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長い夜を歩くということ 56

 遠くに見ていたはずの満月に私は降り立った。

そう思った。

しかし、そこは満月であっても満月の部屋であった。

遊郭を思わせる絢爛な装飾は私の目には眩しく、朱色に染まったダイニングテーブルは地球上で初めて発見された色だと思わせるほど艶やかで繊細だった。

神山さんは「こちらへどうぞ」と手をソファに向けた。

昨日と変わらない優しい笑顔が私に向けられる。そのたった一つの接点が私が間違いを犯したわけではないと確信させてくれた。

アンティークのソファに座ることは憚られたが、「失礼します」と思い切って座った。

皮の感触が圧倒された体の緊張包み込み、ほぐしていく。

「ご夕食をお持ちいたしました」

呼び鈴が鳴り、玄関モニターには仲居が手を前で合わせてお辞儀をしている。

「おお、ちょうどよかった。入ってください」

神山さんはモニターに本物の顔でもあるかのように丁寧に優しく語りかけていた。

私はこんな時どうしたら良いのかわからず、手を肘掛に置いていつでも立てるようにするほかなかった。

仲居は肩幅を超える銀のトレイに料理を乗せて部屋に入った。

力強さすら感じさせる所作は手馴れたもので、手際よくテーブルの上に料理が並んでいった。

輝くように盛られた鯛のお作りが中央に置かれ、口を天井に向けたお頭と目が合った。

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