見出し画像

社会人7年目から見る新卒

 今年も新卒の学生達が社会人になる季節がやって来ました。Twitterでは毎年のように、嘘か誠か分からない「ヤバい新卒」や「モンスター新人」の話が流れてきて、ネットニュース等でも働き手としての「若者の特徴」を紹介する記事がよく現れます。

 思えば僕も大学を卒業して社会人になって、この4月で7年目を迎えます。社会人になって最初の1週間は恐らく人生で最も長い1週間でした(ちなみに4/1は日曜で休みでした)。怠惰な学生生活を続けていたので、朝早くに起き、日中働き、夜に帰る。気軽に休んだりサボったりすることが出来なくなる中でこれがずっと続くのか・・・とうんざりした記憶があります。
 とはいえ1995年生まれ、すなわち2018年卒というのは運が良かった世代でもあったのです。リーマンショックから続いていた就職難の時代は終わり、現在も言われている「売り手市場」がちょうど始まった頃でした。さらには高橋まつりさんの過労死事件をきっかけに働き方改革が進み、働き方改革関連法が成立したのも2018年でした。

 新卒というのは、アルバイト経験がある人がほとんどとはいえ、親の扶養を離れて初めて働く人達です。今はそうでもありませんが、新卒で入った会社がその後の人生・価値観を左右することは往々にしてあります。会社によっては毎週特定の曜日に朝礼があり、その中でラジオ体操や経営理念の唱和といった時間が設けられています。「昭和的価値観」とよく言われる行為ですが、新卒にとってはそうした時間が会社を評価する上での大きなマイナス要素になり得ます。あるいは僕が新卒で入った会社のように、いきなり過酷な研修を課せられることもあります。社会人をある程度経験すると、自分の中の「良い会社」を決める判断材料は固まっていきます。賃金・周りの人柄・勤務時間・社風など様々ですが、社会に対して俯瞰的な視点を持っていない新卒にはそうした冷静な判断力はありません。しかも今の30歳前後より若い人達は、インターネット(特にSNS)を通して「社畜」のエピソードをこれでもかというくらい目にしています。もちろんそれらの情報は偏ったものが多いですが、社会人になるまでにこうした情報をたくさん摂取してお腹がいっぱいなのです。故野村克也監督(ヤクルト)が1995年のオリックスとの日本シリーズを前に、イチロー対策としてシリーズ開幕前から「内角攻め」を連呼して新聞記事にも躍ったことで、戦前からイチローに内角攻めに対して恐怖感や疲労感を覚えさせたのと同じことが起きている訳です。そんな疲労している状態だと、先に書いた経営理念の唱和などに対して「嫌だけど気にせず適当にやっておけば問題ないもの」「無駄なことはいくつかあるけど働く上で自分が会社に求めているものは満たしてるからいいや」と見ることが出来ず、「この会社ヤバいんじゃね?」と退職という選択肢がすぐに頭をよぎるのです。

 今の若者の「退職」に対するハードルは非常に低いです。終身雇用というのは今は昔、転職市場というのは非常に活発で、第二新卒歓迎の正社員求人が巷には溢れています。厚生労働省によると、2020年3月の大卒就職者の3年以内離職率は32.3%となりました。つまり新卒の3人に1人は3年以内に始めに入った会社を退職し、別の会社に転職していることになります。入った会社に少しでも嫌な部分があれば見切りをつけ、その嫌な部分のない自分のい希望が叶えられそうな会社へ移る。第二新卒と呼ばれるまでの年齢層は、こうした動きが顕著です。そしてそれが可能な社会になっているのです。

 どの業種においても人手不足が叫ばれる今、新卒採用は貴重な働き手確保の手段となっています。「会社が選ぶ時代から会社が選ばれる時代へ」という言葉は昨今の採用担当者向けセミナーで必ず言われる言葉です。終身雇用というのは過去の遺物となりつつあり、若者は自分のやりたい事や希望を叶えられる環境へ、軽いフットワークで移っていくのです。ただ会社側からすれば、すぐに辞めてしまうことを前提に新卒教育を行うのはおかしな話です。「どうせ辞めるから」と教育が雑になってしまうと、入社すぐの離職率はより上がってしまいますし、今はこうした「会社の情報」はすぐにSNS等を通じて多くの人に知れ渡って会社のイメージは落ちてしまいます。今の新卒は賃金以上に職場環境や福利厚生を特に重視します。若者に入ってもらえる、離職率を下げるよう努めることは、最終的には現代世間一般の「良い会社」になる基礎となるのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?