見出し画像

日々の雑感 day64【ヴォルテールの嘆き。歴史と心理学に見る確証バイアスへの対処】

18世紀後半。フランス人哲学者のヴォルテールが残した一文にこのような内容があります。

「私達フランス人は、他の国が採用している知識や情報、見解を受け入れるのがいつも一番最後になってしまう。他の国はもうその過ちを清算してしまっているのに、私達フランスが過ちを清算するのはいつのことであろう。ニュートンが証明した事実を受入れるのにフランスは 60 年を要した。種痘(天然痘ワクチン)によって自分らの子の生命を救うことに、フランスはようやく踏みきったところだ。農業の正しい原理を実施に移したのもつい先頃でしかない。人間愛の正しい原理を実施に移すのは、一体いつの日だろう」

ヴォルテールは、今、見方、考え方さえ変えれば救える顔も知らぬ誰かの「命」を見つめ、度々「寛容(受容)」や「理性」という言葉を使っています。そして、同調圧力と知識や技術がアップデートされないまま、国民の命を失わせていくフランスの現状に対し、英国における多様性と変化、進歩、国民の守られた命を対比し、こうして書き記していたわけです。

実際、この後にイギリスは世界制覇ともいえる大成長を遂げ、一方でフランスは国そのものが内部崩壊していく事になります。

☆確証バイアスって?

「科学的方法の真の目的は、実際には知らない事を、知っているかのように勘違いしていないか・を学ぶ事にある」(R・パーシグ)

確証バイアスを単純に説明すると、私達が「都合の良いことしか信じない力」と言えるでしょう。ヴォルテールが嘆いたようにフランスでは種痘をすると「人が牛になる。牛の顔に似てきたり、牛の毛が生えてくる」といった風説が流行り、フランス以外の国では誰も牛にならず、死者が減り、人々の命が救われている現実があるのに、その事実(FACT)を教会を中心としたフランス権力者側は受け入れようとしなかったわけです。

権力とセットにもなりやすいのですが、人は道徳心が下がると

①綿密な計画を立てる脳回路
②過去の失敗から学ぶ脳回路
③自分を俯瞰し、成功をイメージする脳回路

 
が弱くなり、綿密な計画を立てられず、過去の失敗を学べず、成功をイメージ出来ないヤバい状態になります。こうした特徴は、現在ではEQ(心の知能指数)が低いケースの特徴としても知られています。

また、当の本人は周囲の評価とは裏腹に、自分自身に十分な道徳心や自律、自制の心があると思い込んでいるところも特徴と言えるでしょう。

☆聴く耳のない相手とは距離を置いて身を守る

個人として自分の中に宿る確証バイアスに対する心構えの第一は、否定しない事です。確証バイアスは生まれてから死ぬまでお供をする自分自身の一部ですから、これを否定すると自分を否定する事にもなってしまいます。

基本的に我々は、

情報 ⇒ 感情 ⇒ 思考

という順番で反応しています。思考が先で感情が後と考えている人も多いのですが、順番は逆。まずはそこをアップデートしておきましょう。

なので「今、確証バイアスが動いているなぁ。つい自己正当化しようとしているなぁ」と感じたら、俯瞰の視点から自分を客観して「大丈夫だから、事実(FACT)と向き合おう」と異なる自分で思考し、行動、選択をしていくことが、自分自身をより良く行動させるコツになります。

「直観」のままに動くことを確証バイアスで正当化していく人は、自分自身の感情を制御できていない人です。制御できないので、暴れ馬が疲れ果てるまで暴れさせることで、結果として「制御できた」と思い込んでいるだけとも言えるでしょう。

日本人あるあるで言うと、暴れ馬のような感情が生まれた時にその感情を「我慢する」「無視する」「否定する」といった我慢・忍耐の回避思考を選択する人が少なからず見受けられます。すると無視された暴れ馬(感情)はさらに凶悪に育ち、いつしか爆発します。その爆発は、時に自身をも傷つける事すらあるでしょう。

そして「最初から感情に従っておけば良かった」という成功体験や経験則になると自律心という手綱を捨ててしまい「直観正義」という信仰に近い状態にリバウンドします。そして感情を放置し、どんどんとエゴイストやナルシストになっていきます。

こうした方々は対話に不可欠な自律心を失っている、弱まっている状態ですので、基本的に聴く耳を持ち合わせていません。確証バイアスに飲み込まれ、自分にとって有益となる情報ばかりを集め、自分を守ろうとするばかりです。

☆持っておく「ものさし」

こうした人、グループへの集団対処として面白いなと思ったのは、昔、ドイツの方から戦後の教訓として聴いた話です。

「ヒトラーを生み出した戦後の反省として、我々はこうした極端で聞く耳を持たない人々が両端に数%存在する事を知った。だが、彼らを排斥するようなことはしない。話し合いの出来る残った9割近い人々が、話し合い、未来を決めていく。両端の主張でも良いと思えば取り入れていく。そんな集団(政治)のシステムになったんだ」

このドイツの考え方もそうですが、一人ではなくグループ、組織といった公(Public)的な側面が強くなるほど、こうした暴れ馬の被害は広まっていきます。

こうした状況下では「暴れ馬(私)の不安を丁寧に取り除いてくれればそうはならなかったのに」とまさに自己本位な自己正当化理由を後付であげてくるようなケースもあります。

まったく、EQ(心の知能指数)は低いのにIQは高い側に居たりすると言い訳上手、ごまかし上手で本当にやっかい。まさに「ああいえば、こういう」というケースですね。

1兆ドルコーチの異名もあるビル・キャンベルは、こうしたIQが高くEQが低い「規格外の天才」に対してGoogleで、はっきりとして方針を示しています。

「ハイパフォーマーだが扱いが難しい【規格外の天才】には寛容であれ。守ってやりさえすべきだ。だがそれは、倫理に反する行動や人を傷つけるような行動を取らず、経営陣や同僚へのダメージを上回るような価値をもたらすかぎりでのことだ」

こうしたナルシストへの対処として「距離を置く」という論文もあるわけですが、ビルは迷うマネージャーに「あいつに一日18時間も使えるか!」と一喝しています。

私達コーチやカウンセラーに彼ら、彼女らが対価を払うことなく「私の不安を取り除くべきだ」と要求する事は傲慢でしかありません。また、このような謙虚さのない態度でいるうちは、コーチングもカウンセリングもその効果は極めて限定的とならざるえない、皆無であることも多いでしょう。

変化の扉に最初に触れて、変化を始める準備と態度を一致させる。その意志は本人にしか決められないからです。

「感情は大切に。そして矛盾とは勇気をもって向き合うこと」









ありがとうございます。頂きましたサポートは、この地域の10代、20代への未来投資をしていく一助として使わせて頂きます。良かったら、この街にもいつか遊びに来てください。