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長い夜を歩くということ 114

「確かに僕には女性を見る目はないでしょう。よかったら今後の女性選びの参考のために彼女について聞かせてくれませんか?」

「そうですね。このままでは先生が心配ですからね。お話ししましょう」

彼女はそう言うと膝上にかかった布団をポンッと軽く叩いた。私にもう少し寄れという合図だった。

女優が見せるいくつもの笑みが微細に異なっていて、院長の時と同じように、私は彼女の真意を理解する気が無くなっていた。

彼女の要望通り、女性が置いていた位置ほどに椅子を戻した。

ほぼ正面から見る彼女は朝日を浴びた粉雪のように透けて輝いていた。

 彼女はフッ、と一度と思い出し笑いをし、優しく頭を撫でるように話し始めた。

彼女が初めて担当になった時、スケジュールを詰め込みすぎて叱ったこと。

そして、その時の彼女のしおらしい態度と表情を見て、どれくらい持つだろうか不安に思ったこと。

時が経ち、仕事の取り組み方に猛烈にダメ出しをしてきて大げんかになったこと。

そして、担当から外れた今でも、しつこいくらいに自分の出演作品の感想を連絡してくること。

「絶対彼氏の携帯覗いて問い詰めるタイプよ」と彼女は私に一瞬だけ強い眼差しで刺してから笑った。

きっと女性が彼氏と口論になっている姿を想像したのだろう。その笑い方は口を右手で隠して、視線はだらりと布団の上に落とされていた。

夕暮れに一人でブランコに乗る小学生を見るようだった。

「でも先生。不思議よね」

彼女は生き返ったように私に視線を移し、軽快に言った。

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