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長い夜を歩くということ 13
いつの間にかうたた寝をしていたらしい。
寝ぼけ眼で外を眺めると雨が降り出していた。
最初は途切れ途切れで小さく弱々しかった音も、段々と大粒に変わり、途切れることなく降り注いで庭園を濡らした。
砂利をえぐり沈む音。丸石の表面を叩く高い音。重みで揺れる葉の揺らぎ。
それらを私はぼんやりと眺めていた。
すると視界の端、対面の席にぼんやりと人影が映った。急いで視線を移す。しかし、そこには空の椅子があるだけだった。
そう、誰もいるわけがない。私は一人で来たのだから。
頭で念じると、煙が昇っていくように期待の熱りは消えて、私の座るものと同じ椅子が角のある輪郭を主張して現実を見せてくれた。
急に手持ち無沙汰になり、携帯を取り出すも病院からの連絡はない。
それはそうだろう。私の受け持っていた患者は彼女だけだったのだから。後輩や同期から相談されることもないわけではないが、今回限りはそれもないだろう。
つまり、私の携帯に「私のすべきこと」は一つもなく、少なくともこの旅行中にそれが発生することもしばらくはないということだ。
暇つぶしとしてのニュースアプリに至ってはしばらく開くことはしたくない。
結局私ができることもなく、何かできるのだとしても呆然とこの空間を眺めることしかない。
雨の音がこの優雅な場所にはふさわしくなかったが、雨のおかげで私は忘れてはいけないことを余計な感情だけを流して保つことができた気がした。
夕立だと思った雨は長く続いた。でも、勢いは弱まり穏やかで、この場所にいる全ての人を包み込むように優しく変わっていた。
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