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長い夜を歩くということ 17

 彼が四年生になる頃には、最初に見た東京の景色は、灰色のビルの四角い姿に変わり、その時覚えた絶望の感情は哀れな田舎者の夢であったとして、彼の中で書き変わっていた。

群れる人の数にも慣れ、人間関係の希薄さにも慣れた。博打も酒も女もすっかりと板についた。

しかし、どんなにはしゃいでも、勉学をおろそかにすることはなかった。

仕送りの一番上に乗せられた手紙を読む度に、彼の背筋は鉄柱を落とされたようにしゃんと伸びた。

十人の女性と付き合い、覚えていないくらいの女性を抱いた。同時に三人と付き合い、鉢合わせすることもあった。

しかし、女性からどんなに責められようと泣かれようと彼には痛くもかゆくもなかった。

逆にそういう女性たちを彼はただにこやかな笑顔で、料理のコースメニューを出して美しいフィナーレに導くように関係性の糸を淡々と細めて完結していった。

 彼にとって一番大事なことは「名家に恥じない人であること」であり、それは一番に「勉学」であり、モテるということは「魅力がある」という事実をわかりやすく表したものであるという認識でしか当時の彼には思っていなかった。

だから、「泣きつき」や「感情に訴える」という動物的本能をむき出しにする女性が自分の隣にいることはそれだけで「恥」であり、彼は一刻も早く距離を開けておきたかったのだ。

 そんな残酷さを持ち合わせていた彼であったが、一般的にはその明るい性格で先輩後輩を問わず多くの仲間を作った。

残忍さはドライとして受け入れられ、悪い噂が立つこともあったが、何よりも彼自身が全く気にしていなかった。

女性からは「プレイボーイ」なんて言われることはあっても、子供が危ないと言われるほどに好奇心を刺激されることと同じで、悪名は彼の魅力をより強く引き立てた。

彼は男女問わず真摯に相談に乗り、馬鹿話をして酒を浴びることもあった。

そういった屈託のない優しさが結局彼への評価を高めていた。

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