(いい意味でなく)気になるCM
最近目につくテレビCMがいくつかある。
ひとつは健康食品。ひとつはネット生命保険&損害保険。そして、宝くじ。
データを取ってはいないけれど、合計放映時間は明らかに増加していると思う。
健康食品のCMが多いのは、高齢者比率が高くなったこの国の人口分布と関連しているのだろう。
いろいろ思う所はあるし、(老人の耳にも確実に届く)大声で《驚くべき!》その効能やコスパについてまくしたて、(本日限り!など)期限内に電話申し込みすればさらに値引きなど焦らせる、特殊詐欺にも似た戦術をとっているのは不愉快ではあるが、彼らは一応、モノを売っている。
生命保険や損害保険はネット化して、ほぼシステム構築と広告集客だけで利益を上げられるようになったことは、もちろん特に咎めだてすることではない。売れっ子の芸人や俳優を起用しているのは、広告集客に金をかけることの重要性を示しているのだろう。
気になるのは、高齢者向け生命保険のCMが異常に増えていることだ。
老人に、
「葬儀費用で迷惑をかけたくない」
など言わせて《不安》を煽った後、持病があっても大丈夫、80過ぎても大丈夫、掛け捨てではありません、など各社『大丈夫合戦』を繰り広げている。
ひとり暮らしの老人が増えて、死後の後始末を心配する人もおり、その《不安》を狙うビジネスだろうが、そもそもこの種の保険金は、請求しないと受け取れない。一人暮らしの老人が亡くなって、あるいは配偶者がいてもかなりの高齢で、それまで掛け金が自動振り込みされてきた生命保険が請求されないケースも多いことだろう。
── ひょっとして、そこまで狙っている? ── というのはうがちすぎとしても、これも老人相手に《不安》を煽って、利益を上げようというビジネスは、なんだか似ている。
健康食品のように何か売るわけではなく、
「万一に備えて」
が『売り』文句である。
さらに悪質なのは(あくまで個人の感想です)、売れっ子俳優を何人も起用しての宝くじ関連CMです。
こちらは《不安》ではなく、《射幸心》を煽っている。
あのCMを普通に見たら、数億円がかなりの確率で当たりそうな錯覚を持つだろう。少なくとも私のようにおバカで欲深な人間は錯覚する。
けれど、よく知られているように、宝くじの当選金『期待値』は、競馬など(トータルで75%ぐらい)に比べてもはるかに低く、50%に満たない。
しかも、2000万分の1とも言われるジャンボ宝くじの1等当選確率には一切触れることはない。
ただし、この記事は、現在の宝くじ制度を否定するものではありません。収益の一部は公共のために使われているし、そのシステムは(利権もあるでしょうが)タダシイ経済活動も生んでいる。
一方、購入者はもちろん、つかの間の夢を見ることができる。
問題にしているのは現在のCMである。
有名俳優を使っての宝くじテレビCMが始まった時、少なくとも私はたいへん驚いた。
── 《射幸心》を相当に煽っている!
「こんなCM、やってもいいの?」
おそらく、多くの人が最初はそう思っただろうが、今はすっかり慣れている ── 慣らされている。
「いや、『当たるかもしれない』── これは事実でしょ?」
そうです。でも、その確率に関する情報はありません。
「『収益の一部は公共のために使われている』── いいコトじゃないですか?」
そうです。でも、CM中にそんな情報、含まれていません。
宝くじの売り上げに占める宣伝広告費の割合は、4%弱であることが数年前に発表されたが、現在ではもう公表されていないようだ。
累進税である所得税に比べ、所得に関わらず同じ税率である消費税は『逆進的性格』を持つ、と言われるが、おそらく『宝くじ』は消費税以上に『逆進的性格』を持つのではないか、と想像します。
CMプランナーは当然、『客層』を想定して、その『客層』の購買意欲をかきたてるための戦略を立て、CMを作ることでしょう。
当然のプロセスではありますが、こと、高齢者向け生命保険や宝くじのCMプランニングを考えると、愉快な気持ちにはなれません。
特に後者は ── あれが『宝くじ』でなければ、消費者庁が『誇大表示』などで問題にするレベルなのではないでしょうか?
CMが流れるたびに、
「いいか、オレは頼まれても宝くじのCMにだけは出ないぞ!」
と宣言しているが、その度に同居人に言われる:
「大丈夫、安心して。アンタに頼んでくることは、未来永劫あり得ないから」
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