長い夜を歩くということ 84
一瞬だけ時が止まった。
彼はその間が訪れた瞬間、いや、それよりも前の覚悟を決めた時から、拳を握りしめていた。
肩に乗る彼らの手の感触が急に気持ち悪くまとわりつき、今すぐ切り落としてその口にねじりこんでやりたいと思った。
すぐに彼らはありきたりの言葉を纏わせ、彼女について興味ありげな態度を示した。
しかし、彼らの口が開けば開くほどに、彼の怒りの熱は身体中を回る血液に移り、全身を体の内側から焼き焦がしていった。
彼はなんとか冷静に
「少し仕事を思い出したので帰らせてもらう」
と告げて一五万円をその場所に捨て、立ち去った。
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