長い夜を歩くということ 85
彼の付き合いはそれからさらに減った。
彼は自分が時間を削ってまで会っていた人たちがどれほど世俗的で表面的にしか物を見れない人間であったかを知り、口から出る言葉が菓子に張り付いたビニールのように薄っぺらく形だけであることに呆れた。
いっそ会うことを止めてみると、本当に仕事に必要な付き合いなど週に一度か二度程度しかないことがわかった。
そして、彼の付き合いの悪さが原因で会社に悪い影響が出るようなことはなかった。
それもそのはずで、すでに業界は彼の会社を中心に回っていたのだ。
彼は仕事をもらう立場ではありながらも、他の会社では提供できない規模、クオリティを持ち、業界を実質独占していた。
別の会社がほとんど仕事を依頼されないということだ。
彼は嬉しかった。
それは彼女と過ごせる時間が増えたということでもあり、彼女のまだ知らない姿をこの目で何度も見ることができるからだ。
未来の希望は、まるで星が生まれるかのように光り、彼の頭に浮かんでいた。
彼は彼女にプロポーズすることを決めていた。
密かにダイヤモンドの指輪を買い、そして、いつでも渡せるように書斎の一番上の引き出しに鍵をかけてしまっていた。
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