長い夜を歩くということ 113
「できません。それで体調が悪化したなら、樺澤さんの身に何かある前に私の首が飛んでしまいますから」
「あら、それなら私も後追いしてあげますよ。こんな贅沢な事、世の男性は経験できない事ですよ?」
「残念ながら私の首は飛んでも死なないんです。後追いなんてされたら、その後に誹謗中傷の矢まで飛んできて、私は身元不明の首無し落ち武者になってしまいます」
彼女は口を手で隠して微笑んだ。私はすかさず問診を始めた。
幾つかの質問をして、彼女は昨日と同じ回答をした。
終わると一度下を向き、一息つくと、彼女はまた壁を見つめて喋り出した。
「彼女は私と一緒に育ってきたような子なのよ。だから、すごく心配しちゃってね」
彼女はそこに映っているかのように病院の白い壁をじっと見つめていた。
「そうだったんですね。とても優しくて思いやりがありそうな方に見えましたね」
「あら、先生は女性を見る目があまりよろしくないみたいですね。彼女はああ見えてスパルタでしたよ」
洋服に値札をつけたままの人を見たように彼女は私を小バカする。
少女が内緒話をするような表情は、たった一度だけ見たことのある銀幕の向こうの女優とは到底同じに思えなかった。
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