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ミネルヴァ映画会 2月23日開催 解説②

開催日:2024年2月23日金曜日 20:00~21:30




▼▼▼映画会のコンセプト▼▼▼


読書会のときも思いましたが、
「やってみて、集まったメンバーを見て、
 話していくうちに形が固まっていく」
という側面も大きいので、
今後変化する可能性はかなり大きいのですが、
今のところ、暫定的なミネルヴァ映画会のコンセプトを紹介します。

基本的には「よにでし読書会」と同じです笑。
本や映画を肴に人生について、世界について、
わいわい語り合う。
そういう「語り合い」をする場所って、
やってみて分かったけど案外、少ないんですよね。
だから、「ここにたき火を焚いたから、みんな話さない?」
みたいな感じと思ってもらってだいたいまちがいない。
僕が火をおこして、
夜な夜なそこで語り合う。
たき火を囲んで話せる人数の限界は、
6人ぐらいかなーというので、
最大参加人数を、今回から私を除いて5名としました。
ハッキリ言って当初目論んだような「収益化」は難しいと、
早くも気付いたわけですが笑、
でも、だからこその「やる意義」はより大きくなった感じです。

こういう場所を必要としている人は、
けっこういるかもしれないな、と。

映画会の場合、
読書会と違い、
それぞれの視聴環境とか視聴習慣が違うので、
「この映画について語りましょう!」がとても難しい。
もしかして今後やるかもしれないけれど、
さしあたりはテーマ映画を決めません。
私が過去2か月に観た映画をメルマガとYouTube/Podcastで紹介し、
そのうちの1本でも観てればそれ語っても良いし、
その中とは関係ない、
思い入れのある1本を、
他の参加者に紹介してくれても良い。
とにかく映画について語り合う「たき火」です。

「ミネルヴァ」ってのは、
ヘーゲルの「ミネルヴァのフクロウは黄昏に飛び立つ」
という言葉から取りました。
「大切な教訓というのは、
 その事象が終わりかけたときに出てくる」
みたいな意味で、
この映画会が「タイムリーな批評」というより、
「忘れ去られた映画」について、
「そういえばこういう面白い点もあった!」
みたいな哲学的考察が生まれたら面白いなー、
という直観からつけました。

では解説第2回行きましょう。


▼▼▼ミネルヴァ映画会 2024年2月 解説 第2回▼▼▼


●アフター・サン

鑑賞した日:2024年1月15日
鑑賞した方法:Amazonビデオでレンタル(500円)

監督:シャーロット・ウェルズ
主演:ポール・メスカル, フランキー・コリオ
公開年・国:2022年(イギリス)
リンク:
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CNQLQN6C/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

この映画はかなり評価が分かれると思います。
めちゃくちゃ好きって人と、
まったく分からなかった、という人と。
11歳のソフィが、
両親の離婚後離れて暮らすカラムと、
トルコのひなびたリゾート地に行きます。

それから20年後、
そのときに撮った、
「人生最後の父娘旅」となった、
そのバカンスのVHSビデオを、
30代になったソフィ(レズビアン)が観る、
という構造になっている。

当時の父と、
同じ年齢になったソフィは、
そこに映った父の、
あのときは分からなかった痛み、苦悩を発見し、
そして父のくれた言葉が、
今の自分を生かしている事実にも気付く。

たまらなく切なく、
たまらなく痛い作品です。
(280文字)



●ほつれる

鑑賞した日:2024年1月12日
鑑賞した方法:Amazonプライム特典

監督:加藤拓也
主演:門脇麦、田村健太郎、黒木華、染谷将太
公開年・国:2023年(日本)
リンク:
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CM6W4RRQ/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

去年観た『ケイコ、目を澄ませて』と同じ、
メーテレ製作の映画です。
かなりの佳作でした。
「メーテレ製作映画に外れなし説」が、
私の中で浮上しています。

門脇麦さんの演技はやっぱ凄いですね。
あと、田村健太郎さんという役者の、
モラハラ演技は、
「陣内アカデミー・モラハラ男優賞」を授与したいと思います。
最高に嫌な問い詰め方をします。

専業主婦の浮気と夫婦のすれ違い、
っていう非常にミクロな世界のミクロな出来事なのだけど、
そこにある「人間のコミュニケーションの不協和音」とか、
心の揺らぎとか、
そういう普遍的なテーマが描かれている。
登場人物に善人はひとりも描かれないし、
そもそも「正義」をテーマにした映画でもないのだけれど、
「人間って弱いよなぁ。
 それでも生きていかなきゃいけないんだよなぁ」
みたいなことを思わせてくれる、
(私の解釈では)温かい目線を持つ映画でした。
(373文字)




●アントニオ猪木をさがして

鑑賞した日:2024年1月14日
鑑賞した方法:Amazonプライム特典

監督:和田圭介, 三原光尋
主演:アントニオ猪木、棚橋弘至、有田哲平他
公開年・国:2023年(日本)
リンク:
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CQ7WWF2B/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

アントニオ猪木を描くドキュメンタリー映画です。
ブラジルのシーンから始まり、
かなり期待して観ましたが、
結果、私は消化不良だったかな。

本当に描いてほしい描写が中途半端、というか。
途中、変な「ドラマ」みたいのが差し挟まれるという構成も、
意味が分かりませんでしたし。
突貫工事で作りすぎて、
「間を埋める」ためのドラマだったんではないかと。

有田哲平さんとか、
棚橋弘至とか、
オカダカズチカが語ってるシーンは良かったのだけど、
かなり舌足らずというか。
もっと猪木の過剰な部分も負の部分も、
あと、闘病の部分とかも、
全部描くような映画だったら、
すごく面白くなったんだけどなーと思ってます。
(283文字)



●X エックス

鑑賞した日:2024年1月14日
鑑賞した方法:Amazonプライム特典

監督:タイ・ウェスト
主演:ミア・ゴス, ジェナ・オルテガ, ブリタニー・スノウ
公開年・国:2022年(アメリカ)
リンク:
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B66Y7XVR/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

この映画は「A24」という、
今映画会でヒットを量産し、
最も注目されているスタジオ製作の映画です。
ホラーというジャンルで、
続編『Pearl』も作られました。

ライムスター宇多丸さんとか、
高橋ヨシキさんとか、
町山智宏さんら、
シネフィル(映画愛好家)たちに、
かなり高く評価されているのですが、
私にはあまり魅力が正直分かりませんでした。

『カメラを止めるな』と同じで、
映画好きの映画好き制を、
メタ的に描いていて、
各所にいろんなオマージュがあったりする、
というヒップホップ的な手法の面白さが多分あるんだけど、
私はその元ネタが分からないから多分ついていけていない。

安物のポルノ映画を撮影するために、
とんでもない田舎の廃屋を撮影のために借りた男女グループが、
その隣に住んでいる老夫婦に襲撃される、
という「怖いババアモノ」で、
ホラーというよりもサイコスリラーですね。

このジャンル「怖いババアモノ」だと、
シャマラン監督の『Village』のほうが、
100倍面白いです。
どんなジャンルだよって感じですが。

この映画はフィクションラインが分かりづらく、
「いや、おばあさんにそんな筋力ないだろ」
ってのが一番かな。
襲ってくるババアが次々と若者を殺害するのですが、
そのババアに超自然的なゾンビ要素、ゴースト要素は多分ない。
ないのにそんな筋力がある理由が、
まったく分からないのですよね。
私はそういうところが引っかかる派です笑。
(569文字)




●ファーゴ シーズン5

鑑賞した日:2024年1月19日
鑑賞した方法:Amazonプライム特典

監督:ノア・ホーリー(プロデューサー コーエン兄弟)
主演:ジュノ・テンプル
公開年・国:2023年(アメリカ)
リンク:
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CMJD53KV/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

私は普段からドラマをあまり見られない性質なのですが、
例外的に愛しているドラマがいくつかあります。
海外ドラマだと、

1.THIS IS US
2.ファーゴ
3.BOSCH

ですね。
これは本当に面白かった。
1と3はいつか語るかもしれませんが、
今回は2です。
ファーゴ。

ファーゴを、実は私は偏愛しています。
もともと、90年代に『FARGO』という映画があった。
これはけっこうなヒット作で、
監督のコーエン兄弟は後に『ノー・カントリー』で、
アカデミー作品賞を受賞します。

私はコーエン兄弟のファンでもあって、
ユダヤ人ならではの、
「不思議な格言」が登場したり、
ユダヤのミシュナーの教えが出てきたり、
そういうのがなんか好きなんですよね。
「世界はそんなに単純じゃないぞ」と教えてくれる。
あと、アメリカ社会でマイノリティであるユダヤコミュニティで、
コーエン兄弟は育っていますから、
作品に必ず「マイノリティの視点」が出てきます。
どの作品かは忘れましたが、
直接的に、南部キリスト教社会での、
「ユダヤコミュニティへの差別といじめ」が題材にされた映画もある。

そんなコーエン兄弟の映画『FARGO』は名作で、
それがドラマ化されたのが6年前?ぐらい。

そしてドラマ版FARGOにはコーエン兄弟もプロデューサーとして関わっている。
こりゃ観るでしょ、と思って観ました。
結果、沼でした。
ずぶずぶとはまり、シーズン1~3に至っては、
「2周」しましたから。
シーズン1は3周したかもしれない。
繰り返し見ても面白い。
なんか、その世界に没入できるのですよね。
鬱が再発して本が読めなくなると一気に見るパターンが多いですが。

ドラマ版ファーゴの魅力は、
なんといっても脚本・監督のノア・ホーリーという人の、
シナリオライティングの技術の高さですね。

シーズンごとに時代や背景が違うのですが、
「これがファーゴ」っていう、
なんとなくのフォーマットがある。
それは「この世ならぬもの(サイコパス)」と、
「市井の素朴な善人」と、
「非常に愚かで事態をかき回すおっちょこちょい」と、
「社会が構造的に抱える矛盾や差別」とが、
3すくみや4すくみになって、
ドミノ的に事件が転がっていって、
という、言葉で説明するとまぁそういうことになる。

ここに「警察権力」と、
アウトローとしての反社会的権力、
さらに金という権力、
男という権力みたいな枠組みも加わる。
そうすると、持てる者と持たざる者、
愚かな者と賢き者、
強き者と弱き者、
ナイーブな者と狡猾な者、
そういったコントラストが複雑に絡み合い、
それらを連立方程式に解いていく面白さがある。
ファーゴという町や舞台のミネソタがそもそも、
アメリカ開拓史の後発組の北欧系によって開拓され、
北欧訛りの英語が強調されていたりする。
日本だと秋田とか山形とか、
そんなイメージなのかな。
アメリカの建国神話において、
辺縁の地域の物語というのも、
構造的にもう一個加わる。

シーズン1~4全部観てきて、
「シーズン1」が今まで一番好きと思ってましたが、
「シーズン5」は「シーズン1」を超えたかもしれない、
と私は感じました。

ここへ来て最高到達点を出す。
ノア・ホーリー恐るべしです。
今回は明らかに1.6議事堂乱入のトランプが意識されていて、
さらにはブラック・ライブズ・マター、
そして何よりアメリカにおける、
「女性をめぐる戦い」の物語でもある。

主人公のドロシーはかつて、
民兵を擁し、
州警察にも連邦政府にも敷地に入らせない、
男尊女卑の「保安官」によってDV被害を受けていた。
この男の被害女性は実は彼女だけでなく、
ドロシーはこのおぞましい家から逃れた過去があって……

というストーリーなのですが、
ドロシーはアメリカの家父長制で抑圧された女性たちを、
保安官はトランプ的なるもの、Qアノン的なるものを象徴し、
「アメリカの悪い部分」を煮染めたような存在です。
連邦政府や州警察はその保安官とどう関わるのか。
州警察で活躍する登場人物は、
インド系や黒人です。
彼らの良心によって、
アメリカはギリギリ崩壊を免れるのか。
それとも保安官の「男尊女卑と白人至上主義」は、
アメリカをこのまま呑み込むのか。

最後の「女性のシスターフッド」に、
私は涙しました。

マジでこのドラマ、凄いです。
(1,697文字)


▼▼▼月刊陣内アカデミー賞▼▼▼


紹介すべき映画は先週のメルマガですべて紹介しました。
ですので「月刊陣内アカデミー賞」をやります。
以前も時々やってたやつ。
毎回やるかどうか分からないけれど、
とりあえず今回は、
「尺」が余ったので、
やっていきます。
世界一小さな映画賞、
月刊陣内アカデミー賞。

●作品賞 『Winny』

監督:松本優作
主演:東出昌大、吉岡秀隆
公開年・国:2023年(日本)

▼コメント:
これは、動画でもメルマガでも語りましたが、
傑作映画だと思いました。
ノンフィクションの書籍を読んで、
「そうだったのか!!!」と気付くことで、
世界観というか社会観が変わることがあります。

近年ですと、
本丸は田中角栄ではなく、
児玉誉士夫や笹川良一や岸信介だったのだけど、
日本の司法とキッシンジャーの「取引」によって、
角栄が挙げられた、という真実に迫る、
『ロッキード疑獄』とかすごかったですし、
Qアノンを培養したのが2ちゃんねるだったという、
『Qを追う』とかも面白かった。
あと『ドープ・シック』という、
アメリカのオピオイド汚染を扱った本も、
日本ではほとんど報じられない、
アメリカを内部から蝕む薬物汚染が、
トランプ現象の補助線になってる、
みたいな構造を教えてくれました。

一方、同じぐらい、
いやもしかしたらそれ以上に、
ノンフィクションの映像作品(映画)にも、
世界像を揺るがす力があります。
『ある少年の告白』は、
私の同性愛「転向療法」への考えを、
180度変えましたし、
『SHE SAID その名を暴け』は、
#Mee Too 運動について、
そして何より、ワーンスタインの所業について、
見通しが良くなりました。
松本人志のやり口はワーンスタインと非常に良く似ていて、
あの映画を見た後で、
「いや、ホテルに行った女性たちもうかつだった」とか、
「土壇場で逃げなかったのが悪い」などと、
二度と言えなくなります。

さて。

『Winny』です。
これも本当に目から鱗だった。
私がいかに当時のマスコミおよび検察が、
ある意味「人工的につくり出した」、
Winnyの開発者=犯罪者
というイメージに引っ張られていたかがよく分かる。
最高裁では金子勇さんは無罪になりますが、
その1年後に急死していて、
事実上は無期懲役みたいな罰を受けている。
だけどWinnyを罰するというのは、
YouTubeを著作権違反で罰するのと同じだった、
ということをこの映画は教えてくれます。
悪いのは違法アップロードが可能なソフト開発ではなく、
そのソフトを利用して著作権を侵害する行為なのに、
当時の国にはそれがまったく理解できていなかった。
大きく国益を毀損した。
万死に値する訴訟劇だったと思います。




●最高ドラマ賞 『ファーゴ シーズン5』


▼:コメント
こちらもすごかったですね。
一気に見てしまいました。
とにかく「面白い!」の一言です。

ファーゴシリーズの持つ、
どことなくコメディの匂いがしつつ、
サイコスリラーでもありつつ、
ちょっとだけ超常現象みたいのが毎回出てくる、
という塩梅は、
コーエン兄弟にしか出せない味だと思います。

この感じは、本当に唯一無二です。
「ファーゴというジャンル」の、
私はファンなのだと思いました。




●超絶映像賞 『スパイダーバース アクロスザスパイダーバース』


▼コメント:
とにかく映像がえげつない。
あれは90年代だったかな。
初めて『トイ・ストーリー』を観たとき、
私は「いったい何を見ているんだ!」と思った。

今の感覚の人には伝わりづらいと思うのだけど、
当時、ああいう映像ってまだ存在しなかったから、
本当に驚いた。

え?

何なの?

アニメーション?

実写みたいに見えるけど違うよね。

何?

これが「フルCG」っていうものなの?

人間ってこんなことができるんだ!
と、映像にとにかく魅了されました。

スパイダーバースは、
ある意味、その驚きの再来かもしれない。
我々はいったい何を見ているんだ、
という驚きがあります。
今回はしかも超絶映像が、
「どう?この映像凄いでしょ!」
で終わっていない。
この映像技法とストーリーが、
必然性をもって絡み合っている。
このストーリーだと、
この超絶技法が必要、という風になっている。
天才たちの集まりが作ったんだろうなー、
と思いながら口を開けて観てました。
映画館で観たかったなー。




●モラハラ演技賞 田村健太郎 (『ほつれる』)


▼コメント:
『ほつれる』は、
門脇麦さんの演技も相変わらず素晴らしかったのだけど、
私は田村健太郎という「逸材」に最も魅せられました。
真綿で締め付けるように妻を追い込む彼の演技は、
そのいやらしさにおいて、
他の追随を許さない。
モラハラ演技大会があれば優勝できます。
新たな映像表現を、
スパイダーバースとは違う意味で見せつけられましたね。


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