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「欲しいの本質」から学ぶインサイトの見つけ方

こんにちは、ナカムラです。前回のnoteで「欲望とインサイト」という書籍を紹介し、インサイトという抽象的な概念の正体について解説しました。今回はインサイトを見つける方法に焦点をあてたいと思います。

紹介する書籍は、Decom大松さんの著書「『欲しい』の本質」です。

本書はインサイトの発見からアイデア開発まで体系的にまとめていますが、今回は以下の2点に絞って紹介します。

1)情報収集の当てをつける方法
2)情報収集の精度を上げる方法

※本書では「インサイト=人を動かす隠れた心理」と定義されており、心理そのものを表現しています。その点、洞察とは少し意味合いが異なりますが、内容理解に大きな影響はないと思うので本書の表現に沿って説明します。

1)情報収集の当てをつける方法

まず、本書の基本概念である「人間を見に行く」という話に触れておきたいと思います。大松さんは前提として、自社商品やサービスについて深掘っていっても新たな発見は得られないと考えています。すでに分かっているようなことしか出てこないなぁ…という状態になりがち、ということです。

そこで「人間を見に行く」わけです。具体的には生活者の興味や関心に目を向けて、そこから得た情報と商品・サービスとの関係を考えることで新たな発見を得るという考え方です。前回のnoteで取り上げた「情報のつながりを見つける」という概念と同じですね。

この章では、その生活者の興味や関心をどう選ぶのか(=どう当てをつけるのか)について、2つの手法を紹介します。

①VIL
VILとは「Value」「Issue」「Layer」の頭文字をとったもので、それぞれがテーマ設定の観点になっています。1つずつ説明します。

Value…知りたい対象の価値やポジショニングから考える。
例えば、ある自動車ブランドの提供価値が「日本の良さを感じさせる」だった場合、車以外で「日本の良さを感じる」ものごとは何か?を洗い出します。そして、そこで感じられている価値を具体化し、逆引き的に自社ブランドやカテゴリーにおける不満や未充足の欲求を探る、という考え方です。

Issue…知りたい対象が抱える問題や狙いから考える。
例えば、「若者の車離れ」のように問題が見えている場合に、車ではなく、そこに関係する「若者の外出回数の減少」に目をつけて「家で過ごすことの価値とは?」というように拡げていき、同じく逆引き的に自社ブランドやカテゴリーにおける不満や未充足の欲求を探る、という考え方です。

Layer…知りたい対象のカテゴリーの概念を抽象化して考える。
例えば、幼児向け教材について知りたいけど、ターゲットの関心が低い場合に、「幼児向け教材」から「育児」まで概念を拡げて、そこで感じている価値から逆引き的に自社ブランドやカテゴリーにおける不満や未充足の欲求を探る、という考え方です。

※いずれも、あらゆる場面で使える万能ツールではありません。
Valueは、そもそも提供価値の抽象度が高くないと使えなかったり、Issueは問題が見えていないと使えません。Layerは使い勝手が良さそうですが、隣接した概念から探るので飛び地のアイデアには到達しづらいかも知れません。
とはいえ、何かしら糸口を掴むキッカケにはなると思うので、ブランドの置かれている状況に応じて使い分けられるといいのではと思います。

②生活の14分類
こちらは、「何が変われば、人々のブランドに対する態度は変わるのか?」を考えるガイドとして「生活に関連するカテゴリー一覧を使う」というものです。

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※画像はAdverTimesの著者コラムより抜粋

例えば、飲料水ブランドであれば、「食べること・飲むこと」は自社カテゴリーそのものなので、それ以外で影響を与えそうなカテゴリー(「美容・ファッション」「健康・ヘルスケア」「仕事・働き方」など)を選び、情報収集を行なうイメージです。

これらの手法を使って、まずは「どこに目を向けるべきか」の当てをつけることが、インサイトを見つける第一歩になるのではと思います。

2)情報収集の精度を上げる方法

どこに目を向けるかの当てがついたところで、データを集めてインサイトを探っていきます。この章では、知っておくと情報収集の精度が上がる3つの概念を紹介します。

1つ目は、インサイトを構成する4つの要素です。

1)シーン…感情が生まれた場面
2)ドライバー…感情を生み出す直接的な原因
3)バックグラウンド…感情のベクトルを決める背景的要因
4)エモーション…感情そのもの

本書にならって、AKB48が誕生したインサイトを例に取るとこうなります。

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「きらびやかに映るアイドル」も「つながりが欲しい」という背景が強く働くとネガティブな感情に行き着くということですね。

当時、アイドルに熱狂していた若者が秋葉原に集まってきていたことと、メイドカフェが流行していたことをヒントに、秋元康さんは上記のインサイトを得たらしいです。

結果論じゃん!と言えばそれまでなので…実際にインサイトを探っていくプロセスにおいてこの概念がどんな価値があるかまとめてみます。

1つは、情報の切り口とつながりを理解する価値です。なんとなく調査をしていくよりも、切り口を持っていて、そこから情報をどうつなげればインサイトにたどり着きうるのかを理解していた方が、インサイトを見つけやすいはずです。

もう1つは、打ち手の精度を上げる価値です。感情だけを元に打ち手を考えたとしたら、「会える」というコンセプトまでは出たとしても「桁外れの規模のグループにして推しが見つかるようにする」や「”個人を応援する”という関わり方を生み出す(選抜総選挙)」というアイデアは生まれなかったように思います。


2つ目の概念は、エンジェルインサイトとデビルインサイトです。人間の欲望には表と裏があり、表だけを見ているとインサイトを見誤ってしまう、という概念です。ホンネとタテマエ、という解釈もできます。

例)マクドナルドのサラダマック
ユーザーインタビューで「ヘルシーなものが食べたい」という回答が非常に多かったことから、サラダマックを発売したが全然売れなかった。そこから、実は「分厚いハンバーガーを見せられるとかぶりつきたくなる」という心理に気付き、メガマック、クォーターパウンダーなどのヒット商品が生まれた。

いち消費者として、非常に共感できる表と裏のインサイトです。

この表と裏の欲望を対にして整理した「欲望マンダラ」というものがあります。人の欲望や感情は本当に多様なので、感情に関する語彙を増やすだけでも芯を捉えやすくなると思います。

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※画像は株式会社デコム「INSIGHT LAB」のコラム記事から抜粋


3つ目は、新奇事象という概念です。本書ではこう説明されています。

普通の人が行なっているちょっと変わった消費行動や生活行動、マイブーム・こだわり・工夫、あるいは提供企業から見ると間違った使い方、使い方は普通だが目的がユニークなもの、などの総称

例えば、マウンテンバイク開発のキッカケとなった「若者がオンロード用の自転車を改造して山道を楽しんでいる」という行動は、新奇事象と言えます。

これがたった一人の異常行動で、誰も真似しないようなことでは意味がないですが…共感を呼びうる事象であれば、生活者が潜在的に求めているニーズの芽になるのではと思います。

・補足:リサーチ手法について
本書では、感情から読み解く心理学的アプローチ(投影法)と、行動から読み解く文化人類学的アプローチ(エスノグラフィ)の2つにリサーチ手法を分類しています。ここではいくつかの手法を紹介します。(末尾に参考記事のリンクを貼っておきます)

・【心】ビジュアル刺激法…五感を連想させる複数の写真を用意し、調査対象に見せて言葉にしてもらうことで、生活者が無意識に求めている五感を探るという手法。

・【心】文章完成法…「私はこの世にブランドXが無かったら(  )だと感じる」というような虫食いの文章を提示し、埋めてもらうことで意識を読み取る手法。

・【文】行動観察…日常的な行動を観察し、その行動の意図や背景について質問することで心理を読み解く手法。

・【文】ソーシャルリスニング…SNS、ブログ、レビューなど一般消費者の投稿を分析する手法。

・【文】コミュニティリサーチ…テーマに積極的に関与したい人たちを集め、コミュニティと企業が一緒にマーケティング課題に取り組む手法。

3)まとめ

最後に、新しい視点も交えつつ「インサイトを読み解く7つのポイント」という形でまとめたいと思います。本書にも同様のまとめが存在します。

①「離せ、戻せ」で考える
②良いアイデアにつながるかどうかを意識する
③生の素材から感じる違和感を大切にする
④正しい、ではなく、面白い
⑤「既存路線」でない「新路線」に着目する
⑥「組み合わせの妙」を見つける
⑦隠していること、言えないことを意識する

①は、自社ブランドから離れて人間を見に行きましょう、という基本概念です。そこから視野を広げ、最終的に自社ブランドの課題に戻ってくるように思考することが大切、ということです。

②と⑤はかなり近い意味で、「すでに分かっていること」はインサイトではないから、新しいこと、さらには解決策につながるようなことを意識的に探しましょう、ということです。そのためには、そもそも既定路線は何か?をチームで共有できていることが必要、ということもポイントです。

③と④は2つで1つです。まず、できる限り生の素材(ユーザーの声や行動)に触れて「?」と思うポイントを見逃さないこと。そして、その心理を探る時に「正しい答えを探そう」としないこと。どちらかと言うと、こう解釈したら面白いのではないか?というスタンスで可能性を拡げることが推奨されています。

⑥はインサイトの4つの要素のことを指します。単独では既知の事実だったことも、他の要素と組み合わせることで新しい気付きにつながる可能性がある、ということです。

⑦は、人の欲望や意識には表と裏(ホンネとタテマエ)が存在することを意識して、インサイトを読み解くように心がけるべし、という教訓です。

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以上、「『欲しいの本質』から学ぶインサイトの見つけ方」でした。

最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

ナカムラ

参考記事


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