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対中国の「ミサイル要塞」にされていく南西諸島――国民を「捨て石」にする戦争を繰り返してはならない



 南西諸島の島々に、陸上自衛隊のミサイル部隊が配備されつつある。有事の際、相手国の航空機や艦船をミサイルで攻撃して食い止めようという作戦で、「仮想敵」は中国人民解放軍だ。背景には、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」として警戒するアメリカの構想がある。しかし、こちらが撃てば、相手も撃ってくる。「ミサイル要塞」にされた島に住む人々が、弾雨にさらされない保証はない。国民の安全はどうやって守るのか。4月、菅義偉首相とバイデン大統領は首脳会談後の共同声明で台湾の問題に言及し、日米同盟の結束を確認した。アメリカは日本に対中国防衛体制への協力を望むが、もし台湾有事になれば、米軍基地が集中する沖縄や「ミサイル要塞」の島々は真っ先に標的になる。「対米従属」が極まった日米安保体制のあり様について、国民全体での議論はまったく行われていない。誰にも分からないところへ、今、日本は向かおうとしている。


 1、「南西シフト」の現状

 これは、令和2年(2020年)版の「防衛白書」に掲載された南西諸島の地図だ。近年、新たに配備された自衛隊の部隊が記載されている。かつて、日本の防衛はソ連侵攻に備える北方の守りが重視されていた。冷戦終結後、次第に部隊の再編が行われ、防衛の主軸は南西地域に移動していく。牽制の対象は中国である。こうした南西地域の防衛態勢の強化は「南西シフト」と呼ばれる。

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 なかでも注目すべきはここ数年、陸上自衛隊のミサイル部隊の配備が着々と進んでいることだ。鹿児島県・奄美大島、沖縄県・宮古島、石垣島の3島である。


◆奄美大島=奄美駐屯地、瀬戸内分屯地(隊員約550名)
  奄美警備隊(奄美、瀬戸内)
  第344高射中隊(奄美)
  第301地対艦ミサイル中隊(瀬戸内)
 
◆宮古島=宮古島駐屯地(隊員約700~800名)
  宮古警備隊
  第7高射特科群
  第302地対艦ミサイル中隊
 
◆石垣島(隊員約500~600名)
  2019年着工、地対艦ミサイル部隊など


 奄美大島では、2019年3月、陸上自衛隊奄美駐屯地と瀬戸内分屯地が開設された。ここには中距離地対空誘導弾(中SAM)を備える高射中隊(奄美駐屯地)、地対艦誘導弾(SSM)を持つ地対艦ミサイル中隊(瀬戸内分屯地)、そして警備部隊、隊員は合わせて約550名になる。

 宮古島でも同月、陸自宮古島駐屯地(千代田地区)が開設され、現在、もう一か所の駐屯地(保良地区)が建設されている。同じように中SAMとSSMの部隊、そして警備隊が配備され、部隊の規模は3島で最大の700人から800人。

 そして石垣島は、2018年に中山義隆・石垣市長が陸上自衛隊の部隊の受け入れを表明して、19年春に駐屯地の建設が始まった。奄美、宮古と同様の部隊が配備される予定で、隊員規模は500人から600人とされる。

 2、島の状況

 これらの写真は、沖縄・宮古島の陸上自衛隊宮古島駐屯地だ。上段は、ゴルフ場の跡地に建設された駐屯地を上空から見た画像。沖縄の米軍基地や自衛隊基地をドローンで空撮する市民団体「沖縄ドローンプロジェクト」が撮影した。ドキュメンタリー監督の藤本幸久さん、土木技術者の奥間政則さんらが活動を続けている。

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 中段の写真は駐屯地の正門。下段はミサイル発射台を搭載した車両で、有事になればこれが島内を移動してミサイル攻撃をすることになる。

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 これは宮古島の東側、保良(ぼら)地区に建設中のもうひとつの駐屯地。中央のコンクリの大きな塀のようなものに囲われた弾薬庫にミサイルが貯蔵される。3月には弾薬庫2棟が完成した。

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 そしてこれは、山あいから撮影した石垣島で建設中の陸自駐屯地の工事現場。同じように地対艦ミサイルや地対空ミサイルの部隊が配備される。

 これらが、中国人民解放軍の西太平洋への東進を警戒する部隊配備である。南西諸島を越えてくる人民解放軍の航空機や艦船をミサイルで攻撃をし、進行を阻もうという作戦だ。


 2020年11月、石垣島の駐屯地工事現場のすぐ近くで農園を営んでいる木方基成(きほう・もとなり)さんにお話を聞いた。

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 木方さんは、防衛省の買収の対象になった地区に農地を持っているが、売却はしなかった。今は買収が予定される土地に囲まれる中で農業を営む形になっている。農園内では、小学4年生の長女の誕生記念に苗木を植えた菩提樹が育っている。

 「家族にとって特別な木です」。木方さんはそう語る。駐屯地の用地として防衛省に売却していたら菩提樹も切られていたかも知れない。

 石垣市では、市民が駐屯地建設の是非を問う住民投票をするための条例制定を求めて必要数を大幅に上回る署名を集めたが、市議会で否決され、まだ実現していない。民意を確かめないまま、着々と工事は進んでいる。

 南西諸島ではこのほか、与那国島に対中国防衛体制強化のため、自衛隊の「沿岸監視隊」というレーダー部隊が2016年に配備され、また鹿児島県の馬毛島でも基地建設計画が進められているが、それだけではない。

 宮古島などに配備される地対艦ミサイル部隊を沖縄島にも配備する、という政府の検討を伝える2018年2月28日付の「琉球新報」。

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 沖縄島と宮古島の間の宮古海峡は国内でも最大級の海峡といわれ、二百数十キロ離れている。現在の地対艦ミサイルの射程は約200キロとされ、これを沖縄、宮古両島から撃つことで、海峡をカバーできるというのが防衛省の計画だ。奄美から日本最西端までの主要な島々に軍事拠点が置かれていく。

 3、政府・防衛省の説明

 南西諸島に次々にミサイル部隊を配置していくことについて、防衛省はどのように説明してきたのか。与那国に沿岸監視隊が配備された2016年の防衛白書には、次のように書かれている。


 南西地域の防衛体制の強化 わが国は、約6,800の島嶼を抱えており、そのうち約1,000の島嶼が存在する南西地域は、部隊配備上の空白地域を形成しています。さらに、近年の厳しい安全保障環境を踏まえ、防衛省・自衛隊では、事態発生時に自衛隊の部隊が迅速かつ継続的に対応できるよう、南西地域の防衛体制を強化しています。
 このような考えの下、16(平成28)年3月に、南西地域における常続的な監視体制の整備のために与那国島に沿岸監視部隊を新編したほか、災害を含む各種事態発生時に自足に対処する警備部隊の配置先として、奄美大島、宮古島及び石垣島を選定し、地元の理解を得つつ、現在検討を進めているところです。(「平成28年版 防衛白書」P290)


 中国人民解放軍に対するミサイル部隊配備には触れず、「部隊配備上の空白地帯」、つまり<今のところ自衛隊がいないので穴埋めする>というような言葉が、この後、自治体やマスコミに対する説明でも、しばしば使われるようになる。

 例えば、2019年3月、当時の岩屋毅防衛相の記者会見。

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            岩屋毅氏(防衛省HPより)

 「今、日本の守りの最前線は南西地域だと思っております。その南西地域は1,200kmにも及ぶ広い海域です。従って、空白地帯がない様に自衛隊の部隊配置を進めさせていただいているところでございます」

 宮古島、奄美大島などの陸自部隊配備に触れ、

 「こういう部隊ができることによって、守りの空白地帯が埋まっていく。それから災害を含む各種事態に対する初動対応、迅速な展開が可能になると考えております」

 やはり、対中国のミサイルのことは言わない。「守りの空白地帯」とはどういう意味なのだろうか。実際には、かなり昔から航空自衛隊のレーダー部隊が宮古島に配備されているし、そもそも沖縄島は国内で一番多くの米軍基地が集中する地で、陸海空自衛隊も駐留している。そう考えて岩屋防衛相の発言を読み返すと、むしろ、その前の「今、日本の守りの最前線は南西地域」が問題であることがわかる。

 その意味を考えるうえで、まず政府がいつごろからこうした計画を持っていたのか、見直してみたい。

 日本は、中長期的な視野で安全保障政策や防衛力の規模を示したガイドラインである「防衛計画の大綱」を数年おきに定めている。それをもとに、どんな武器をどのぐらい調達するか、などを示したのが「中期防衛力整備計画(中期防)」で、日本の防衛政策は基本的にこれらに基づいて行われる。

 その「防衛大綱」に南西諸島の自衛隊配備が盛り込まれたのが、民主党の菅直人政権の時、2010年だった。

 「自衛隊配備の空白となっている島嶼部について、必要最小限の部隊を新たに配置するとともに、部隊が活動を行う際の拠点、機動力、輸送能力及び実効的な対処能力を整備することにより、島嶼部への攻撃に対する対応や周辺海空域の安全確保に関する能力を強化する」(「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」)

 この年の「中期防」には、与那国に配備されることになる「沿岸監視部隊」の新編が盛り込まれるが、ミサイル部隊への言及はなかった。これがわずかの間に変わる。

 2012年、自民党が政権を奪回。翌2013年、第二次安倍政権の下で、前回から3年で「防衛大綱」は作りなおされる。

 新大綱には「日米同盟の強化」「日米同盟の抑止力及び対処力の強化」という項目が入り、南西諸島についてはこう書かれた。

 「島嶼部等に対する侵攻を可能な限り洋上において阻止し得るよう、地対艦誘導弾部隊を保持する」「作戦部隊及び重要地域の防空を有効に行い得るよう、地対空誘導弾部隊を保持する」(「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」)

 これが現在、南西諸島の各島に建設され、配備されているものだ。

 その5年後、2018年に大綱はもう一度作り変えられ、軍事力の強化がさらに詳細に書き込まれ、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊を保持する」(「平成31 年度以降に係る防衛計画の大綱」)と耳慣れない言葉が登場する。

 「高速滑空弾」というのは、地上から打ち上げて空気抵抗の少ない大気圏の上層で弾頭を分離し、GPSで誘導されながらグライダーのように滑空して敵艦に命中する新兵器。迎撃が難しいと言われているもので、現在開発中だ。

 民主党政権下で「必要最小限の部隊」から始まり、自民党政権になって「ミサイル部隊」、さらには新型兵器の開発へと短期間に急速に強化されてきたのが分かる。

 このような動きの背景には、何があるのか。「防衛大綱」が南西諸島の自衛隊配備に言及した2010年、アメリカでも、ある動きがあった。


 4、アメリカの作戦構想と戦略

 アメリカは4年ごとに国防計画の検討を行っていて報告書を公表している。タイトルは”Quadrennial defense review report(QDR)”、日本では「4年毎の国防見直し」と呼んでいる。 その2010年版で中国の軍事力への警戒感を示したうえで、”joint air sea battle concept”(統合エアシーバトル構想)という作戦構想に言及する。

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 これに合わせて、軍とのつながりが深い軍事系シンクタンク「戦略予算評価センター」(Center for Strategic and Budgetary Assessment, CSBA)が、QDR2010と同じ年に「エアシーバトル――作戦構想の出発点」などのレポートを発表する。

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 米中両軍の衝突を想定したアメリカ軍のための作戦構想である。

 軍事力の面で、中国は今もってアメリカには及ばず、航空戦力も海洋戦力も、高性能の空母や潜水艦、戦闘機などアメリカの方が優れている。その状況で、もし戦争になったら中国はどんな戦い方をするだろうか、を検証している。

 人民解放軍がとるであろうとみられているのが、”anti-access and area denial( A2/AD)”、日本語で言うと「接近阻止/領域または地域拒否」という戦法だ。アメリカ軍の高価な空母や航空機などの兵器を、比較的値段の安い弾道ミサイルなどで撃破し、無力化して近づけないようにする、域内での相手の軍事行動を制約する。そして、「第一列島線」とよばれる島々の線を越えていく、というものだ。

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 「第一列島線」とは1980年代に中国海軍が「作戦海域」として示した概念のラインだ。上の地図は「エアシーバトル――作戦構想の出発点」に示されたもの。九州から南西諸島を経て、フィリピン、カリマンタン島まで続く島嶼線が「第1列島線」だ。「エアシーバトル」では、琉球諸島を”Ryukyus Barrier”(琉球の防壁)と呼び、「同盟国」とともにミサイル攻撃や対潜水艦戦、サイバー攻撃を駆使し、中国の人民解放軍の艦船や航空機の東進を阻止して接近を阻み、「第1列島線」の西側を、”No Man’s Sea”(無人海域)にするというのが第一段階の作戦として記載されている。

 さらに、初期段階では、沖縄の米空軍嘉手納基地などは地理的に中国に近く、ミサイル攻撃を受けやすい「脆弱」な位置にあるため、在日米軍の主力である航空部隊はいったん分散退避することも検討されている。もし米中紛争が起きたら、第一段階で、最前線で戦うのは日本の自衛隊と米軍の残留部隊ということになる。多くの日本人は、日本を外敵から守ってくれるのは在日米軍だと信じているが、現実に戦争になった場合に期待通りの展開になるのかどうか、は真剣に検証しなければならない。

 この「エアシーバトル」構想については、米軍関係のシンクタンクや海軍大学などの機関でさまざまな研究論文が発表された。「エアシーバトル」を批判しつつ再提案した「オフショアコントロール論」、「エアシーバトル」を補完し、第一列島線内外での作戦内容を詳述した「海洋プレッシャー戦略」など、いくつかの構想が示されている。その中で、2012年に発表された論文「アメリカ流非対称戦争」(Toshi Yoshihara and James R. Holmes, “Asymmetric Warfare, American Style”)に注目すべき記述がある。

 中国を、イギリスの人気小説「ハリー・ポッター」に登場する闇の魔法使いになぞらえたうえで、中国に対抗するための戦術に言及。「琉球諸島」を明記し、そこに陸上自衛隊の車載型の地対艦ミサイルを配備することによって「東シナ海の多くの部分を中国水上艦部隊にとっての行動不能海域にすることができる」と書かれている。中国の戦法とされる「A2/AD」を、逆手にとって、こっち側が使おうという作戦であり、まさに南西諸島で行われているミサイル部隊の配備はこの発想に一致している。

 エアシーバトル構想は2015年に「グローバルコモンズにおけるアクセスと機動のための統合構想」(Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons: Jam-GC, JAM-GC)(ジャムジーシー)という名称に変更され、それはまだ公表されていない。いずれにしても「第一列島線」での中国人民解放軍封じ込めという、アメリカの対中国戦術の基本的な考え方は変わらないようだ。南西諸島での陸上自衛隊のミサイル部隊配備は、おおもとをたどれば、アメリカ軍の作戦構想に重なることになる。


 5、日米の軍事的「一体化」

 これらの事実に対して、日本政府はどのような説明をしているのか。これまでのところ、ミサイル配備とアメリカの作戦構想との関係も、はっきりとは認めてない。

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           稲田朋美氏(防衛省HPより)

 ただ、2017年5月25日の参院外交防衛委員会での、沖縄選出の伊波洋一議員の質問に対する当時の稲田朋美防衛大臣の答弁が、そのことをにおわせている。

 「南西地域の防衛体制の強化については、わが国の国家安全保障戦略のもとに策定された防衛計画の大綱及び中期防に基づき取り組んでいるものですが、防衛計画の大綱及び中期防に基づく南西地域の防衛体制強化を含む各種の施策は、結果として、エアシーバトル構想、オフショアコントロール論で想定されるミサイル攻撃に対応することが可能であるというふうに認識をしているところでございます」

 日本の安全保障戦略ではあるが、 「結果として」アメリカの対中国作戦構想に対応可能になった、と。

 ちなみに、稲田氏は、「エアシーバトル構想」がアメリカで公表された翌年の2011年、自民党が野党だった時に、議員として衆院外務委員会で民主党政権の玄葉光一郎外務大臣に、この構想について突っ込んだ質問をしている。状況を熟知したはずの人物が防衛大臣になったら、ミサイル部隊の配備がアメリカの作戦構想に「結果として」対応可能、などと思わせぶりな答弁しかしない。それがこの国の政治の現実だが、政府が、自衛隊とアメリカ軍の「一体化」を進めて、アメリカによる「中国牽制」の構想に乗ろうとしているのは明らかだ。

 これまでの経緯は自民党だけの責任ではない。民主党の野田佳彦政権時の2012年4月、日米安全保障協議委員会(両国の外務防衛両首脳が会合する、いわゆる「2プラス2」)が東京で開催された。その共同発表で、「動的防衛協力」という概念が初めて示される。共同訓練や基地の共同使用など日米のより密接な協力によって抑止力を高める、という合意がなされた。いわば両国の「軍事的一体化」の促進である。その当時、野田政権は「日米の軍事協力に前のめりになった」とメディアに評価された。

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 これは合意を受けて、同年7月に作成された自衛隊の内部文書だ。共産党の穀田恵二議員が後に国会で明らかにした。文書は「動的防衛協力」の対象が中国であることを明記している。その軍事戦略として、前述の「A2/AD」を使った中国の米軍介入拒否を真ん中に示したうえで、中国の「海洋権益の拡大」として第一列島線、すなわち南西諸島を越える矢印が示されている。

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 さらに、沖縄の米軍基地での「恒常的な共同使用」についての部隊配置の構想も記載され、辺野古埋め立てによる新米軍滑走路が建設されている「キャンプシュワブ」には、陸上自衛隊普通科(歩兵)部隊を置き、米軍基地の「共同使用」をすることが図上で示されている。

 2021年1月25日、沖縄タイムスは、辺野古の新米軍基地にアメリカ海兵隊のみならず陸上自衛隊の水陸機動団(日本版海兵隊)が共同で使用するという合意が、両国の制服幹部同士でひそかに交わされていたと報じた。

陸自も常駐合意

 これも両国の合意に基づいたものと考えられ、政府間で正式に合意したものではない、という防衛省の説明は虚しく聞こえる。われわれ国民が気づきにくいところで、対中国を想定した日米の軍事的な「一体化」は、何年も前から既定路線として始まっている。

 さらに沖縄へのミサイル配備は、自衛隊のみならず、アメリカ海兵隊も計画している。

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 米海兵隊は昨年、”Force Design 2030”(戦力デザイン2030)という10年先の戦力設計を明らかにする構想を発表。今後、戦車を全廃し、最新鋭ステルス戦闘機や垂直離着陸輸送機オスプレイも減らして、兵員を削減するなど海兵隊全体の大幅な改編計画を明らかにした。そのうえで、海兵隊トップのバーガー総司令官は、地対艦ミサイルを配備した「海兵沿岸連隊(MLR)」を新たに3隊創設して、ハワイ、グアム、そして沖縄に配備することを時事通信やスターズ・アンド・ストライプス紙などに述べた。

 つまり、万一、アメリカが中国との紛争に突入したならば、自衛隊とアメリカ海兵隊が共同して、南西諸島を舞台に人民解放軍とミサイルの撃ちあいを始めることになりかねないということだ。言うまでもないが、島々には大勢の人が暮らしている。想像したくはないが、恐ろしい地獄絵が脳裏に浮かんでくる。

 岩屋氏に「日本の守りの最前線」と言われた南西地域は、アメリカの戦術に追随する形で急速に「要塞」に変えられつつある。


 6、「沖縄戦の再来」

 こちらがミサイルで攻撃すれば、相手からも撃たれる。もし本当に人民解放軍が南西諸島を越える気ならば、まず島のミサイル部隊を潰してから来ると考えるのが自然だ。その時、住民の安全をどのように確保できるか。それが最大の問題だ。

 各島の人口は、宮古島約4万9千人、石垣島約4万8千人、奄美大島約5万8千人。これだけの人々を守る手だてはあるのか。

 2004年、有事の場合に攻撃などから国民を守るため、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」が制定された。略して「国民保護法」。有事や大規模テロの際に、国民の生命財産を守るための法律で、その責務は国と各自治体が担う。同法に基づき、各自治体は「国民保護計画」を作成。有事においての国民の人権保護や情報提供、避難指示、救援などさまざまな局面での対応を記している。

島外への避難

 これは石垣市の国民保護計画に記載された概念図。住民が島外へ避難する際のイメージを示している。島内の避難施設を経て、飛行機や船で沖縄島へ向かい、そこから県外へ、という流れだが、石垣市の人口は5万人近く。すべての人が島外に出るのにどれぐらいの日数がかかるか、は書かれておらず、必要な飛行機や船をどう確保するかも具体策はない。仮に沖縄島まで避難できたとして、米軍基地が日本で一番集中している場所が、果たしてどれぐらい安全と言えるのか。それについても言及はない。

 また、宮古島の国民保護計画に添付された島内の避難施設の一覧表には、学校や公園、公民館などが列記されている。これではミサイル攻撃から市民を守る避難場所として、あまりに心許ない。地震や大型台風などの自然災害を想定した避難所でしかないのだが、現状を考えれば、地元自治体だけでは、それ以上の計画などどうしようもないということになる。

 2018年11月の衆院安全保障委員会で、沖縄選出の赤嶺政賢議員が、防衛省内の検討文書を示した。仮に離島に2000名の自衛隊員がいたとして、4500名の敵部隊が着上陸侵攻をしてきた場合、それでは劣勢になる。そこに2000名の増援を送ってようやく奪還が可能という筋書きをしましたものだという。一方の残存率が30%になるまで戦うという想定、つまり7割は戦死ということだが、赤嶺議員は「沖縄戦の再来」と訴えている。

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         赤嶺政賢氏(HPより)

 はっきりしているのは、奄美、宮古、石垣に配備されたミサイル部隊は、離島防衛のための戦力ではないということ。隊員数から考えても島を守れるだけの規模ではない。宮古海峡など南西諸島の島々の間を通り抜けようとする中国海軍を、ミサイル攻撃で封じ込めるための部隊配備であるにもかかわらず、反撃を受けた場合に島の人々を守るための手立ては、現段階では、まったくできていないと言わざるを得ないのが現状なのだ。

 離島の自治体の危機管理担当に聞くと、島外避難については、県とともに協議しなければならない、と言う。沖縄県の防災危機管理課に尋ねると、島外避難は国との調整が必要になる、と言う。沖縄に割拠する米軍が有事にどう行動するか、など全く分からない。


沖縄県国民

 沖縄県の国民保護計画の「在沖米軍との連携」という項目には2行の記述がある。確かに県土に密集する米軍基地の動向は、県民の安全を考えるうえで無視はできない。しかし、米軍とへたに「連携」などすれば、住民が軍と行動をともにして筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられた沖縄戦の二の舞になる危険性は大きい。

 沖縄・南西諸島は、米軍基地が日本で一番集中しているうえ、新たにミサイル部隊まで抱え、対中国封じ込め作戦の最前線に置かれてしまった。しかも島嶼県で県土は狭い。県民はどこに逃げれば無事でいられるのか。国民が安全でいられることは、勝つか負けるか以上に重大事であることは言うまでもない。

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               小西誠氏

 元航空自衛隊員で、「南西シフト」の問題を追及している軍事評論家の小西誠さんは次のように語る。

 「第一列島線を最前線とする米中紛争が起きれば、『先島限定戦争』になる可能性もある。ミサイル部隊が配備された島は、相手国からも攻撃を受けることになり、徹底的に破壊される。自衛隊は、島内にシェルターを設置する研究も行っているが、これで住民を守れるわけがなく、最終的には島の一部について『無防備地域宣言』を出し、島民はそこに避難して攻撃を避けるしかないだろう」

 「無防備地域宣言」とは、ある地域には軍事力を置かないということを相手国に宣言して攻撃を避けるというもので、ハーグ陸戦条約に基づいている。戦争になれば、それぐらい事態は深刻なのだ。


 7、ミサイル配備は争点にならず

 今年1月、宮古島市で市長選挙が行われた。自民公明が推して4選を目指した現職の下地敏彦氏と、玉城デニー知事を支えるオール沖縄などの推す座喜味一幸氏が争い、座喜味氏が当選した。下地氏は、宮古島への陸上自衛隊配備を受け入れた市長だったが、対立候補の座喜味氏も配備は容認の立場だ。宮古島で最も重大ともいえる課題は、結局、この市長選の主要な争点にはならなかった。

座喜味

         座喜味一幸氏

 当選が決まった直後、座喜味氏は、ミサイル配備問題についてこう語った。

 「市長が説明会や地元との話し合いに入り、正しい情報を共有して議論を進める。市民の不安については市長が率先して情報を公開していく。市民の理解を得ない安全保障はないと考えている」

 これまで政府はこの問題について十分な説明をしていない。そもそも島々に配備したミサイルを、いつ、どのような状況で発射するか、などは何も明らかにされない。国が、有事の作戦構想を説明したうえで、国民が安全でいられるための情報を明らかにするのは当然だが、これまでの経緯を考えると、われわれ国民はもはや政府の言うことを鵜吞みにはできない。敗戦から76年。沖縄は、またしても戦争と軍隊に関わる深刻な問題に直面することになった。


 8、「捨て石作戦」など不可能


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     日米首脳会談後の共同記者会見(首相官邸HPより)

 沖縄のアメリカ海兵隊普天間飛行場の全面返還が合意されて25年になる。この間、県内の米軍基地はあまり減らず、逆に自衛隊ミサイル部隊の配備が進むなど、沖縄全域の「要塞化」が進んでいる。背景には、日本とアメリカの「軍事的一体化」があり、名護市辺野古で建設中の埋め立て基地も「一体化」という点で共通している。

 現段階では想定しにくいとは思うが、アメリカと中国が紛争に突入すれば、戦域の目の前で米軍基地を抱えている日本は真っ先に攻撃を受けることになる。そしてその多くは沖縄に集中している。基地が攻撃目標になることは当たり前なのに、そのうえ中国を対象にしたミサイル部隊が南西地域に相次いで配備され、その先に何が起きるのかは国民には知らされず、議論もまったく行われていない。先の大戦のように国民を見殺しにする「捨て石作戦」などできるはずはないし、やってはならないが、最悪の事態を考えれば、沖縄・日本がアメリカから「捨て石」にされないとも言い切れない。

 この問題は、日米安保体制を支持するか否か、自衛隊の存在を認めるか否か、とはまた別と考えるべきだろう。国の防衛力としての自衛隊を認めることと、中国軍攻撃を想定したミサイル部隊の南西諸島配備を認めることとは、まるで意味が違う。「防衛力の保持は認めたから、あとは防衛省・自衛隊でお好きに」というわけにはいかないのだ。

 日本が中国を相手に戦争をするなど考えられないし、あってはならない。それによって被る被害はあまりにも大きすぎる。日米首脳会談の共同声明には、中国を念頭に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が盛り込まれたが、万一、台湾有事が起きたとして、米中の紛争に参戦せざるを得ない状況を考えるのであれば、沖縄をはじめとして日本全体の国民の安全をどのように守るのか。アメリカと約束する前に、まず、そこから国民全体で議論しなくてはならない。中国による香港、新疆ウィグル自治区での弾圧や人権蹂躙は戦争で解決できる問題ではなく、国際世論の結束と国際機関による調査、そして今こそ外交の力が求められている。

 「対米従属」といわれるアメリカとの付き合い方を、敗戦国・日本はどこまで続けていくのか。沖縄、南西諸島で進められる「要塞化」を検証するとともに、将来にわたる日米関係を再検討すべき時に来ているのではないだろうか。

 川端 俊一(かわばた しゅんいち) 元新聞記者


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