見出し画像

世界の政策起業家研究のこれまでのまとめ(システマティックレビューを元に)(1)

先日発売されました「Forbse Japan9月号」において、政策起業家の記事が2本掲載されました。


「7つの最新キーワード」から読み解くこれからのポジティブな未来
のなかの一つとして「政策起業家 三井俊介/SET」を取材いただき、政策起業家について解説しました。

また、「民間人でも政策はつくれる 全国で生まれる政策起業家」において、
取材をしていただくとともに、ローカル政策起業家を紹介させていただきました^^
こちらはweb版にもすでに掲載されておりますのでよければご覧ください!

今回は、2020年に出された「Wind(ow) of Change: A Systematic Review of Policy Entrepreneurship Characteristics and Strategies」という論文の要約を、何回かに分けて紹介したいと思います。

こちらの論文はシステマチックレビューと呼ばれるものです。
「政策起業家」に関する229本の論文を系統的にレビューしたもので、政策起業家研究においては一番大規模なものになるので、現在の研究状況を把握するという意味では一番良いものだと思います。

内容は、
①政策起業家の特徴
②政策起業家の用いる戦略
③政策起業家の特徴と戦略の関係性

の3つに大きく分かれています。

①政策起業家の特徴

初めに政策起業家の特性分布は以下になります。

出典:Aviram et al(2020)を筆者翻訳

■政策領域
 まずは研究されている政策起業家の政策領域ですが、かなりの偏りがあることが見て取れます。
「環境」が全体の24%とかなり多く、次いで「教育」「健康」「政府」「経済」と10%以上が続きます。
 一方で「農業」「芸術」「交通」などはかなり低い数値にあります。
論文では、
「取り組む政策課題の分野の偏りがあり、その要因は社会的な注目度の高さ、政策ネットワークへのアクセスの容易やさその階層の多さなどが考えられる。」とされています。

私は、「公益」を目指す政策起業にはある程度の政策領域があると考えています。
それは、
「自然環境(大気、森林、河川、水、土壌など)」「社会的インフラストラクチャー(道路、交通機関、上下水道、電力、ガス)」「制度資本(教育、医療、司法、金融制度など)」
または、「公教育の改善、若者の育成、コミュニティの組織化、高齢化対策、芸術、政策アドボカシーなど」

です。(詳しくは以下をご覧ください。)

これらをもとに考えると、
・「環境や教育、健康」が多いのは納得な結果ですが、一方で「農業、芸術、交通」が少ないのはやや気掛かりです。難しい分野だからこそ、これから伸びる可能性もあります
・一方「経済」が多いのは気になります。社会的注目度の高さやネットワークの規模などから取り組みやすいとも捉えられますし、「経済政策」に働きかけることでその先の「農業や芸術」など、お金が流れづらい部分に流しているという場合もあるかもしれないので注意深く思考していくことが大切かと思います。

■活動方法個人なのか、グループなのか
 
今回分析した論文の約3分の1(38%)は個人の政策起業家に関するものであり、残りの論文はグループ(29.7%)やグループと個人の両方(32.3%)について研究していることがわかりました。更に、グループ起業家を大きく 3 つのタイプに分けることができます。「NGO」、「政策起業家としての機関(シンクタンクなど)」、「セクター間パートナーシップ」です。今後は個人と集団で政策決定で果たす役割の違いを明確にする研究が必要だとされています。

「政策起業家」は一人の個人のように思われるかもしれませんが、
実際はネットワークを駆使し、チームで動くことが必須の領域でもありますので、基本的には「政策起業グループ」になるのではないかと思います。

■政策起業家が所属するセクター
 公共部門が単独で最も多く(51.6%)、民間部門、第三部門、混合部門の合計が残りの半数弱(48.4%)を占めています。公共部門と民間部門では、半数以上が個人であった(それぞれ50%と63%)のに対し、第三セクターでは個人は14%にとどまっています。この違いは、公的セクターの政策起業家は地位的な力を利用できるのに対し、公的セクター以外の政策起業家は地位的な力を持たず、政策に影響を与えるためにはより強力な連合を必要とする可能性があることに関連していると考えられます。
興味深いことに、民間セクターの政策起業家はほとんどが個人であり、第三セクターはほとんどが団体起業家であったことです。
地方自治体レベルでは、より多様で容易なアクセスを見出すことが期待されるにもかかわらず、セクターと政府レベルの間に有意な関係は見いだせませんでした。
Kingdon (1984, p. 179) は、政策起業家は政府の「内外」のどこにでも存在しうると述べていますが、 Roberts and King (1991, p. 152) は、政策起業家は定義上、外部のアクターであると主張しています。今後の研究では、異なるセクターの政策起業家が用いる戦略の違い、その動機、そして最も重要な政策プロセスへの影響について、引き続き調査する必要があるとされています。

私が疑問に思うのは、プライベートセクターの政策起業家です。ロビイングとの違いを明確に把握する上で、「出発点がロビイングは私益(企業利益)、政策起業は公益」としたわけですが、プライベートセクターの場合に、「公益」を本当に出発点にできるのか?ということです。
確かに社会的企業やソーシャルベンチャーは増えているわけですが、自社の利益になるためのルールメイキングが基本であり、それにより市場を形成するのではないかと考えられるのでプライベートセクターを含むと曖昧になるように感じます。
またサードセクター(非営利セクター)が全体の9.5%なのも気になります。つまりサードセクターの戦略などについてはまだ明確にされていない可能性があります。
ただ、アメリカなどではリボルビングドアが存在していることからパブリックセクターであったとしても、その方のキャリアとしてはサードセクターを辿っていたり、プライベートを経ているかの可能性はあるので日本の常識に当てはめて考えると実態を掴めないのではないかと思いました。

■政策起業を行う政府レベル
 政策起業家は、ローカル(日本でいう基礎自治体、市町村等)、リージョナル(日本でいう広域自治体、都道府県等)、ナショナル(国)、トランスナショナル(複数国)、クロスレベル(複数の政府レベルに影響を与えようとする政策起業家)という5つの政府レベルで活動します。
研究の割合で見てみると国レベルで影響を与えている政策起業家が40%以上を占め、基礎自治体になると1割程度となります。ここから、地方の政策起業家の戦略や特徴はまだあまり研究としてはされていないことがわかります

ここまでが政策起業家の特徴になります。

私の研究領域は地方(全体の10%)のサードセクター(全体の10%)の政策起業家になるので、世界的に見ても研究がまだまだ進んでいない領域であることを改めて認識させられました。

先行研究が少ないということは、
研究的にとても価値がある(新しい発見につながる可能性がある)か、
もしくは研究的に全く価値がない(新しい発見があったとしても社会の発展に貢献しない)のどちらかだと思います。

前者であることを強く信じ、これからも研究を進めていきます。
次回は②政策起業家の用いる戦略について書きたいと思います。

==

Neomi Frisch Aviram , Nissim Cohen and Itai Beeri(2020) "Wind(ow) of Change: A Systematic Review of Policy Entrepreneurship Characteristics and Strategies"Policy Study Journal, vol.48,No.3.

==

これまでの政策起業家に関する記事はこちらから見ることができます。

また、政策起業家の行動原理など、海外の30年間の研究蓄積がまとまっている書籍の翻訳本の出版を行います。30年分の差を、この1冊で埋められるとは思っていませんが、少しでも日本で早く「政策起業」が拡がればという思いでいます。

また、2022年4月21日にABEMAヒルズにて、書籍の紹介をしていただきました!12分にまとめっていて非常にわかりやすいのでよければぜひご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございます。
日本では「政策起業家」に関する研究が非常に遅れています。
研究を応援いただける場合には、
「サポート」していただけますと大変嬉しく思います。
サポート資金は全額、「博士後期課程」への進学資金にさせていただき、
更なる政策起業家研究に使わせていただければと思います。
どうぞよろしくお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?