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世界の政策起業家研究のこれまでのまとめ(システマティックレビューを元に)(2)

ForbesJapan5月号では、今年を政策起業家元年として、非営利セクターがその中心的な役割を担うとした記事も出されました。

一番最後にこんな記述があります。

「上場企業が1つNPOをもつ時代がくる。そして、NPOは、例えばマーケティングのような『機能』になるのではないか。企業、行政に、(NPOで事業担当していたような)ソーシャル担当人材がいるという未来だ。彼らによる企業や行政での事業創出もまた、大きな社会的インパクトにつながる」

前に藤沢さんと意見交換させていただいた時に、「行政の中にNPOとの協業担当課を創ることが大切」と言われていましたが、まさにそういう時代になってきていると思います。

さて、前回に引き続き、2020年に出された「Wind(ow) of Change: A Systematic Review of Policy Entrepreneurship Characteristics and Strategies」という論文の要約の紹介をしたいと思います。

こちらの論文はシステマチックレビューと呼ばれるもので、「政策起業家」に関する229本の論文を系統的にレビューしたもので、政策起業家研究においては一番大規模なものになるので、現在の研究状況を把握するという意味では一番良いものだと思います。

内容は、
①政策起業家の特徴
②政策起業家の用いる戦略
③政策起業家の特徴と戦略の関係性
の3つに大きく分かれています。

前回記事で①を紹介しました。

今回は②をご紹介したいと思います。

本論文では、Knill and Tolsun(2008)の政策サイクル(アジェンダ設定、政策形成、政策採用、政策実施、政策評価)に対応した形でポリシーアントレプレナーシップを分類しています。

※黄色ハイライトは翻訳が少し微妙かなと思っている部分ではありますが、英語表記も併記しておりますのでご参照いただければと思います。

要点としては以下です。
・過去の政策起業家研究で指摘されていたように、
政策起業にとって重要な段階はアジェンダ設定であり、起業家は問題を特定し、それを政策や与えられた解決策に結びつけなければならず、積極的に推進し 、プロセスを容易にするための場を探さなければなりません。また、起業家がアジェンダ設定の 3 つの戦略を効果的に展開すれば、問題と提案された政策的解決策は望ましい注目を集め、適切な場 所で議論されるようになるとされています。

・本論文の分析は、Kingdon や Mintrom and Normanが主張した、ネットワークづくりとチームづくりが、政策起業家が複雑な政策プロセスで成功するために多くのアクターと多様なチームを形成するために最も依存している戦略であることを確認するものであった。

・政策起業家は、政策プロセスのすべての段階を通じて、積極的にその解決策を策定し、準備し、定着させるために努力しながら実行し(55.5%)、さらには、ある程度評価しながら(40.6%)、望ましい解決策を推進していると判断されました。また、文献的には、説得力(47.6%)、信頼構築力(31.4%)、社会的洞察力(70.3%)の3つが、政策形成の重要な要素であることが明らかにされています。これは必要ではあるが、十分ではないとされています。

いかがでしたでしょうか?私が翻訳したミントロムの論文と比較すると面白いかと思います。

・「政策評価への参加」「メディアの有効利用」はミントロムの方では触れられていませんでした。(今後の研究課題として、簡単に触れられてる程度です。)
・逆に「アドボカシー連合との協業」「模範を示してリードする」などはミントロムでは強調されています。

ただ、論文にもあるように、この枠組みを通して、何かしら発見したいということなので、これを議論の土台としていけると良いのかもしれません。

以下にそれぞれの戦略の詳細とどの程度の文献で言われていたのか(それが高い方がより多くの政策起業家が利用しており、なおかつ分析が進んでいるということである)を添付したいと思います。

次回は、最後である
③政策起業家の特徴と戦略の関係性を書きたいと思います。


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Christoph Knill and Jale Tosun(2008)"Policy making" Comparative Politics / Caramani, Daniele (ed.). - Oxford : Oxford Univ. Pr., 2008. - (Working Paper Series / Chair of Comparative Public Policy and Administration). - pp. 495-519.

Neomi Frisch Aviram , Nissim Cohen and Itai Beeri(2020) "Wind(ow) of Change: A Systematic Review of Policy Entrepreneurship Characteristics and Strategies"Policy Study Journal, vol.48,No.3.

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これまでの政策起業家に関する記事はこちらから見ることができます。

また、政策起業家の行動原理など、海外の30年間の研究蓄積がまとまっている書籍の翻訳本の出版を行います。30年分の差を、この1冊で埋められるとは思っていませんが、少しでも日本で早く「政策起業」が拡がればという思いでいます。

また、2022年4月21日にABEMAヒルズにて、書籍の紹介をしていただきました!12分にまとめっていて非常にわかりやすいのでよければぜひご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございます。
日本では「政策起業家」に関する研究が非常に遅れています。
研究を応援いただける場合には、
「サポート」していただけますと大変嬉しく思います。
サポート資金は全額、「博士後期課程」への進学資金にさせていただき、
更なる政策起業家研究に使わせていただければと思います。
どうぞよろしくお願いします。


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