長い夜を歩くということ 116
「それは失礼しました。てっきり気分屋な女優さんなのかと思っていました。おしゃべりで悪戯好きなことはこれまでの会話でわかっていたのですが」
私の言葉に彼女は一度ため息をついて笑った。
「訂正してください。そして、深く反省してください」
彼女は真剣な目をして私を牽制する。少しふざけていることはわかった。
それも踏まえて「わかりました」と私は答えた。
彼女は「よろしい」と頷き微笑んだ。
「結婚は性格が良くて、男性を立てられるような、そんな奥ゆかしい女性から決まっていくなんて思っていたけれど、そんなことはないんですね。私の周りには綺麗で素敵な性格の女性がいっぱいいますが、その人たちよりも性格が強い人たちの方が先に結婚していきましたから。こう話してみると男性の大半は女性を見る目がないってことになるのかしらね?」
「峠を三回超えて、さらに狼が出る森を抜けて、その先の断崖絶壁を登って、やっと手に入る美しい花を、家に持ち帰って花瓶に生けようと思う村人はそういないでしょうからね。近くに生えてる可愛いタンポポで十分と思うかもしれませんし、時々、訪問販売してくるバラが美しかったら、それは幸運だと思って買ってしまうのではないでしょうか。そもそも、そんな遠い場所にある美しい花の噂が村人に伝わってくるのかも怪しいですし。美しい伝説を、そのまま美しく憧れるくらいの方が良いものだと納得させる人の方が多いと思いますよ」
彼女は感心したように大きな瞳をさらに丸く広げ、それから小さく笑った。
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