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長い夜を歩くということ 54

 人間とは違い、太陽光を懸命に求める樹々は、病院内での派閥のように音を立てず、バレないように葉を空の隙間に並べていた。

私はその恩恵を受けて、影で涼みながら歩いた。

アスファルトから土に変わり、足の裏はときどき石や張った根に押し返される。

それは親から受けるしつけのように、開放的になりすぎる心を諌めた。

樹々のトンネルを抜けた時、忘れていた強烈な日の光が身体中を覆い尽くした。

空を見上げると巨大な隕石のように威圧感のある太陽と楽天的に空をくすぐるヤシの木が映り、その様子はキャラの立った漫才コンビのようだ。

歩く地面は芝に変わり、緑と青の視界の中に白い灯台が現れた。

その姿は生き生きとした自然の中にあってか遠慮がちで、気の小さい巨人のようだった。

 入り口で入場料を払い中に入ると、少し湿気があり肌に汗が浮かんた。

展望台に続く螺旋階段は白い塗料が所々めくれ、その下の鉄には赤錆が浮かんでいた。

私はそれをゆっくりと登る。

歩く度、雨漏りがタライに落ちるように一定の金属音が鳴り、内部に反響して私の耳に届いた。

運動不足の足はようやく疲れを思い出したのか、一段ごとに重りをつけたように動かなくなっていく。

私は海に行った時と同じで四股を踏むように膝に手を当て、引き上げながら登る他なかった。

最後の一段を上がり、全体重をかけてドアを開けた。

その時、潮風が私を労うように肌を撫で爽やかな潮の香りを運んだ。

ほんの少し前までいたはずの本土を眺めると、奥に行くほどに高くなる景色の頂点に富士山が見える。

海を挟んだ場所でも見える動じない輪郭に、私の体は抱きしめられているような安心感を覚えた。

もう一度風が吹いた時、私の足は揺らいだ。

それは富士山からの強い檄であり、私は自分の足を押さえて、その風を耐え切ってみせた。

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