長い夜を歩くということ 80
「もしも、お金が必要ならうちの会社で働けばいい。私は君の助言があったから会社をここまで成長させることができたのだから、それくらいのポジションは準備しても文句は出ないだろう。私がどうにかする」
と彼は力強く答えた。
でも、彼女はプッと吹き出してから大笑いした。そして言った。
「いきなり目の見えない小娘を会社に連れてきて、影の功労者扱いして、助言を貰うようにしたら、それこそ社長がおかしくなったってみんな心配するよ?もしかしたら次の総会で不信任なんてことにもなりかねないんじゃない?そんなことになったら私たち一緒に住めなくなっちゃうじゃない」
想いだけが彼の胸の中でうねって心を焼く。それがもどかしく、このざらつく熱のやり場をどうにかしてしっかりと形に表したかった。
彼女は小さく息を吐き微笑んだ。
柔らかい笑顔が彼の中を痛めつける自己嫌悪を優しく振り払ってくれた。
「でも、ありがとう。一緒に暮らせるから内職の量も減らせてるんだよ。だから、真二も無理しようとしないでよね」
彼女の言葉には以前のような刺す強さは消えていた。
それは付き合うようになってからであり、きっと彼女の本質の別の一面なのだと彼は受け止めていた。
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