臨床での歩行トレーニング
健常者の直線歩行は、床反力は膝関節中心を通過する。
歩行中は膝関節周囲に強い筋力を発揮させなくてもよい。
股関節の伸展筋力を使い、膝関節の中心に床反力を通過させる歩行が獲得できれば、倒立振子運動は成立する。
ということは、重度片麻痺で膝の制御が難しい症例では、装具によって膝関節を固定し、股関節屈曲および伸展運動を十分に引き出し、股関節周囲筋、下腿三頭筋を賦活してその後、膝関節の制御の獲得へと進めていく。
短下肢装具への移行
短下肢装具へ移行する際に、踵接地の確立を一つの指標とすべきである。
足部の衝撃緩衝システムを適切に使用できるように導き、かつ床反力を膝関節の中心を通過させるように導く必要がある。
長下肢装具の膝固定を頻回に解除して支持性が改善したかこまめに確認する必要がある。
回復期での歩行トレーニング
歩行に関するゴール設定
①日常の移動手段として歩行能力の再獲得を目標とするケース
②動作の自立度向上のため、下肢を中心とした運動機能の改善を目標とするケース
③高次脳、認知機能障害を有する場合に取り組みやすい運動課題として歩行を活用するケース
歩行は自動的な要素を含み、モチベーションが得られやすい。
④刺激入力による脳機能の賦活を目的として実施するケース
覚醒は脳幹網様体により制御される。網様体へ感覚刺激を入力し、覚醒を促進するため、歩行を導入する。抗重力位をとることは刺激入力になり、末梢の廃用進行予防にもなる。
歩行トレーニングの方法
長下肢装具の活用
直立二足維持のためには寛骨と大腿骨が一直線に位置するアライメントでの支持が望ましい。
直立位では股関節の伸展に従って大腿骨頭は臼蓋の前方へ突出する。大腿骨頭の圧迫により大腰筋は張力を生じ、体幹が後方へ倒れることを防ぐ。
股関節が中間位から伸展位、つまり下肢がより直立位に近いアライメントで荷重すれば、自動的に体幹も直立位を保ちやすくなるのである。
随意的な筋収縮が得られにくい片麻痺患者にとって、このように反射的、自動的に筋収縮が得られるシステムを利用することは、効率の良い運動学習に繋がる。
寛骨大腿関節前面の固定には大腰筋の筋活動を必要とする。
歩行中は、大脳皮質による制御が優位となることを回避するため、身体各部位をどのように動かすといった教示を数多く患者に与えることは控えるべき。
姿勢保持が可能な範囲で速度を速めて行うことで、歩行運動の自動化を促すことが期待される。
後方介助のすゝめ
股関節の積極的な屈曲ー伸展の交互運動により歩行の自動的抑制を促進し、大腰筋の伸張による張力を利用しながらエネルギー効率の良い歩行を実現できるから。
底屈制限の装具を使うということ
底屈制限の装具はLRに膝が前方に押し出され、床反力が膝関節の後方を通る。
また、背屈位でのLRとなるために前脛骨筋の活動が低下してしまい、立脚期を通して下腿三頭筋が強く活動してしまう。
HC(踵接地)の重要性
前脛骨筋の緩衝システムを利用するためには、膝関節が伸展した状態で踵接地し、立脚期に移行する必要がある。
麻痺が軽度であれば、歩幅の大きな歩行を繰り返すことで、膝関節が伸展した状態のHCを学習させる必要がある。
参考文献 脳卒中片麻痺患者に対する歩行リハビリテーション 阿部浩明 大畑光司 編集 メジカルビュー社
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