長い夜を歩くということ 83
彼には多くの友達ができていた。
それは会食を重ねた結果でもあり、それよりも大きな理由は、彼の気さくで誰にでも優しい笑顔と社交性のおかげだった。
そして、その中には戦友と呼べるような人間もいた。
彼らはこのすばらしい友人を紹介したいと何度も会食に女性を連れてきた。
名家の令嬢にドラマや映画で主役を演じた女優。彼の好みを何度も聞いて彼らは彼のために紹介をしてくれた。
彼は同棲している彼女がいることをあえて言わなかった。
しかし、これほど熱心な彼らの思いを受け続けていると、彼は罪悪感を感じるようになった。
彼は仕方なしに彼女がいることを告げた。
彼らは突然クラッカーでも鳴らされたかのように驚いた表情を浮かべ、そして、喜びと安心の声を上げた。
「なんだ、それならもっと早く言ってくれればよかったのに」
と彼の肩を叩き、
「どんな人なのか?」
と当然聞いてきた。
その瞳は期待に満ちて輝いている。
彼は今更言うのが少し照れくさく、それとは別にある胸の奥の泥のようなざらつきを覚えながら
「よく行くバーで歌っている盲目の歌手だよ」
と無理矢理に吐き出した。
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