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垂直少年と水平少女の変奏曲〜加納円の大いなるお節介と後宮の魔女達~

第9話 少女と少年とチョコレート 4

 「マドカ君は不自然だとは思わない?

ルーさんはなんでいきなり電車通学から自動車通学にかわったの?」

「エッ。

そうなの」

雪美はヤレヤレと肩を竦める。

「最近、ルーさんを通学路や駅で見かけなくなったもの。

自動車で送り迎えされているとしたら説明が付くわ。

さっき夏目さんに剣突を食らわせて車に乗り込んだのはそう言うことだと思う」

「それは気付かなかったな」

「それにね。

生物室での一件の後すぐにルーさん、マドカ君と接触を持とうとしなかった?

わたくしにはコンタクトがあったわ。

でもね、なまじお互いの手の内を核心まで晒しあったせいか、マドカ君への罪悪感が気まずくてね。

うまく話ができなかったの。

その内ルーさんもなんとなくだけどわたくしを避けるようになったわ。

経緯が経緯だけにお電話も出来なくて・・・。今となっては後悔してる」

「僕は何度も、もの言いたげな先輩が近付いて来る度にスタコラ逃げ出していたな。

あれから家に電話もかかってこないし。

姉も首を傾げてた」

「逃げ回っていたなんて、小金井の事があったからかしらね」

「三島さん。

それはもう言わないで」

円は手を合わせて雪美を拝んだ。

「マドカ君はルーさんとよく電話でお話していたの?」

雪美は円から目を逸らし、柔らかな口調で詰問をカモフラージュする。

「まさか。

電話は姉にだよ。

どうやら先輩と姉は小中が同窓らしいんだ。

あんな姉だけどね。

先輩は一人っ子だろ。

お母さんも居ないし姉には随分と懐いてるよ。

流れで電話を替わることもあるけど、大抵は能力関連の一方的連絡やお指図だね」

雪美はルーシーの欺瞞を瞬く間に嗅ぎわける。

ルーシーの事だ。

双葉と同窓である事を幸いに、電話を介した円との会話を楽しんだのだろう。

もちろん雪美だって双葉の事を好きにならずには居られなかった。

口実があれば彼女とクラシック音楽について語り合ったり、世間話の一つもしてみたい。

ルーシーもそのことは同じだろうし一挙両得を狙う見事な戦術展開と言える。

「そうなの?

それではわたくしは双葉さんでは無くてマドカ君に直接お電話するわ。

よろしくって?」

事情を察したものの、多少の出し抜かれた感に思わず険が立つ雪美だった。

「エッ?

それは別に構わないけど話が脱線してない?」

雪美は円の質問をまるっと無視して残りのココアを飲み干す。

「今度はお紅茶にするわ。

・・・こちら良いですか?

アッサムをお願いします」

雪美は銀色のお盆を胸に抱き締めているウエイトレスを呼び止めオーダーをかける。

ウエイトレスは学生アルバイトなのだろう。

一目で高校生と知れるふたりに妙に余裕めかした視線を送り、雪美のオーダーを受けた。

 『奇麗なおねーさんなのに、あんな風にどたどたと音を立てて歩くなんて、意表をついて来るな。靴が重いのかな』

円がウエイトレスの後ろ姿を目で追っていると雪美の咳払いが聞こえた。

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