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短編小説『クリスマス』

「今日なんかある?」

3歳年上のお姉ちゃんは私の部屋にノックもせず、
入ってくるなりいきなり尋ねてきた。

「デートだよ」

「あんた彼氏なんかいたっけ?」

「まだいないよ〜」

「まだって、何よ。
 てか、にやけないでくれる」

ぶっきらぼうに言ったつもりだったが、
顔がほころんでしまっていたようだ。

「お姉ちゃんは?」

「社会人は出逢いがないんだよ。
 あんたも今日しくじったら数年は確実にぼっち
 だよ。
 まあ、あたしとしたらウェルカムだけど」

ムッとした顔のまま、入ってきた時同様何も言わずに部屋を出て行こうとしていた。

「あ!」

「びっくりした。いきなり大声出さないでよ」

「ごめん。
 お姉ちゃんオシャレだしさ、
 どんな服装がいいかアドバイスしてくれない?」

「嫌だね。
 あんたのデートの手伝いなんかしたくないね」

「え〜。
 少しくらいいいじゃ〜ん」

私がそう言い終わる前に、お姉ちゃんは出て行ってしまった。
仕方ないかー、自分で考えるか。


うーん、どっちがいいんだろう。
いつの間にか窓の外からは、星が輝く世界へと向かう人達の声が聞こえ始めていた。
鏡の前で何回ファッションショーを開催しただろうか。
ベッドの上には何着もの服が広げられていた。
やっぱりお姉ちゃんにアドバイスもらいたかったけど。

よし、これで行こう。
黒を基調とした大人っぽいコーディネート。
着替え終わった時、スマホのアラームが鳴った。
もうすぐ家を出なければいけない時間だ。


「行ってきます」

靴を履きながらリビングに向かって声を掛けた。

「ちょっと待って」

リビングでテレビを観ていたお姉ちゃんが玄関までやってきた。

「これ」

手に持っていたのはお姉ちゃんが大事にしているティファニーのネックレス。

「これって・・・
 お姉ちゃんが、いつも絶対に貸してくれなかった
 ネックレスじゃん。
 いいの?」

「いいから後ろ向いて。
 どうせ首元寂しい格好してるだろうなと
 思ったよ」

「・・・ありがとう」

「うん。これでよし。
 あんたにしては可愛いよ」

いつもは冷たいお姉ちゃんの温かさが嬉しかった。

「何にやけてるのよ。
 早く行きなさいよ」


「うん。
 じゃあ、行ってきます」

毎年この日だけ地上に満天の星が光輝く世界へと、
ネックレスを胸に歩き出した。

おわり

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