長い夜を歩くということ 117
「先生はそんな小咄もできるんですね。驚きました。でも今回はこうして伝説の花が自分の足で玄関先まで来ているわけですから。これを逃す手はないと思いますよ」
「あいにく数ヶ月前にタンポポを枯らしてしまったばかりですから。育て方のわからない花を家に飾れる自信はありません。せっかくの機会ですが、お引き取り願います」
「あら、そうですか。それは嫌なことを思い出させてしまいましたね。それでは、また近いうちにお伺いさせていただきます」
私たちは小さく含んだ笑いを交わした。
蝶が緩やかな風を受けて飛んでいくように、彼女の体がベッドの上でふわりと浮かんでいるように見えた。
夏の叩きつけるような日差しが、その瞬間だけはベッドの上で柔らかくじゃれて転がっていた。
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