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長い夜を歩くということ 53

 歩きながら景色を眺める。

右を向くと厚く尖った葉の多肉植物が、私の肌を刺すほどの威圧で力強く四方に伸びている。

たった三十分で国を超えてしまったっかと思うほどにこの場所は南国だった。

松は岩場を飲み込むように幹を伸ばし、針の葉を自己主張するように空中に突き立てていた。

海岸には神様が遊びっぱなしで帰ったように、無骨な岩が無造作に転がっていた。

病院の白しか見てこなかったこの十数年間のおかげか、形も色も歪に変わるこの場所は、私に疲れを感じさせる暇を与えなかった。

むしろこの先にある未知の景色を求める少年の心が枯れていた泉から湧き出し、私の足をずっと休みなく動かし続けていた。

 不意に表れた木の進路図は雨風にさらされ、端は折れてささくれ立ち、カビで黒ずんでいた。

もともと書かれていたであろう文字はもっと濃い黒で「初島灯台」と書かれていた。

止まることのない足は振り子運動で文字が指し示す先へと歩みを進めていた。

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