思います。実際、日本国内には小売店だけで100万店舗以上存在し、そこで働く人は数百万人にも及びます。

少し古いデータですが、小売店で働く人は約700万人もいます
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/result-2/h9/kakuho/daikibo/page06.html

そんなお店やそこで働く数百万人が信頼できない存在であれば、それだけで日々の生活は非常に不快なものになってしまいます。その逆で、あらゆるお店でそこに「全幅の信頼をおける身近なパートナー」が存在したら、本当に毎日が安心できる楽しいものになると思います。

顧客志向を当たり前に

cocoは、今の事業を始めた5年前から一貫して「顧客志向を当たり前に」というビジョンを掲げています。誠実な接客努力やそこで働く人の魅力が最大限に活かされ、地域の信用の輪が広がっていく社会の実現を目指しています。

私達が利用する全てのお店が「全幅の信頼をおける専門性の高いパートナー」になったら最高だと思います。そんな想いと、改めてのこれからの決意をこの記事で伝えられたらと思います。

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