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マツダのデザイン哲学書「デザインが日本を変える」

こんにちは、ナカムラです。今回は「デザインが日本を変える」という書籍を紹介したいと思います。

日本を代表する自動車メーカー・マツダの常務執行役員でありデザインヘッドの前田育男氏が築き上げたマツダのデザインテーマ「魂動(こどう)」。このテーマのもとで生まれたマツダの新車種たちは、世界中で高い評価を受けています。

「魂動」が生まれるまでの軌跡と、前田氏のデザイン哲学が凝縮されたのが「デザインが日本を変える~日本人の美意識を取り戻す~」という書籍です。

今回は、マツダデザインの歩んだ歴史と、デザインの持つ力に焦点を当ててご紹介したいと思います。

1)マツダのデザイン哲学

「魂動」の説明の前に、どのような歩みを経てマツダは現在のデザイン哲学を獲得するに至ったのかをざっと振り返りたいと思います。

90年代に入りバブル経済の波に乗ったマツダは、販売網の拡大(多チャンネル化)を推進しましたが、バブル崩壊によって売上は低迷。93年~95年で3年連続の赤字決算を計上しました。

この危機的状況を脱するべく、マツダは米国の自動車メーカー・フォードの傘下に入ることになります。会社としては延命したものの、内情は散々な状態で「マツダ史上最悪の時期であった」と語られています。

一方で、フォード傘下において「マツダというブランドはどのような車を作っていくべきか?」というテーマが問われたことで、ブランドアイデンティティの再定義が始まり「Zoom-Zoom」というブランドメッセージが定まりました。

「Zoom-Zoom」とは、車が走る様子を子供がまねる時に使う言葉(日本語で言う「ブーブー」)を指しており、無邪気に風を切って走る楽しさを表現しているそうです。ここにはマツダのDNAが込められており、このブランドメッセージの策定後、マツダは徐々に回復軌道に乗っていきました。

これが大体2001年頃の話だそうです。

それから8年後の2009年、著者である前田氏がデザイン本部長に就任し、1年半後に「魂動デザイン」というデザインテーマを発表することになります。

前田氏は、この1年半を濃縮すると「3つの問いに向き合い続けた期間だった」と振り返っています。

「自分のデザイン哲学は何なのか?」
「その哲学をカタチにするとどうなるか?」
「そのカタチの持つ意味を言葉に置き換えると何になるのか?」

この3つです。そしてそれぞれの答えがこちらです。

「生命感の表現」
「ご神体(※下図参照)」
「魂動」

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(マツダデザインのご神体)

前田氏は、マツダのDNAを掘り下げていく中で「生命感の表現」というテーマに行き着きました。そこから、野生動物の写真や映像を見て、スケッチして、立体にして、という作業をチームで何ヶ月も繰り返したそうです。チーターの走りやカモシカの走りから、速く、そして美しく走れる根源的な理由を模索していき、生命感の表現にカタチを与えていったわけですね。

それをマツダでは「ご神体」と呼んでいます。また、このカタチを表現する言葉としてはとにかくシンプルで、しかしビジョンを包括する日本語を追究し、最終的に「魂動」という表現にたどり着いたそうです。

その魂動デザインを体現した最初のビジョンモデル(コンセプトカー)が「靭(SHINARI)」です。

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いやー、美しいですよね。「生命感を表現する」という魂動デザインのテーマが直感的に伝わり、静止している写真からでも、力強く脈づいて疾走するイメージが湧いてきます。

このようにして、後に世界中で数多くの賞を受賞するマツダの代表作を生み出すデザインテーマ「魂動デザイン」が誕生したのです。

2)デザインの力

マツダの特徴として、ブランドを管轄している組織がマーケティング部ではなく、デザイン本部であるという点が挙げられます。

これは、そもそもブランド及びブランドスタイルの厳格な規定がなかったところに、前田氏がブランドの確立を牽引してきたからという背景もあるのですが、大前提として「ブランドは作り手の側にあるべき」という思想を前田氏が持っていることが大きいです。

作品そのものが素晴らしいから人々が敬意を表し、特別な存在とみなし、それが長い時間をかけてブランドとして定着していくのだ。まず本質において抜きん出ていること。――そうした本質を抜きにブランドを語ることなど本末転倒であるし、噴飯ものだと私は思う。

また、

ブランドは本質であり、歴史であり、文化であり、そこに集う職人の技であり、背後に流れる物語であり・・・・・・ブランドの許容量はかくも広大で、膨大で、それゆえ私は「ブランド=最上位概念」、つまりすべてがブランドに集約されるという考えに辿り着いたのである。

と語っています。いわゆる商品やサービスを磨き込まずにマーケティング(というかプロモーション)で良く見せて売上を伸ばす…みたいなことをガツンと否定しているわけですね。

個人的に面白いと感じたのは、作り手がブランドをコントロールする際に発揮されるデザインの力です。私は、

・探索する力
・具象化する力
・拡張する力

この3つが、特にデザイン組織だからこそ発揮されたものなのではないか、と考えています。

前田氏は、「先にカタチ、言葉は後」という考えを徹底しています。

デザイナーたるもの、視覚情報を最優先すべし。一見して見た者を圧倒できなければ負け。言い訳のような言葉を並べるなんて言語道断。というわけです。

その掟があるからこそ、論理や言葉はさておいて、イメージとしてマツダが表現してきたものは何かを広く深く探索できたのではないかと思うのです。その探索があったからこそ「生命感の表現」という境地に到達できたんですね。これが探索する力です。

しかし、仮に「生命感の表現」というイメージに辿り着いたとして、それを他者と共通認識化するのは至難の業です。あくまでも自分の中にあるイメージでしかなく、抽象度がとても高いからです。

マツダでは、これをカタチにすることで解決しています。これが具象化する力です。モノが作れること、モノを作る過程でさらなる探索を行なうことが揺るぎないビジョンを築くことに大きく寄与しています。

さらに、本書ではこんな話が出てきます。

(「新車種を作るたびに、少しずつデザインを変えていった」という話の後で)このようなやり方で私は魂動デザインに揺さぶりをかけ、その枠組みを拡げようとした。マツダブランドを常にフレッシュでスリリングな状態に保ち、ブランド価値を向上させていくことを試みた。

ブランドの根幹にデザインを据え、カタチと言葉の両輪で定義した大きな枠組みをクラフトで拡張する。これはデザイン組織ならではのブランドを拡張する力だと思います。これはマーケティング的な発想とはかけ離れているように感じます。

以上が、魂動デザイン及びマツダブランドから感じたデザインの力です。

3)最後に

もともと車には全く興味がなかったのですが、本書を読んでからは道行く車にも目が向くようになりましたし、それらと比較することで、マツダの次世代コンセプトカー(RX-VISIONやVISION COUPE)が如何に美しく洗練されているかを強烈に実感しました。

noteでは触れていませんが、突然の人事でデザイン本部長に就任した前田氏が、組織の長としてどのように旗を掲げ、チームを前進させてきたのかについても非常に学びのある書籍です。前田氏以外のマツダ社員の方の手記も掲載されていて、そんな構成からもマツダチームの一枚岩な空気感が伝わってきます。

是非、手にとってみて下さい。

以上、マツダのデザイン哲学書「デザインが日本を変える」 でした。最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

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