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「バイバイ、ヴァンプ!」観ないで批判するのはダメかな...って悩んでるみんな、観なくて大丈夫だからね

もう燃え尽くした観のある「バイバイ、ヴァンプ!」。私も予告編だけでだいぶ体力を削られたのですが、理由があって本編を観に行きました。1900円も払ってしまって悔しいので、思ったことを書いておきます。

(注)以下、本編のネタバレと差別的表現の引用があります。

正直、本編を観ると精神的にやられるだろうなと、覚悟して劇場に行きました。一方で心のどこかでは「あの醜悪な予告編は編集の失敗で、本編には何らかの救いがあるんじゃないか...」と淡い期待も抱いていました。

結論を言うと、そんな救いはありませんでした。また、観終わったあとの一番の感想としては、怒りや傷つきよりむしろ呆れが大きかったです。(あくまで当事者のひとりとしての私の感想です)

前提として、本作で問題視されているのは、多くの人が指摘しているとおり、主に以下の点です。

・同性愛が「感染」する汚らわしいものという描き方
・「愛」のある異性愛 vs「快楽」のみを求める同性愛という対立構造
・過度な性描写など、偏見を助長する諸々の表現

作品のテーマは確かに「愛」でした。

作品のビジュアルにあるように、この映画のテーマは「愛は自由だ!」です。このメッセージは作中に何度もでてきますし、「愛の形は人ぞれぞれ」という言葉もありました。

制作側に最大限寄り添って言えば、そうしたメッセージをセリフとして「言っている」のは本当です。もし物語の設定とのえげつない乖離(というか相反)が無ければ、素晴らしいメッセージだったでしょう。

「俺たちの恋愛の自由を守るんだ!」と、主人公の男子たちが意気込むシーンもありました。素敵ですね。ただ、その直前のセリフは

「堺町が同性愛の街になる」「それは絶対に困る」「(同性愛を広めるヴァンプの)親玉を見つけて、やっつけてやる

というものです。

偏見に満ちた差別的表現を散々見せられたあとに「愛は自由だ!」と叫ばれるちぐはぐな展開に、どんな気持ちになれば良いのか、私にはわかりませんでした。

もしかして「同性愛に対する差別を、立場を逆転することで描く」みたいなことがやりたかったのかなと(それにしても破綻していますが)想像してみましたが、そんな明確な意図があったとしたら、プロですからもっとマシな表現ができたでしょう。

先日Abema Primeに出演したエグゼクティブプロデューサーの吉本氏は、永遠の命を持つヴァンパイアは生殖しない=同性愛というアイディアを、コメディとして楽しめるように描いたとおっしゃっていました。(敢えて突っ込みません)

こうして作られた偏見に基づく「コメディ」の中に、なんとなく良いこと言おうとした痕跡が微かに残っているのが、この作品をよりいびつにしている理由かもしれません。個人的にこの辺の「痕跡」については、詳しく意図を聞いてみたいところでもあります。

いずれにせよ、「愛は自由だ」の「愛」が作中で愛(異性愛)vs 快楽(同性愛)と描かれている以上、このメッセージはなんの弁解にもなりません。

やつらにあるのは快楽だけ、俺たち人間には、もっと大切なものがある」「愛だ」

なんの目新しさもない、偏見のテンプレ表現ですね。

差別する意図がないのは、当たり前

公式Twitterのコメントでは「同性愛を差別する作品ではありません」という表現がありました。これもある意味間違っていないというか、当然です。そんな意図があったらいくらなんでも凶悪すぎます。

そして同時に、同じく吉本氏が弁解している「予告編の切り取り方で誤解を与えしまった」映画でもありません。本編の世界観やあらすじを伝えるという意味で、普通に良い予告編だったと思います。この予告編が凶器となっていることも、「有料コンテンツなので観たくない人は観なければ良い」という吉本氏は認識されていないのかもしれません。

ヴァンパイアは(多分)いないけど、同性愛者はいる

吉本氏はAbema Prime出演中「作品には)同性愛を認めている部分がある」と、ガレッジセールのゴリ演じる教師と男子生徒のカップルについて言及しました。言葉狩りのようですが、この「認める」という言葉選びに、マイノリティへの差別意識が露呈している気がします。

ヴァンパイアが実在するのか私は知りませんが、ゲイやレズビアンは間違いなくいます。そしてほとんどの人は、作中で言われるように「趣味」で同性愛に「走って」いるわけではありません。そのへんに普通にいる人の属性を笑いの小道具に使うことが非難されるべき理由は、いろいろあります。端的に、そして現実的に言えば、こうした経験の積み重ねで人が死ぬからです

つい長々と書きましたが、背景や意図はどうあれ、作品自体は化石的なステレオタイプの数々を無知とガバガバな設定と合わせて煮詰めたようなものだというのが、私の感想です。なので、「観ずに批判するのは...」と思って迷っている人は、観なくて大丈夫です。予告編のショックを覆す展開はありません。あのまんまです。(出ている俳優さんが好きな方は遠慮せず観に行ってください。)

1900円あるなら、ちょっといいランチでも食べましょう。それか美術館に行ったり、Netflixの契約をして、ハーゲンダッツを食いながら「セックス・エデュケーション」でも観たりしましょう。

今回多くの人が感じたのが、この国にはまだこんな無知や偏見があって、商業映画として世に出てしまうんだという、驚きと絶望感だと思います。

そういう偏見とは闘う体力のある人が、闘える時に、闘えばいいと、私は思います。そうして世界はどんどん良くなってきているはずなので。

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