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ミネルヴァ映画会 2024年6月28日金曜日 解説③



●『イコライザー THE FINAL』

監督:アントニー・フーコア
主演:デンゼル・ワシントン
公開年・国:2023年(アメリカ)
リンク:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B67B6Z7V/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

アクション映画はあまり得意ではないのですが、
『イコライザー』だけは好きなのですよね。
まず、デンゼル・ワシントンがすごく好き。
あと、デンゼル・ワシントン演ずるマッコールさんが、
「倫理的」なのも好きです。

元CIAの特殊工作員で、
無敵の強さなのですが、
その一面は普段は隠して生きている。
彼は読書家で、厭世的で、不眠症で、
紳士的で、女性を敬い、子どもに優しく、
恥ずかしがり屋で、そして強迫神経症です。

この人はなるべく世間と関わりを薄く生きていこうとするのですが、
「コイツらだけは生きてちゃいけない」
みたいな「絶対悪」に出会う。
もう、金田一少年が行くところでなぜか殺人事件が起きる、
っていうような不自然さで「絶対悪」に出会っちゃう。
そいつらを完膚なきまでにたたきのめす。
それも「60秒」などと時間を定め、
緻密な計算に基づき「理系的」に人を殺していく。

言ってしまえば勧善懲悪のカタルシス映画で、
このジャンルはそんなに得意じゃないんだけど、
マッコールさんの魅力が上回る。

今回の舞台はシチリア島で、
島を牛耳るマフィアの言語道断の悪行に、
マッコールさんの「裁き」が下るわけですが、
怪我をしたマッコールさんを介抱した島の医者が、
マッコールさんに「あなたは良い人間か、悪い人間か」と聞きます。
マッコールさんは「分からない」と答えます。
場合によってはマフィアかもしれないマッコールさんを、
医師は助け、マッコールさんはマフィアから島を救います。

後日医師にマッコールさんが、
「あのときなんで私を助けたのですか」と聞くと医師は言う。
「あの質問覚えてるか?
 良い人間だけが『分からない』と答えるんだ」

大好きなやりとりでした。
誠実な人であればあるほど、
自分が良い人間か悪い人間か、
分からないものなのです。
その懊悩を引き受けて不眠症になるヒーロー。
格好いいんです。
(763文字)




●『悪は存在しない』

監督:濱口竜介
主演:大美賀均/西川玲
公開年・国:2024年(日本)
リンク:https://aku.incline.life/

▼140文字ブリーフィング:

公開直後からけっこう話題になっていて、
特に「映画好き界隈」がざわついているというイメージでした。
観に行こっかなーどうしようっかなータイムを過ごし、
公開終わっちゃいそうだなーと思ってる頃、
友人からLINEで『悪は存在しない』観ましたか?と。

その熱量を聞いて、
そりゃ観るでしょ、となった。
運良く下北沢でまだ公開していて鑑賞しました。

ちなみに本作の監督は『ドライブ・マイ・カー』の濱口監督です。
結果、すごい映画でしたね。
名の知れた有名な俳優は多分一人も出てなくて、
『ドライブ・マイ・カー』より全然小規模な映画なんだけど、
それゆえによりエッジの効いたことをやっているというか。

矛盾を矛盾のまま放り投げて、
それを「解釈する」ということを拒絶するような映画です。
答えではなく問いを与えてくれる映画というか。

非常に寓話性/象徴性の高い映画で、
これは私たちのミクロな話でもあって
現代世界のマクロの話でもあるとも読める。
自然と人間界、
グローバルサウスと工業先進国
都市と農村、
資源を巡る問題、
歴史を巡る問題、
この「寓話」からいろんなことを読み込むことが可能です。

「まったく意味が分からなかった」という人と、
「めちゃくちゃ面白かった」という人に二分しそうな映画です。
(494文字)




●『蛇の道』(1998年版)

監督:黒沢清
主演:哀川翔/香川照之
公開年・国:1998年(日本)

リンク:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08NTWSLRT/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

1998年公開の本作を、
このたび黒沢清監督が「セルフリメイク」したらしく、
その公開記念でYouTube無料公開キャンペーンをやってたんですよね。

黒沢清監督も好きなので視聴しました。

黒澤監督の映画に漂う、
どこか冷たくて不穏な空気がずっと流れてる感じとか、
台詞が敢えて「台詞と割り切って記号的に読まれる」感じとか、
そういう世界観が良かったです。
数多ある邦画のように人が無意味に叫んだり泣いたりしないし、
無意味に土砂降りの雨に濡れたりしないところが好きです。
黒沢清映画には中毒性があります。
『CURE』とか『クリーピー』とか最高です。

全体としてモダン建築的という感じの冷たくて記号的なトーンです。
人の心を失わせる現代社会の「構造」を、
多分黒沢清さんは言いたいのかなーなんて思いました。
セルフリメイク版もサブスク化したら観ようと思います。
(316文字)

●『犬が島』

鑑賞した日:2024年5月17日
鑑賞した方法:Amazonプライム特典

監督:ウェス・アンダーソン
主演:エドワード・ノートン/スカーレット・ヨハンソンほか
公開年・国:2018年(アメリカ)
リンク:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07FMN9BCM/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

4月のミネルヴァ映画会で、
参加者のひとりがこの映画を教えてくれて、
興味をもって鑑賞しました。

めちゃ面白かったです。
モーションキャプチャーという、
コマ送り三次元アニメなのも良い。
『ひつじのショーン』のやり方と言ったら分かるでしょうか。

ショーンより遙かに精細につくられた小道具や、
それが動くのを観る歓びのようなものがあります。
うわあ、こうやるんだ、みたいな。
職人が寿司を握るシーンとか、すごいです。

ちなみに本作はジャンルで言うと「SF」で、
しかも「ディストピアSF」です。

近未来の日本の架空の都市「メガ崎市」で、
市長が「逆・生類憐れみの令」みたいなのを出す。
すべての犬を「犬が島」に島流しにするのです。

犬を媒介する「ドッグ病」が蔓延した結果、
「犬反対運動」が起き、
ポピュリストの市長が「追放政策」を実施する。
市長に拾われた孤児の12歳の少年アタリは、
自らの愛犬スポッツを取り返しに犬が島に単身乗り込む。
そこから冒険が始まっていく、というストーリーです。

この映画って、
実は現代の人種差別や排外主義や、
コミュニケーションとは何かということや、
言葉が伝わってなくても共闘できるって話や、
そういういろんなことを表象していて、
見た目以上に深い映画でもあります。
わりと『悪は存在しない』とか、
『ドライブ・マイ・カー』にも重なるテーマを扱ってもいる。
お勧めです。
(572文字)




●『ヤニス GIANNIS』(Amazonオリジナル)

監督:クリステン・ラパス
主演:ヤニス・アデトクンポ
公開年・国:2023年(アメリカ)
リンク:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CQFG2K4P/ref=atv_dp_share_cu_r

▼140文字ブリーフィング:

これはめちゃくちゃ面白かったです。
今のNBAで「現役最強」とも言われる、
ギリシャの怪物(Greek Freak)の異名を持つ、
ヤニス・アデトクンボという選手がいます。
インサイドは無敵で俊敏性があり、
ボールハンドリングもパスも上手く、
スリーポイントも近年は武器にするようになった、
「手が着けられない」選手です。
2年連続でシーズンMVPを獲得した、
間違いなく世界最高のバスケ選手のひとりなのですが、
本作は彼のドキュメンタリー映画です。

アフリカ生まれのヤニス一家は、
居住地の工業汚染から逃れ、
ギリシャに不法移民として住み始めます。
家賃を滞納したときは、
大家が警察に通報すれば強制送還でギリシャにいられなくなるので、
一晩で「夜逃げ」した経験もある。

バスケで頭角を現した彼はギリシャの二部リーグでプレイするようになり、
噂を聞きつけたNBAのミルウォーキー・バックスのエイジェントがギリシャに来る。
彼の素材を見抜いたバックスの職員は米国に戻る前に、
その場でヤニスと契約します。

ヤニスは「家族を米国に連れて来てくれるならNBAに行く」
という条件で契約が成立する。
ギリシャ政府は現金なもので、
ヤニスがNBAと契約した瞬間、
ヤニス・アデトクンボにギリシャのパスポートを渡します。
(家族にはまだパスポートがありません。
 この時点でお父さんは若いときに死んでいて、
 お母さんと4人か5人のきょうだいがギリシャにいます)

バックスの職員たちはヤニスとの約束を誠実に守り、
連邦政府や外務大臣にまで掛け合って、
どうにかギリシャ政府にヤニス家族のパスポートを出してもらい、
ついにヤニスは夢だった家族でのアメリカ生活を実現させる。
ヤニスもMVPを獲った翌年は、
大きなサラリーを求めてビッグフランチャイズに移籍すると言われていましたが、
約束を守ってくれ、自分を育ててくれたミルウォーキーの街に恩義を感じていた。
その翌年、大方の予想を裏切り、
ヤニスはミルウォーキーに残留し、
そしてなんとその年に球団として50年ぶりのNBAチャンピオンに輝く。
マンガのような本当の話です。
魂が揺さぶられました。
(872文字)


▼▼▼月刊陣内アカデミー賞▼▼▼


今回取り扱う、紹介すべき映画はすべて紹介しました。
ですので「月刊陣内アカデミー賞」をやります。
さっそくいってみましょう!

●作品賞 『オッペンハイマー』

▼コメント:
まぁ、米国のアカデミー賞でも作品賞ですから、
そりゃそうだろ、ってのもあるのだけど、
「ずしん」と来ました。
日本人はみんな見た方が良いのではないかと思います。

●撮影賞 『ソフト/クワイエット』

▼コメント:
「ノーカット」という手法が、
これほど効果的で必然的な作品もないでしょう。
マジで、どうやって撮ったんだ、
って思います。
とんでもないことをさらっとやっている。
それでいて差別のリアリティをこれでもかと突きつけてくる。
これはすごい映画でした。


●実話に基づく映画賞 『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』

▼コメント:
これも本当にすごかった。
「実話に基づく映画」に私は弱くて、
特にエンドロールで本人登場パターンがいちばん「やられる」。
本作のエンドロールには驚きの音声が収録されていて、
もう、本当に、動けなくなりました。


●爪痕を残した台詞賞 伊藤文学さん(94歳のゲイ)

▼コメント:

『94歳のゲイ』は、
長谷忠さんのたたずまいが素晴らしく、
なんか、ずっと観ていられるんですよね。
重いテーマではあるのですが、
なぜか爽やかな印象すらあるのは、
長谷さんの人柄ゆえだと思います。
加えて私は『薔薇族』の編集長、
伊藤文学さんに魂を揺さぶられました。
ストレートで結婚もしていて子どももいる。
ゲイの方々のために戦うことは、
彼にとってまったくメリットはない。
当時は殺害予告みたいなものもあったかもしれない。
でも「マイノリティが平気で差別されているのを、
黙って見てるってのはありえなかった」
という伊藤さんは、これもまた爽やかですらあり、
めちゃくちゃ格好良い人がいたんだなぁ、と感じました。


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