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長い夜を歩くということ 87

 「今日は…お友達を連れてきてくれたの?」

ライブを終えた彼女は男の方を向いて微笑み挨拶をした。

男も笑顔を作りお辞儀をして名乗った。

彼はマスターに「あっちのテーブル席使うね」と一言だけ告げるとすぐに彼女の手を取った。

歌い終わったばかりの彼女の指は柔らかく熱を持っていたが、それ以上のことはわからなかった。

 彼らはいつものように色を注文し、男も困惑した表情を浮かべてから同じように色を注文した。

彼らの元には当然注文とは違う色のカクテルが運ばれ、男の元には注文通りの色のカクテルが運ばれた。

彼らは誰もいないかのように歌の感想を話してカクテルを飲み、今日の色について話してまた笑った。

時々、男が行列に割り込むように会話に無理やり口を出してきた。

その度に彼女が明るく笑いながら応対をした。

男は何の遠慮せずに笑っていた。彼は笑顔の男の細胞一つ一つにすら拷問をしたいほど怒りはあの日から引くことはなかった。

彼は彼女が男と話す間、一言も喋らなかった。

 彼女は「ちょっと他にもお礼を言ってくる」と席を立った。

彼は「じゃあ、今日はこれくらいにしておくからゆっくり話しておいで」と彼女を送り出した。

彼女がその場を離れると、彼は無言で立ち上がり会計を済ませ外に出た。

男は慌てて彼の後をついた。

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