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長い夜を歩くということ 50

 言葉に甘えて座敷に上がると、首振り式の扇風機を自分の方に向けた。

窓からは海が見渡せた。昨日見た時よりも華やかで、ブーゲンビリアと同じで自由に踊っていた。

私はラムネをテーブルの上に置き、キャップを外し、プラスチックの蓋をラムネの飲み口に当てる。

一息ついてから、右手に体重をかける準備をして、一気に押し込んだ。

ドンッという音が悲鳴のようにテーブルから鳴った。

私は急いでラムネを口で覆った。

口の中を吹き上がる泡が弾け、一瞬で消える。吹き出すのが落ち着いてから、一度テーブルに瓶を置いて眺めてみた。

ビー玉は一つ目の窪みを左右に揺れている。その原因は炭酸の泡で、小さな泡がビー玉を下から突いてからかっている。

それは悪戯好きな子供と落ち着いた大型犬のじゃれあいのように思えて、私はほっと息をつくことができた。

ふと居間の入り口に目をやると金魚が描かれた風鈴がぶら下がり、店の中に紛れ込んだ風に流され、遠慮がちな音を私に届けていた。

私はビー玉を舌で押さえながらもう一口ラムネを飲んだ。

少しずつしか飲めないことが、子供の頃はもどかしく、何度もキャップを外しビー玉を取り出そうとしたものだ。

しかし、今の私はゆっくりと時間をかける良さをただ堪能していた。

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