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長い夜を歩くということ 144

「少し汗をかいてしまったので窓を開けても良いですか?」

彼女は「どうぞ」と目尻に皺を作る。

大きなテレビに映る高校球児達はユニフォームを泥だらけにしながら、たった一つのボールの全ての面にその若く純粋な視線を浴びせていた。

「私、甲子園好きなんですよね。先生は見ますか?」

抗うように開かれた瞳は優しさの膜に覆われて、テレビの放つ青春の光を逃さないように映し吸収していた。

「学生の頃はなんとか見ていたのですが、実習が始まったあたりから見なくなってしまいましたね。麗華さんこそ、撮影があったりして甲子園を見る時間なんてなかったんじゃないですか?」

「そうね。集中してずっと見てられることはなかったわ。良いところで撮影になったりして、急いで戻っても次の試合の途中からなんてことがほとんど。だから、余計に好きになってしまったのかもしれないですね」

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