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ビールを売らないビール屋になりたいと思った。

僕たちはなにを売っている?

いま僕はクラフトビール会社で日々ビールを作っていますが、つくづく僕たちが売っているのはビールじゃないなと思います。

ビール好きの方ならわりと同意してもらえると思いますが、ビールを好きな理由はもちろんビール自体が美味しいということもあるけど、それと同等、もしくはそれ以上にビールを媒介とした楽しいコミュニケーションであったり、リラックスした空間、アートや音楽とのふれあいなんかが凄い良いものだった経験があってビール(もといその他のお酒)が好きな方が多いと思います。

つまり、僕らがクラフトビールに対してなにかしら価値を感じて払っているお金は、かならずしもあの琥珀色のおいしい液体に対して払われている対価だけではない、というのはあまり異論ないと思います。

価値ってなんだろう

ここで少し理屈のはなしを織り混ぜたいんですが、あるものの価値というのは主観的価値と客観的価値に大別できるという考えがあります(これを価値学説、というらしいです)。下に日本国語大辞典の引用を載せておきます。

経済理論の根本的命題である経済的価値を対象とし、それを規定する要因を解明する学説。価値概念は、主観的価値と客観的価値に区分される。前者は、財の価値を、人間の欲望を充足しうる財の能力に対する人々の重要性の評価であるとみる。後者は、財の価値は、その生産のために社会的に必要な労働時間できまるとみる。

さて、まず客観的価値にもとづいてビール会社がビールという「液体」を売っているのだとすると、ビール自体がもつ機能的な価値やかかった労働をもとにビールの値段がつけられるわけです。

客観的価値とはその財の生産に必要な労働時間(というか面倒なのでコストと言い換えましょう)で表せるという考え方ですので、大雑把に言うとコスト150円で作れる液体は粗利をのせて200円でいっか、みたいな感じで決まるわけです。(もちろん、もっとマーケティングを真面目にして精緻に決める企業もたくさんあると思いますが、それでもなお、この「コストドリブン」な値付けがされている側面も多分にあると思います。)

でも本当にその値付けでいいんだっけ?と最近よく考えるようになりました。あるモノ・コトに対する価値というのはこのような客観的にはかれる価値だけじゃなく、主観によってすごく変わると思うんです。これが主観的価値ですね。

例えば、あるアイドルの握手に1万円の価値があると思う人もいれば、そんなものに1円の価値もない、と思う人もいると思います。クラフトビール1杯に1,000円の価値があると思う人もいれば、それなら150円の第3のビールの方がいいわ、と思う人もいるわけです。いていいんです。

つまり、価値というのはどこまでいっても主観的なものなのだとおもいます。そして近年はモノのモノとしての価値というより、そのモノに対する主観的な価値、感情的な価値が全体の価値の中で大きな意味を持つようになってきていると思います。デザインが優れているから、その企業のものづくりに対する姿勢が好きだから、社会貢献していて好感が持てるから、他社より少し高くても払うという人も少なくないのではと思います。

有名な話として、スターバックスはコーヒーを売る会社ではなく、コーヒーを媒介にした空間・時間を売っている会社である、とよく言われます。スターバックスにコーヒーがおいしいからというだけの理由で行く人はそこまでいませんが、勉強・仕事をするために行くひとはとても多いですよね。
スターバックスのように自分たちの提供している価値の正体が何であるかを定義するのはとても大事なことだと思います。ちなみに、スターバックスがフランチャイズを出さないのは、フランチャイズにすると彼らが本来届けたい価値である「空間」の質を保証できないから、という話は僕のとても好きな話です。(彼らは少なくとも日本ではフランチャイズをしてません)

じゃあビール会社が提供する価値は何か?

さて、表題に戻ると、僕は、「ビールを売らないビール屋になりたいと思った。」わけなんです。これは僕が勝手に思っているだけで、「ビール会社はビールを売るものだろ」と思う人がいてもなんの問題もないわけです。ただ、ここで重要なのは「あなたの会社が提供している価値は?」という問いに対して真っ向から答えられるかどうかなのだと思います(もはやビール会社だけの話に限らなくなってきましたね、、、)

『あなたの会社が提供している価値は?』

「ビールという液体です」も、もちろん立派な答えです。でも僕はもう一歩先に行きたい。美味しいビールを作ってそれを飲んでもらう、その先を想像したい。僕らのビールを飲んだ人の人生がより豊かになるような、例えばこのビールがあったからいい人間関係に巡り合えたとか、このビールがあったから没頭できる趣味を見つけられたとか。

僕はビールの持つちからを借りて、誰かの何かとの大切な『縁』をつくりたい。そのためならかならずしもビールを売るだけである必要はなく、例えば古民家を改修して民泊業をはじめることも、地方で音楽イベントを開催することも、おしゃれなオートキャンプ場をつくって運営することも、すべてが挑戦する可能性があると思っています。わくわくするようなことを仕掛けていきたい。

『あなたの会社が提供している価値は?』

「ビールを媒介とした誰かと何かとの繋がり・縁をつくることです」
難しいけど、やっていこう。一緒に面白いことしようぜ、という方、大歓迎です。考えるところからでも、一緒にやりましょう。

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