長い夜を歩くということ 49
橋を渡り切り、少し坂を登って右に曲がると、古き良き木造建築の平家が背を合わせて並んでいた。
開け放たれて、テーブルやものを載せた台があるのを見ると、きっとここは商店街なのだろう。
少しばかりあちこちを見回してから、私はそのうちの一つに吸われるように向きを変えて歩き、中のおばあさんに話しかけた。
「すみません。ラムネを一本ください」
居間に座っていたおばあさんは立ち上がり、腰を曲げ土間を擦りながら私の方に歩いてくる。
お金を渡すとガサツにポケットに突っ込んだ。
そして私の前に置かれたクーラーボックスを開けて、氷水に浸されたラムネを一本取り出すと、タオルで拭いてから私に差し出した。
水気の残った瓶は北極の氷を切り取ってきたかのように冷たく、首筋に当てると冷えた血液が体に流れている心地よさがあった。
こんな炎天下の中を動き回るのは中学校の部活以来だとふと思い、もう十年以上帰っていない地元の景色と目の前の商店街が重なった。
「ほら、そんなとこじゃ暑いから中の座敷でゆっくりしていきな」
おばあさんはぶっきらぼうに私を手招きすると、また土間を擦りながら歩き、居間に戻っていく。
その音が、なぜだか部活動のランニングを思いださせた。
大した思い出でもなかったはずのそれは、確かな別の記憶と結びつき、辿らせるように私も足を擦ってその音と足に残る感触を確かめた。
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