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長い夜を歩くということ 81

 彼は家に帰ることが待ち遠しかった。

彼の楽しみは水曜日だけではなくなり、毎日がカラフルに染まる。

そんな広告会社社長として社員たちに示しがつかないありきたりな表現しか出てこないくらいに、彼の日常は充実していた。

 付き合いでの会食は相変わらず多かったが、それでも、仕事にならないようなものについては彼は断るようになった。

付き合いが悪くなったことを咎める人間も多かったが、彼にはそんなことはどうでもよかった。

かえって一本通った行動が彼の時間の価値を高めてくれたのだろう。

彼は会食でより丁重に扱われるようになった。

それと同時に芸能人が色目を使って彼を誘惑してくることが増えた。

しかし、そんな選択肢を選んでしまっている時点で彼女たちはもう杏奈という女性に勝てるわけがないのだ。

彼は夏の桜でも見るように彼女たちに一線を引く笑みを浮かべ、そして、たくさんの愚痴を聞いてやり、彼女たちの汚れた心を洗い流し、タクシーに乗せて見送ってやった。

そして一人、別のタクシー拾って帰る。これもまた彼の日常になっていた。

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