教育データ利活用ロードマップに関する考察

2022/1/7 に、教育データの利活用に関するロードマップが文部科学省から出されました。
こちらの内容を見て、考察してみました。

教育データ利活用ロードマップ:PDF (2022/1/7公開)

背景

求められる能力・社会構造・雇用環境の変化や子どもたちの多様化について、これまで画一的であった教育では対応することが難しくなってきました。
そこで、学校 ICT 環境を充実させることにより、社会ニーズに応えられるよう教育環境の構築をやっています。

しかしながら、教育環境の構築だけでなく、ICT 環境を使用した教育の質を高めることも必須となるため、教育データを蓄積して教育のさらなる高度化を図っていきます。
(海外においても、ICT 教育は進んでいます。)

なお、国としては人口が減少傾向にあり、教員を志望する人数も年々減少傾向にあります。
クラスに割り当てる教員数を増加させることが今後難しくなることが想定されるため、システム化できる部分を増やすことで、各教員が子どもに割ける時間を少しでも増加させようとしています。

内容

子どもの教育に関する PDS (Personal Data Store) をデータとして保持し、学校側が各人の最適な学習検討に使用したり、本人が家庭学習で利用したり、民間企業者が問題作成やより良い学習方法の開発に利用するというものです。

▼利用する想定のデータについて
・授業教材の利用状況
・学習履歴
・出席履歴
・健康履歴
・体力履歴

▼誰がどのような形で利用するのかについて
⇒管理の主体は、各地方自治体であり、国が構築して管理するものではないとのことです。
・本人:日々の学習状況やテスト結果から自己学習を進める。
・教員:日々の学習状況やテスト結果から、得手不得手や興味の有無を把握して、個人に最適な学習方法を検討する。
・民間事業者:地域の児童、生徒のテスト結果などから効果的な問題集などを作成する。
 ※テスト結果は、氏名等が分からないような形にシステム的に加工され、
   個人が特定的内容にする。または、学校や地域の平均などという形で
   傾向が分かるようにする。

▼教育データ利活用のゴール
幼児・小・中・高・大学・社会人・定年後と様々な年代での学習で利用できるようにするというのがゴールです。

▼その他
蓄積された教育データを連携して使用することについては、支援が必要な子どもを支援できるようにしたいという目的があります。

このため、教育データとして出席情報や健康情報が含まれています。
出席情報や健康情報を元に、医療機関や児童相談所と協力し合いながら対策することを可能にしていきます。

考察

▼本資料の内容について
教育データが一元管理される印象が強いものとなっています。

しかしよくよく読んでみると、p46「10.データ連携による支援が必要なこどもへの支援の実現」が、正確な内容であるように見受けられます。
PDS は自宅でのみ利用するものとなっていますし、健康履歴等が医療機関や児童相談所と結びついているのは、家庭環境に起因する事情によって教育を十分に受けることができない児童・生徒を素早くキャッチアップしようとしているからではないでしょうか。

p46 が本資料の最初にあると、印象や内容理解が違ったものになったと思います。

▼保持するデータについて
できることややりたいことに優先順位をつけることができていないからか、思いつくデータをマルっと取ろうとしているように見えます。
p35「8.教育データ利活用のルール・ポリシー(基本的な考え方)」においてスモールスタートを掲げてはいるものの、不要なデータを保持する可能性があると考えています。

優先順位や慎重に扱うべきデータを明確にし、慎重に扱うべきデータについてはしっかりと取得の要否を調査・検討していくべきかと思います。
ですので、段階的に取得・利用していく方が良いと思われます。

私個人としては、本資料の中で「流通」といった言葉を使用していることも何か引っかかります。
児童・生徒の一人ひとりの情報なので、他の表現の方が適切である気がしています。

▼民間事業者が利用するデータについて
民間事業者がデータを利用する例としては、次のようなものが想定されます。

(例)
地域や県、学校によっては、正答率がどういった分野に偏っているかが異なる場合があるかと思います。
苦手分野の傾向として、A 県では計算問題、B 県では図形問題が明らかになった場合です。

そういった教育データを元に、民間企業者が、A 県では計算問題の量が多い問題集を出したり、B 県では図形問題の量が多い問題集を出したりすることで、学力の効率的な向上を図ることができると考えられます。

上記問題集を作成する上で利用するデータはテストの正答率で、システム的に個人名が特定できないようにして、様々な側面から傾向を分析することになるかと思います。
(参考にする元データに、氏名や出席番号等が含まれないようにする等の対応を行います。)

ですので、民間事業者は「匿名化した学習データ」を利用するという内容になっています。
「匿名化した学習データ」をもう少し具体的に説明した方が良いと思われます。

▼民間事業者による教育データ利用で発生し得る問題
民間事業者も人間ですので、魔がさして教育データを漏えいさせることが絶対にないとは言い切れません。
このため、データを参照・取得した人物の明確化が容易になるよう、教育データにアクセスするアカウント 1 つにつき 1 名にした方がよいと考えています。
また、元データだけでなく、写真撮影等で持ち出されることがないよう、撮影機器持ち込み禁止にする必要もあります。

何より、問題の内容によっては相応の罰則が伴う旨の契約を、民間事業者と取り交わす必要があると考えています。
明記しなくても当たり前のことかもしれませんが、資料では記載した方が良いのではと思うところです。

他には、民間事業者が利用する元データ自体に個人特定が可能な情報を含めないようにするのが良いと考えます。

▼教育データ漏えいの懸念
・外部からの不正アクセスによって漏えいする可能性
なくなることがないものであるが故に、データの一元管理自体に賛否両論あるところです。
教育の質向上のためには必要と分かってはいますが、私も多少の不安はあります。
システム的に何とかするしかないと思われます。

・意図しない者からの漏えい
例えば、児童、生徒やがアクセスする ID とパスワードを入手した場合。
また、教員が教育データを閲覧できる PC などを持ち帰って業務を行った際、家族や友人目にしてその内容を他の人に話した場合です。

教育データを閲覧できるのを学校の特定の端末にした方が良いと考えます。
また、端末にログインしたタイミングで上司にメールなどで通知が行くなども良いかもしれません。

▼保持している教育データが正しいことをどうやって担保するか
誰かがアクセスした際に、間違ったデータを保持する可能性があります。
例えば、そもそも入力した内容自体に誤りがあったり(単純な入力ミス)、意図して間違ったデータにしたり(データ改ざん)、というものです。

複数人でダブルチェックするとか、原本の紙媒体と突き合わせるような仕組みを作ったりなどが考えられます。

⇒データ漏えいや改ざんを防ぐには、金融業界の PCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard)のようなセキュリティ対策フレームワークのようなものが必要であると考えられます。

まとめ

全体的には、いろいろやりたいことがありすぎて、どのような情報が必要で、どのように利用していくのかがボンヤリしているように思えました。

保持する情報について、利用目的や要否の判断はしっかり明確化してほしいものです。
これからブラッシュアップされていく必要があるものと考えています。

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